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「次の48時間が重要」症状改善するも予断許さないトランプ大統領 おろそかにされたクラスター対策

木村正人在英国際ジャーナリスト
現在の症状を動画で知らせるトランプ米大統領(本人のツイッターより)

集団感染11人

[ロンドン発]米大統領選の投票日まで1カ月を切る中、ドナルド・トランプ米大統領が新型コロナウイルスに感染した問題で、血中酸素濃度が一時、急速に下がり、ホワイトハウスに重大な懸念を引き起こしていたことが明らかになりました。

これから48時間が山場になります。トランプ大統領は最新のツイートに動画を投稿。スーツにノーネクタイ姿で「私は気分がよくなかったが、今はずっと良くなっている。次の2~3日は分からないが、本当のテストになる。われわれは新型コロナウイルスを完全に打ちのめす」と宣言しました。

トランプ大統領を含め周辺の感染者が計11人にのぼり、感染防止のためのマスク着用と接触制限を無視したことがクラスター(感染者集団)を発生させていた実態が浮き彫りになってきました。

トランプ大統領の最近の動きを米紙ニューヨーク・タイムズや米公共ラジオネットワーク、ナショナル・パブリック・ラジオ(npr)から追っていきましょう。

【トランプ大統領の動きと感染者】

9月25日金曜日、ワシントンのトランプ・インターナショナル・ホテルで資金集めイベント。後にロナ・マクダニエル共和党全国委員会委員長の陽性判明

バージニア州ニューポート・ニューズで選挙集会。同行したトランプ氏の最側近ホープ・ヒックス大統領顧問の陽性が後に判明

9月26日土曜日、ホワイトハウスのローズガーデンで連邦最高裁判所判事に筋金入りの超保守派エイミー・バレット氏を指名するセレモニーを開催。

セレモニーに参加したメラニア夫人クリス・クリスティ元ニュージャージー州知事トム・ティリス上院議員マイク・リー上院議員ジョン・ジェンキンス米ノートルダム大学学長ケリーアン・コンウェイ大統領顧問の6人の陽性が後に判明。

選挙集会のため夜遅くにペンシルバニア州に飛ぶ。ヒックス氏も同行

9月29日火曜日、オハイオ州クリーブランドで開かれた大統領選討論会に出席。トランプ大統領の家族とゲストはスタッフからマスク着用を求められるも、討論会場で着用せず。

司会者によると、トランプ大統領は到着が遅れたため、討論前の検査を受けず。

同行したメラニア夫人ヒックス氏のほか、選挙キャンペーンの鍵を握るビル・ステピエン選挙対策本部長も後に陽性判明

9月30日水曜日、トランプ大統領は資金集めと選挙集会のためミネソタ州に飛ぶ。報道によると、ヒックス氏は気分が悪くなり、ワシントンに戻る大統領専用機「エア・フォース・ワン」の機中で隔離を試みる。

後にニコラス・ルナ大統領アシスタントから陽性反応

10月1日木曜日、トランプ大統領は資金集めの屋内集会のためニュージャージー州に飛ぶ。集会参加者の大半はマスクを着用せず。

ヒックス氏の陽性確認を受け、トランプ大統領もメラニア夫人とともに検査を受け、結果を待っていることを明かす。

トランプ大統領の陽性と発熱が確認され、重症化を防ぐため治験中の米製薬大手リジェネロン社の抗体カクテルREGN-COV2などを使った治療が始まる

10月2日金曜日、午前1時すぎにトランプ大統領がメラニア夫人とともに陽性が確認されたとツイート。

マーク・メドウズ大統領首席補佐官は「トランプ大統領の症状はマイルド」と報道陣に語るも、後に「トランプ大統領の血中酸素濃度が急速に低下したが、信じられないほど回復した」ことを明かす。

ホワイトハウスの医師ショーン・コンリー氏は「大統領は疲れているが、元気だ」と記す。

午後6時、トランプ大統領は専用ヘリコプターでワシントン近郊のウォルター・リード米軍医療センターに運ばれる。

支援者からの激励に感謝する動画をツイッターに投稿、「私はとても元気だ」と語る。大統領専用ヘリ「マリーン・ワン」に乗り込む前に報道陣に向かって親指を上に突き出す

新型コロナウイルスの治療薬として米食品医薬品局(FDA)の承認を受けている抗ウイルス薬レムデシビルも投与。発熱が収まる

10月3日土曜日、コンリー氏らホワイトハウスの医師団が報道陣向けブリーフィングで「トランプ大統領の疲労と穏やかな咳は改善している。この24時間、熱は下がっている」と安堵の表情を浮かべる。

米軍医療センターに運ばれてからは酸素吸入は行っておらず、現在、トランプ大統領は歩行可能と説明するも、酸素吸入の有無については直接言及せず。

メドウズ大統領首席補佐官が報道陣に「大統領のバイタルサインはこの24時間、非常に心配だった。次の48時間が重要だ。完全な回復への明白な道が開かれているわけではない」と明かす。

トランプ大統領が「偉大なるウォルター・リード米軍医療センターの医師、看護師、すべてのスタッフ、その他の機関の皆さんの働きは実に素晴らしい。現代のペスト(新型コロナウイルス)との過去6カ月の闘いにおいて大きな進歩が遂げられた。彼らの助けで私は気分が良い!」とツイート。

医師団によると、ウォルター・リード米軍医療センターにおけるレムデシビルの治療が5日間に及ぶ可能性に言及

英首相官邸でも3月にクラスター発生

ボリス・ジョンソン英首相が新型コロナウイルスに感染し一時、集中治療室(ICU)に運び込まれたイギリスでも首相官邸を中心にクラスターが発生しました。

【3月5日ブリュッセルでEU離脱交渉】

・欧州連合(EU)側の首席交渉官ミシェル・バルニエ氏(3月19日陽性判明)

・イギリス政府の首席交渉官デービッド・フロスト氏(3月20日軽い症状が出て自己隔離に入る)

【首相官邸】

・ドミニク・ラーブ外相(3月11日、風邪の症状がみられるも陰性判明)

・英大学インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン教授(政府の新型コロナウイルス感染症数理モデルの責任者、3月18日乾いた咳が続き、高熱が出たため自己隔離)

ジョンソン首相(3月27日陽性判明、軽い症状、ICUで治療)

・婚約者のキャリー・シモンズさん(軽い症状で自己隔離し、快方に向かっていると4月4日に発表。妊娠中)

マット・ハンコック保健相(3月27日陽性判明、軽い症状、回復)

クリス・ホウィッティ・イングランド主席医務官(3月26日夜、症状が出たため自己隔離。回復)

ドミニク・カミングス首相上級顧問(3月30日、症状が出たため自己隔離入り)

【英王室】

チャールズ皇太子(3月25日陽性判明)

・カミラ夫人(陰性判明)

マスク着用や接触制限をおろそかにすると、クラスターの発生は防げません。

抗体カクテルREGN-COV2の効果は

トランプ大統領の回復の鍵を握るとみられるリジェネロン社の抗体カクテルREGN-COV2の投与について、オックスフォード大学のマーティン・ランドレイ教授(疫学)は改めて次のように述べています。

「リジェネロン社の抗体治療薬は非常に有望ですが、まだ証明されていません。新型コロナウイルスの外側にあるスパイクタンパク質に結合し、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぎます」

「この抗体治療薬には、2つの異なる抗体が含まれており、スパイクタンパク質の異なる部位に結合します。スパイクタンパク質の部位が変異しても、もう一つの部位に結合するよう設計されています」

「比較的軽症の数百人の患者が第2相試験でこの薬を投与されています。これまでのところウイルス量を減らすのに効果的であることを示しています」

「しかし入院期間の短縮、人工呼吸器の必要性の削減、生存率の改善など患者の症状を改善させるかどうかを知るには治験の範囲が小さすぎます」

イギリスでは国民医療サービス(NHS)病院で最大4000人が参加してランダム化比較試験が行われています。トランプ大統領が回復したとしてもREGN-COV2の効果は大規模なランダム化比較試験の結果を待たなければなりません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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