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中国から”謎の種子”日英米に届く「バイオセキュリティー上のリスク」新手の送りつけ商法の可能性も

木村正人在英国際ジャーナリスト
中国から送りつけられてきた謎の種子を伝える英紙デーリー・テレグラフ電子版

[ロンドン発]中国から日本やイギリス、アメリカ各地に頼みもしていない植物の種子が「ピアス」と偽って国際郵便で送りつけられていることが分かりました。

英環境・食糧・農村地域省は「バイオセキュリティーのチェックを逃れており、知らずに植えると潜在的な脅になる」と注意を呼びかけています。

英紙デーリー・テレグラフによると、アメリカの27州も同じような警告を発しています。英王立園芸協会のバイオセキュリティー専門家、リサ・ワード氏は同紙にこう警鐘を鳴らしています。

「大きなバイオセキュリティー上のリスクです。(電子商取引で同じような大きさと重さの“ピアス”と偽って植物の種子を送りつける)こうした方法で国に潜り込む種子に関連した病原体がいくつもあります」

英環境・食糧・農村地域省は「ピアス」と偽って植物の種子が中国や東南アジアから送りつけられてくるケースが相次いでおり、すぐに植物防疫官に届けるよう呼びかけています。キュウリやベニバナ、ブロッコリーというラベルの付いた種子も含まれていたそうです。

植物の病害虫が海外から侵入することを防ぐために各国では「輸入検査」や「輸出検査」が行われています。しかしアマゾンなどを通じて電子商取引が活発になっているため、目の届かない違法取引が増えています。

アメリカではこの数週間にわたって、テキサス、オクラホマ、アラバマなどの州の世帯に謎の種子が入った小包が送りつけられています。ラベルには「宝石類」と記されているそうです。

テキサス州のボーガー・ニュース=ヘラルド紙に対し、植物病理学者のケビン・オング博士は「どんな種子なのか分かりません。何の種子か分からないと私たちの農業を有害な雑草にさらす恐れがあります。それが定着したら農業に悪影響を与える恐れがあります」と指摘しています。

これらの種子は自然に発芽する可能性があるため、絶対に廃棄せずに、米農務省に全て報告する必要があります。

テキサス州農業省のシド・ミラー委員は同紙などに「スーパーマンの弱点である物質クリプトナイトのように扱って。小さな侵入者はテキサスの農業を破壊する恐れがあります。テキサス州の住民を保護するためにこれらの未知の種子を分析中」と話しています。

謎の種子を受け取ってもビニールの包装を開けないよう呼びかけています。

日本の農林水産省も7月31日「最近、注文をしていないのに海外から種子が郵便などで送られてくる事例があるようです」という注意をホームページに掲載しました。

農水省によると、植物防疫官による検査を受けなければ、種子などの植物は輸入ができません。輸入時の検査に合格した場合は、外装に合格のスタンプが押されます。もしスタンプのない植物が届いたら、そのままの状態で植物防疫所に相談するよう呼びかけています。

「心当たりのない種子が届いても、庭やプランターなどに植えないでください。種子がビニール袋に入っている場合は、ビニール袋を開封しないでください」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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