サイバーセキュリティーを担当する英情報機関がAI活用の指針を発表

GCHQを訪問したチャールズ英皇太子。左がジェレミー・フレミング長官(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]サイバー空間での情報収集とセキュリティーを担当する英政府通信本部(GCHQ)は25日、ますます複雑化する世界で国の安全を守るために人工知能(AI)を含めたテクノロジーが必要な理由を説明した報告書「AIの倫理:新しい国家安全保障を開拓する」を発表した。

GCHQはこれまでも、収集した情報の翻訳などにAIを活用してきた。地球上のすべての人が携帯電話で話せる日が近づき、ますます多くのものが「モノのインターネット」に接続され、データが2年ごとにほぼ倍になる世界では機械学習により情報やデータを処理するAIの活用は情報機関にとって不可欠になる。

米中間でAIの開発競争が進む中、権威主義国家の中国やロシアでは、AIの顔認証システムを使って新疆ウイグル自治区のウイグル族の監視を強化したり、偽のオンラインIDを大量生産したりするなど、民主主義社会の価値観と一致しない技術開発と利用が行われている。

コロナ危機では感染防止のため接触制限が実施され、オンライン上の活動が一気に活発化した。権威主義国家のハッカーが戦略物資になったワクチンの研究成果を盗み出そうとしたり、ワクチンのサプライチェーンを把握するためネットワークに侵入しようとしたりしていた。

元米国家安全保障局(NSA)のエドワード・スノーデン氏が2013年に米英の情報機関による市民監視プログラムを暴露して以来、サイバー空間におけるプライバシーやデータ保護に焦点が当てられてきた。しかし西側諸国が権威主義国家によるAI悪用に打ち勝つことができなければ「ディストピア社会」が到来する。

イギリスではAIの活用は調査権限法に基づいて許可され、大臣と調査権限委員会によって監督されている。反民主主義的なAIと闘うため、GCHQが掲げるAI活用の代表例は次の通りだ。

・外国の偽情報と闘うため、巧妙にIDを隠蔽した偽メディアの探知、ファクトチェックとブロック

・人身売買、麻薬、武器の密売国際ネットワークによる複雑な金融取引の連鎖を分析してマッピングする

・児童の性的虐待を防ぐため、チャットルームの分析

・イギリスをサイバー攻撃から守るため、悪意あるソフトウェアの特定

GCHQは、業界向けAI研究所を設立、ロンドンやチェルトナム、マンチェスターのスタートアップを指導・支援するとともに、データサイエンスと人工知能を研究するアラン・チューリング研究所をサポートするという。

GCHQのジェレミー・フレミング長官はこう話す。「AIは多くのテクノロジーと同様に、社会、繁栄、セキュリティーに大きな期待を抱かせる。 GCHQへの影響も同様に深刻だ。 AIは、国、市民、生き方を守るわれわれの使命にとって非常に重要だ」

「AIにより、われわれの優秀なアナリストは膨大な量の複雑なデータを管理し、未成年者の保護からサイバーセキュリティーの改善まで、ますます複雑化する脅威に直面した場合の意思決定を向上させることができる」

「この前例のない技術の進歩には大きなチャンスがあるが、GCHQを含む社会すべてに重大な倫理的課題を突きつけている。今日、われわれの使命におけるAIの倫理的な使用に関する計画とコミットメントを設定する」

「 AIの使用を支えるために、公平性、透明性、説明責任をどのように確保できるかについて、国内外でさらに考えるきっかけになることを願っている」

第二次世界大戦では、イギリスの天才数学者アラン・チューリング氏が「チューリング・マシン」を開発して、解読不能とされたナチスドイツの暗号機エニグマの解読に成功、コンピューターの開発に道を開いた歴史がある。

2016年には、ロンドンにあるAI会社ディープマインドが開発したプログラム「アルファ碁」が韓国のプロ棋士イ・セドル9段との5番勝負に3連勝して世界中に衝撃を与えた。

イギリスはコロナワクチンの開発競争で英オックスフォード大学・英製薬大手アストラゼネカが一角に食い込んだように、AI開発競争でも少なくとも1社が勝ち残ることを目標に掲げている。

AIに関するシンクタンク、オックスフォード・インスティテュートによると、昨年、政府のAI準備指標でイギリスはアメリカに次いで第2位となっている。

(おわり)