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「トランプ政権はイラン核合意離脱後の戦略がない」駐米英国大使の公電スクープ第2弾 超タカ派は攻撃主張

木村正人在英国際ジャーナリスト
次期首相当確のジョンソン前外相に見捨てられたダロック駐米英国大使(写真:REX/アフロ)

公電リークは「犯罪」か「報道の自由」か

[ロンドン発]ドナルド・トランプ米大統領を激怒させた英国の外交公電第2弾が14日、英大衆日曜紙メール・オン・サンデーにスクープされました。ロンドン警視庁が「リークは犯罪に該当する恐れがある」と捜査宣言、政府通信本部(GCHQ)も情報収拾を始めたことから、スクープ第2弾は「報道の自由」と「公益」を意識した内容になっています。

昨年5月7日、ボリス・ジョンソン前外相はトランプ大統領が核合意から離脱しないよう説得するためワシントンに急派されました。26時間にわたってジョンソン氏は鍵を握るトランプ大統領の側近と相次いで会談。しかし第二次大戦以来続く英米「特別関係」をもってしてもトランプ大統領の「離脱」という決断を変えることはできませんでした。

今回リークされた外交公電はジョンソン氏が英国に帰国した数時間後にキム・ダロック駐米英国大使が本国向けに打電したもので、トランプ政権は「外交的破壊行為」に取り憑かれていると分析。トランプ大統領は「個人的な理由」でイラン核合意を破棄しようとしているように見えると指摘しています。

イラン核合意がバラク・オバマ前米大統領によって合意されたというのがその理由です。ダロック大使は「大統領に最も近いアドバイザーの間にも亀裂がある」ことを示唆し、ホワイトハウスはイラン核合意から離脱した後の戦略を欠いていると警鐘を鳴らしています。

翌日、トランプ大統領はイラン核合意からの離脱を発表しました。

「トランプ大統領は危なっかしくて無能」

メール・オン・サンデー紙電子版は今月6日夜、「ダロック大使がトランプ大統領には適性がない、危なっかしくて無能と本国に打電していた」と最高機密扱いの外交公電をスクープ。「米ホワイトハウスは他に比べるものがないほど機能不全に陥っている。トランプ氏のキャリアは不名誉な形で終わる恐れがある」と本国に警鐘を鳴らしました。

最初にスクープされた外交公電の内容は次の通りです。

・我々はトランプ政権が正常化するとも、少しでも機能を取り戻すとも、予測可能になるとも、内部対立が収まるとも、外交的で適切になるとも全く思っていない

・スキャンダルまみれの人生を送ってきたトランプ氏は映画ターミネーターのラストシーンのアーノルド・シュワルツェネッガーのように炎の中で溶解しながらも損なわれないのかもしれない(打たれ強い)

・ホワイトハウスに『ナイフを使ったケンカ』のような深刻な対立

・トランプ氏は『危険なロシア人』の恩恵を受けている

・トランプ氏の経済政策は世界の貿易システムを難破させる恐れ

・スキャンダルまみれのトランプ氏はクラッシュして炎上する恐れがある。我々は不名誉と没落に終わる下降スパイラルの始まりにある

いつまで期待できるトランプ大統領のUターン

トランプ氏が無人偵察機を撃墜された報復としてイランへの攻撃を土壇場で撤回したと主張していることについてはこう分析していました。

「米国の対イラン政策がすぐに一貫性を取り戻すことはなさそうだ。政権内で意見は分断している」「犠牲者が150人にのぼるというブリーフを受けたというのは間違いないが、それを受けて攻撃を撤回したというのは定かではない」

「トランプ氏は会議にフルで参加したことがなく、2016年大統領選での(イラク戦争に異を唱えた)彼の主張と(イランに攻撃を仕掛けることが)明確に食い違うことが来年の大統領選にどう影響するか心配していたというのがあり得る話だ」

「これまで以上にタカ派のアドバイザーに取り囲まれたトランプ大統領がイランとの紛争の引き金を引く恐れはまだ残っている」「攻撃撤回は一時的なものに過ぎないのかもしれない。イランのさらなる攻撃がトランプ氏の新たなUターンを引き起こす可能性はあるものの、米国人に1人でも犠牲が出れば決定的な違いをもたらすだろう」

「次期首相」に見捨てられた駐米英国大使

トランプ大統領は記者会見やツイッターで「我々はダロック大使を歓迎しない。もうたくさんだ」と怒りを爆発させ、さらなるリークを止めるよう求めました。これを受けてロンドン警視庁はリーク防止のため捜査開始を宣言。

英日曜紙サンデー・タイムズによると、英情報機関は情報にアクセスした官僚1人を割り出した模様です。これに対して「報道の自由」と「公益」の観点からメール・オン・サンデー紙の報道を支持する声が相次いでいました。

ダロック大使は昨年5月、イラン核合意からの離脱を思いとどまるようワシントンで一緒にトランプ大統領の側近に働きかけたジョンソン氏が次期首相を選ぶ保守党党首選でダロック大使を守る姿勢を明確に見せなかったとたん、辞任を表明しました。「ジョンソン首相」に仕えることはできないという意思表示でした。

後任大使にはエリザベス英女王の私設秘書を務めたクリストファー・ガイド氏の名前が挙がっています。

トランプ政権の超タカ派と言えばジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官をおいて他にいません。トランプ大統領の支持者はイラク戦争で米兵に4491人もの犠牲を出したことに怒っています。トランプ大統領はイランへの攻撃は新たな戦争への引き金になり、次の大統領選にマイナスと考えているフシがうかがえます。

イランの石油タンカーの拿捕を巡ってイランと英国の緊張も高まっています。イランからの破壊活動で米兵や米国人に被害が出れば、イランと米国の緊張は軍事衝突に発展する恐れが非常に高いことをダロック大使の公電は私たちに教えてくれています。筆者はメール・オン・サンデー紙の報道は十分に「公益」にかなっていると思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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