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世界経済5.5%縮小とCO2排出17%減の収支決算 コロナ危機を脱炭素社会へのバネにできるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
コロナ対策の都市封鎖で自然が蘇ったインド・ニューデリー(写真:ロイター/アフロ)

CO2排出は2006年レベルに

[ロンドン発]新型コロナウイルス・パンデミックで都市封鎖が行われた結果、今年4月上旬の時点で二酸化炭素排出量が昨年に比べ17%(日量1700万トン)減少したとの査読付き論文が英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに掲載されました。排出量は2006年レベルまで改善しています。

昨年、二酸化炭素排出量は日量で約1億トン。今年4月初めの排出量は8300万トン。パンデミック前は毎年1%ずつ二酸化炭素排出量が増えていました。第二次世界大戦後、最も多く二酸化炭素排出量が減る可能性が出てきました。

世界の二酸化炭素排出量(IGES提供)
世界の二酸化炭素排出量(IGES提供)

グローバル情報会社IHSマークイットによると、世界経済は1930年代の世界大恐慌以来、最悪の状況です。中国の実質GDP(国内総生産)は今年第1四半期、前期比で過去最高の年率33.8%も縮小。アメリカも第2四半期に36.5%以上縮小すると予測されています。

今年、世界の実質GDPは5.5%減少すると予測されており「主要国の生産がパンデミック前のレベルに戻るのは早くても2022年初め」だそうです。今年のGDP成長率は日本5.5%減、アメリカ7.3%減、ユーロ圏8.6%減、中国0.5%増となる見通しです。

日本のCO2排出は26.3%減

欧米豪の科学者チームが世界の二酸化炭素排出量の97%を占める主要69カ国の二酸化炭素排出量を分析したところ、4月末までで10億4800万トンの二酸化炭素の排出量が減ったとみられています。中国2億4200万トン減、アメリカ2億700万トン減、欧州1億2300万トン減、インド9800万トン減でした。

まず、論文から排出7大国について1日最大でどれだけ減少したかを見ておきましょう。

(1)中国23.9%減

(2)アメリカ31.6%減

(3)インド25.7%減

(4)ロシア23.2%減

(5)日本26.3%減

(6)ドイツ26.4%減

(7)韓国14.7%減

日本の二酸化炭素排出量(IGES提供)
日本の二酸化炭素排出量(IGES提供)

陸上輸送のCO2排出50%減

二酸化炭素を排出している6大セクターは次の通りです。

(1)発電44.3%

(2)産業22.4%

(3)陸上輸送20.6%

(4)公共施設・商業4.2%

(5)住宅5.6%

(6)航空2.8%

都市封鎖や社会的距離が一番厳しくとられた時点で二酸化炭素の排出量がどれだけ減ったかをそれぞれのセクター別に見ると――。

(1)航空75%減

(2)陸上輸送50%減

(3)産業35%減

(4)公共施設・商業33%減

(5)発電15%減

(6)住宅5%増

二酸化炭素排出量削減に寄与した割合で見ると――。

(1)陸上輸送43%

(2)産業と発電43%

(3)航空10%

論文は3つのシナリオを検討しています。

【シナリオA】

6月中旬までに都市封鎖が解除され、人の移動や経済活動がパンデミック前の状態に回復した場合、今年の二酸化炭素排出量の削減は約4%に留まる。

【シナリオB】

ある程度の移動制限が今年いっぱい続いた場合、7%削減。

【シナリオC】

7月後半にパンデミック前の状態に戻った場合は約5%の削減。

不確実性を加味した場合、削減幅は2~13%になるそうです。しかし新型コロナウイルスによる二酸化炭素排出量の減少が気候変動に与えるインパクトはそれほど大きくありません。

2015年、新たな地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」では世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて摂氏2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることで世界196カ国の国・地域全てが合意しました。

しかし「アメリカ第一主義」を掲げるドナルド・トランプ米大統領はパリ協定からの離脱を表明。

昨年11月に発表された国連環境計画(UNEP)の報告書は、2020~30年の間、排出量を毎年7.6%ずつ削減していかなければ1.5度に抑えるというパリ協定の目標を達成する機会を失うと警告しました。2度未満に抑制するには年間排出量を2.7%ずつ減らす必要があります。

怖い封鎖解除後のリバウンド

2008年の世界金融危機では、翌09年に二酸化炭素排出量は1.4%減ったものの、10年には5.1%のリバウンドがありました。今回のパンデミックでも恐慌を回避するため、旧態依然たる炭素経済への投資が行われ、大きなリバウンドが起きる恐れがあります。

論文の筆頭著者である英イーストアングリア大学ティンダル気候変動研究センターのコリーヌ・ルケレ教授は都市封鎖の期間だけ二酸化炭素の排出量が減っても生活は豊かにならないとして、コロナ危機を利用して脱炭素経済を目指すよう促しています。ポイントは次の通りです。

・しばらくの間、社会的距離を保てるウォーキングやサイクリング、自転車利用を支援する。ニューヨーク、ベルリンなどの都市は歩行者やサイクリストが安全に移動できるように街路空間を再利用しており、一部の変更は永続的になる可能性がある。

・クリーンエネルギーと電気自動車の推進。

・在宅勤務の支援。

・地元の観光業や企業向けのビデオ会議をサポートすることで航空需要を削減。

コロナ経済対策は温暖化対策を考慮せよ

ルケレ教授は次のように提言しています。

「外出制限措置により、エネルギー使用量と二酸化炭素排出量は大幅に変化しました。しかし、これらの極端な減少は経済・輸送・エネルギーシステムの構造的変化を反映していないため、一時的なものに終わる可能性があります」

「新型コロナウイルス後の経済政策を計画する際に、世界の政治指導者が気候変動をどの程度考慮するかは今後数十年間の世界の二酸化炭素排出に影響を与えることになります」

「温暖化対策、特に移動の向上に貢献する経済刺激策を実施することにより現実的で耐久性のある変化をもたらし、将来の危機への耐性を高める機会になります」

「例えば都市や郊外ではウォーキングやサイクリング、電気自転車の普及をサポートすれば、道路を建設するよりも安く生活の質と空気を良くするでしょう。さらに社会的距離を保つこともできます」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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