クリスマス中の都市封鎖はもう不可避だ

[ロンドン発]ボリス・ジョンソン英首相は19日緊急記者会見を開き、新型コロナウイルスの新しい変異株が急速に広がるロンドンやイングランド南東部、東部に警戒レベル4の都市封鎖(ロックダウン)を発動しました。感染力の強いこの変異株については14日、マット・ハンコック保健相が報告していました。

今回は地域限定とは言うものの、イギリスが都市封鎖を実施するのはこれで3度目。みんな3家族までは一緒に過ごせるクリスマスを楽しみに頑張ってきただけにショックは相当なものです。警戒レベル1(中)、2(高)、3(最高)は3家族が12月25日だけ集まることができます。

ジョンソン首相は今回の変異株について「感染者を重症化させ、死亡率を押し上げるという証拠はないが、はるかに簡単に感染するようだ」と報告。新興呼吸器系ウイルス脅威諮問グループ(NERVTAG)の初期の分析ではこの変異株は感染者1人から何人に感染するかを示す再生産数(R)値を0.4以上押し上げます。

最大70%感染しやすい

まだ不確実性は残るものの、これまで主流だった株より最大70%も感染しやすいそうです。すでにイギリスでは高齢者から集団予防接種が始まりましたが、ワクチンの効き目に影響があるかどうかはまだ分かりません。イングランド主席医務官のクリス・ホウィッティ氏は世界保健機関(WHO)に報告しました。

ホウィッティ氏の説明ではイングランド公衆衛生サービスのゲノム監視を通じて新しい変異株を特定。急速な感染拡大、モデリングデータからNERVTAGがこの変異株はより迅速に広がる可能性があると判断しました。変異株が死亡率を押し上げるか、ワクチンや治療に影響があるのかどうか調査が進められています。

筆者は少し前からロンドンの南東にあるケント州で異様に感染が広がっているのを不思議に思っていました。“コロナ除け”でロンドンから避難してきた人が感染を広げているのかと漠然と考えていましたが、その陰で感染力の強い変異株が猛威をふるっていたのです。

新型コロナウイルスは平均2週間に1度変異している

日本の国立感染症研究所(感染研)によると、新型コロナウイルスは一本鎖プラス鎖RNAウイルスで全長29.9 キロベース(kb)。塩基1個を1b(ベース)と表すので29.9kbとは29.9×1000(k)=2万9900個の塩基がつながっていることを意味しています。

ウイルスが増殖する時、遺伝情報をコピーしますが、この時、文字(塩基)を写し間違えてしまうことがあります。これが変異です。新型コロナウイルスにはミスプリを見つけて正しい文字に置き換える校正機能が備わっているため、インフルエンザウイルスほど速く変異はしないものの平均14日間に1度変異します。

ミスプリは完全には防げませんが、文字(塩基)が1つだけ入れ替わっても作られる単語(アミノ酸)が同じ場合、構成されるタンパク質は変わらず、短編小説(RNA)の物語は全く変わりません。自動車のボディーがいくら傷ついても、そのモデル自体やエンジン、ハンドルの機能が変わらないのと同じです。

ウイルスにとってミスプリはサバイバルのために欠かせない現象です。生存していくためには環境に適応できるようアミノ酸の配列を変える必要があるからです。新型コロナウイルスの変異について米ロスアラモス国立研究所が調べた変異株(D614G、いわゆる「欧州株」)が有名です。

新型コロナウイルスは表面に他のウイルスとは異なる「王冠(コロナ)」のような突起(スパイク)を持っています。この突起はスパイクタンパク質から成り、標的となる細胞表面の受容体(レセプター)結合と細胞侵入の中心的な役割を果たしています。

ロスアラモス国立研究所は世界中の患者から採取した新型コロナウイルスのゲノム情報を解析。その結果、スパイクタンパク質の変異を特定し、欧州で被害を広げたD614Gが他の地域でも最も優位的な変異株になっていることを突き止めました。今回の変異株はその「欧州株」を上回る恐れがあるので警戒が必要です。

「ワクチン接種を可能な限り迅速に展開することが重要だ」

英免疫学会元会長でインペリアル・カレッジ・ロンドンのピーター・オープンショー教授は次のように警鐘を鳴らします。

「このニュースを真剣に受け止めるのは正しい。3万のヌクレオチド(リン酸・糖・塩基でできている)の遺伝暗号に23の変異が起きている今回の変異株は約40〜70%感染性が高いようだ。倍加時間も6~7日で制御することが重要だ」

「感染力が高まる理由はまだ明らかではない。ウイルス複製の増加によるものか、鼻や肺の内側を覆う細胞への結合の改善によるものなのかを知る必要がある。まだ証拠はないものの、過去の感染またはワクチン接種によって生成された免疫をウイルスが回避しないと考える十分な理由がある」

「イギリスで35万人がすでに米ファイザーと独ビオンテックのワクチンの1回目接種を受けていることは注目に値する。最も脆弱な人々への感染の影響を制御し、最前線の労働者を保護するために、ワクチン接種を可能な限り迅速に展開することが重要だ」

英ウォーリック医科大学のジェームズ・ギル名誉臨床講師は「新型コロナウイルスの遺伝暗号を監視する任務を負った全国の研究所による作業でこの新しい変異株を検出して対処することができた。現在の状況では非常に強力な措置を講じることが正しい」と評価しています。

「科学と医学はデータによって進歩する。データに従わずに行動することは愚かであり、危険でもある。データは新しい変異株のため感染が増加していることを示唆しているので、さらに新しいデータを収集するため、いま制限を強化するのは賢明な判断だ」

「都市封鎖でもこの変異株には対抗できない」

英イーストアングリア大学ノリッジ医学部のポール・ハンター教授は「新しい変異株は単一の変異によるものではなく、23の変異があり、その多くはウイルスが細胞に侵入するために使用するスパイクタンパク質に関連している。この亜種は9月にロンドンまたはケント州で発生したと考えられている」と解説します。

「ウイルスが変異して感染性が高まるのは驚くべきことではないが、私が予想していたより憂鬱なニュースだ。R値が0.4以上増加するのは非常にまずい。2度目の全国都市封鎖が実施された11月、私たちが達成できた最高のR値は0.8から1.0の間だった」

「全国都市封鎖に戻ったとしてもR値を1.0未満に下げるにはまだ十分ではない。3月と4月の全国都市封鎖に戻ってもR値を1.0未満に下げるかどうかさえ不確かだ。おそらく私たちが今期待できるのは、ジョンソン首相が発表した措置によって流行がそれほど急速に増加しないことだけだ」

「いま展開しているワクチン接種プログラムでは接種しないことを選択した人々を保護する可能性はさらに低いことを意味している。新しい変異株がイギリス全土に広がるのは避けられない。海外に広まったという証拠はまだ分からないが、時間の問題であり、他の国でも同様の問題が発生するのではないかと思う」

2メートルの感染防止距離、マスク着用、手洗い、3密(密閉・密集・密接)回避、換気という個人対策とクラスター(感染者の集団)対策という保健師の職人芸に頼る日本のコロナ対策。感染力が強い変異株の発生で水際作戦の強化は避けられず、東京五輪開催のハードルは一段と高くなったと言わざるを得ないでしょう。

(おわり)