新型肺炎で一斉休校になったイタリアの「超現実」 無観客試合のセリアA 接近禁止距離は 2メートルに
感染者3000人以上、死者107人
[ロンドン発]新型コロナウイルスの流行でイタリアの感染者が3089人、死者も107人になったことから、同国政府は3月4日、全国の学校と大学を10日間にわたって休校にする方針を決めました。
イタリアの失業率は9.7%と高止まり。経済協力開発機構(OECD)の暫定的な経済見通しでは昨年0.2%だった成長率は今年ゼロ成長になるだけに経済への影響は深刻です。
イタリア20州のうち19州に感染が広がり「地域流行期」から「国内感染期」に移行したかのような様相を示しています。
イタリアのエピセンター(発生源)に近い北部ミラノ周辺で暮らす知人の政治研究者セレーナ・ボルピさんに連絡を取ってみました。以下はセレーナさんからの報告です。
「私はミラノ近くの2都市で英語の教師をしています。初心者から上級者まで、あらゆるレベルの社会人に英語を教えています。クラスの中には地元の図書館で行われるものもあれば、隣町の語学学校で行われるものもあります」
「先週学校は閉鎖されました。今週もまだ閉鎖されています。追って通知があるまで私が担当するクラスは全てキャンセルされました。現時点では学校は3月8日に再開されると考えられていますが、4日に全国一斉の10日間の休校が決まりました」
オンライン授業とウェビナーを準備
「もっと時間がかかるかもしれないという印象を受けています。というのも、私が働いている学校では休校になったクラスを補うことになっています。休校が延長された場合、オンラインのクラスを提供する予定です」
「まだセットアップの必要があります。一部の教師はこれまでオンラインで教えたことがないため時間がかかります。私の姉妹は高校の先生で、同じことが起きています。彼女はすでにオンラインクラスを持っていますが、すべての先生が準備できているわけではありません」
「自宅からオンラインで授業をできるように、先生向けのセミナーを開いています。正直なところ2週間前に誰かが、私たちが今置かれている状況が到来すると言っても、おそらく信じなかったでしょう。事実、現在の状況は超現実的です」
「学校が休校とされているだけでなく、大学、ジム、スイミングプール、劇場、映画館、美術館、展示会も閉鎖されています。イタリアではカフェ、ほとんどはバーなんですが、朝食も提供しています。先週、午後6時には閉店するよう求められました」
「バーがディナー前に混雑し、カウンターで隣の人と接近しすぎないようにするためです。レストランや適切なキッチンのある大きな場所は当てはまらず、数日間は開かれていました」
飛沫感染を防ぐために設けられた2メートルの間隔
「現時点では、1メートルの距離を置く規則または“飛沫距離”が設けられました。つまり公共の場にいる人は少なくとも1メートルの距離を置く必要があります」
「ほとんどの場合、飛沫は人間の目で見ることはできませんが、会話している時に出る飛沫を避けるために必要な空間です。この種の距離は全ての公共の場で保たれます」
「例えば、展示会や博物館を再開するための新しい規則ですが、3日夜に政府は2メートルの“飛沫距離”が必要と発表したので、1メートルでは十分ではありません」
「私の町の人口は8万人で、私が教えている隣町は約12万5000人です。両方ともミラノと境界を接していますが、イタリアのエピセンターとは反対方向です。私たちは“イエローゾーン”であり、隣町で1例、私の町でも3日、最初の症例が見つかりました」
「私は軽い風邪の症状や咳、いかなる症状もありません。今日、自分の体温をチェックしました。およそ36度だったので、熱はありません。最初は心配していませんでしたが、今では軽度の症状や全く症状がない場合でも新型コロナウイルスをうつす可能性があると言われています」
「80代半ばの両親が心配」
「私は近くに住んでいる80代半ばの両親が心配です。65歳以上の人は緊急の用件以外は外出を避けるべきだと言われています。イタリアもおそらく日本と同じように長寿国の一つなので65歳以上と言ってもそれほど年をとっているわけではありません」
(筆者注)イタリアの死者は基礎疾患を抱える高齢者が大半。死亡した最年少の患者は55歳だが慢性疾患を抱えていた。健康な61歳の医師も亡くなっている。
「私はミラノだけでなく、フィレンツェの国際大学でも教えていました。主にアメリカの大学の学部学生を対象にファッションの人類学コースを開いていました。学期は今年2月初めに始まりましたが先週、電車のダイヤがマヒしてフィレンツェに行くことができませんでした」
「今週は大丈夫ですが、学校は私が教えに行くことができないことを知らせてきました。なぜなら私が新型コロナウイルスの広がっている地域から通勤しているからです。フィレンツェのあるトスカーナ州では少数の例しかないので、問題になるかもしれないと思っていました」
イタリアへの渡航再考を促したアメリカ
「問題はその間にアメリカ国務省がイタリアをレベル3(北部のロンバルディア州とベネト州でコミュニティーレベルでの感染が広がり、地域的な隔離措置がとられているため渡航を再考するよう助言)にしたことです。もしできるなら旅行しないでというのと同じです」
「米デルタ航空とアメリカン航空が5月上旬までミラノ便を運休にしました。英ブリティッシュ・エアウェイズと格安航空ライアンエアーがイタリア便をキャンセルしています。3月に予定されていたイベントは5月かそこらに延期されました」
「イタリアはもはや滞在するのに安全な場所とはみなされなくなったので、私のクラスの学生はアメリカの大学から帰国するよう促されても不思議ではありません。おそらく私はこれ以上教えることはないかもしれません。次の学期に来たいという学生を見つけるのも難しいでしょう」
「イタリアで秋学期(9月から)を始めたいと考えていたら今から計画を立てるべきですが、今のような状況では誰もそれを行うことはできません。確かなことは分かりません」
セリアAも無観客試合
「学校の修学旅行や訪問は3月15日まで延期されています。私はもっと長く延期され、最終的には中止になると考えています」
「サッカーのセリエAの試合も延期され、セリアAを含め全てのプロスポーツ、ラグビーのシックス・ネイションズも1カ月間、日本のプロ野球と同じように無観客試合が行われる予定です」
「サッカーの無観客試合が行われた場合、イタリア人は不平不満をぶちまけるのに対し、日本人は緊急時には社会の共通利益のために責任感を持って敬意を払って行動するという差があるとテレビでは語られています」
中国人が経営する店は閉鎖された
「私の町では中国人が経営するほとんどの場所が閉鎖されました。ネイルスパ、美容院、衣類・家庭用品店もあります。顧客の大半がイタリア人で、中国人または中国系の人々が経営するバーもあります」
「通常は日本の寿司や中華料理を提供する中華レストランの一部だけが平常通り営業している唯一のレストランのように見えます。張り紙を見ると閉鎖は2月27日からで再開の日は3月12日まで延期されています」
「ミラノやイタリア内陸部で起きたことはイタリア北部に限らず他の町でも起こっています。例えば、数日前、南部のナポリでも店が閉鎖されたという記事を読みました」
「観光は深刻な影響を受けています。フライトはキャンセルされ、予約を取り消しています。代金は100%払い戻されます。政府は支援を行っており、観光部門で働く人たちは税金を支払う必要はありません。しかしそれだけでは十分ではないかもしれません」
(おわり)