逮捕者1000人突破「黄色ベスト」とは真逆の「絶滅への反逆」2025年までの脱炭素化は荒唐無稽か

ウォータールー橋を占拠する「絶滅への反逆」運動の参加者(18日、筆者撮影)

「警察官になって36年。700人を超える逮捕者は初めて」

[ロンドン発]この1週間、ロンドンは政府に地球温暖化の強化と加速を訴える社会運動「絶滅への反逆(Extinction Rebellion)」の嵐が吹き荒れました。

繁華街オックスフォードサーカスやマーブルアーチ、ウォータールー橋、パーラメント・スクエアで座り込みデモが始まった15日以降、逮捕者は1000人を突破、40人が公務執行妨害などの罪で起訴されました。

ウォータールー橋での座り込み(18日、筆者撮影)
ウォータールー橋での座り込み(18日、筆者撮影)

ロンドン警視庁のクレシダ・ディック警視総監は英TVに「警察官になって36年になるが、700人を超える逮捕者を出すのは初めて。日常生活に支障が出て、多くの市民が悲惨な目に遭っている」と述べました。

筆者も取材に出掛ける際、ウォータールー橋を通ります。橋の上にはテントや植木が持ち込まれ、ヒッピーや環境活動家が24時間座り込んで「緑の歩行者天国」と化していました。

同

温室効果ガスの二酸化炭素(CO2)を吐き出すバスや自動車はすべてシャットアウトされ、歩行者と自転車だけが通ることができます。強力接着剤で自分の体を路面に貼り付けた過激な活動家もいます。

ロンドンでは歩いて1時間以内の場所だと、いつ来るかもどこが終点かも分からないバスを使うより徒歩の方が確実。バス代も節約できるし、適度な運動にもなります。自転車は事故が多いので、注意が必要です。

同

筆者の場合、生活に影響はほとんどありませんでした。

「EU離脱がなければ温暖化対策が最重要課題に」

ウォータールー橋で出会った環境コンサルタントのジェームズ・モリスさん(23)はホリデーを取って座り込みに参加しました。筆者の取材に「政府が行動を起こすまで座り込みは続けられるでしょう」と言います。

同

「これまでの地球温暖化対策はそれほど効果を上げていません。だから政治家を動かすためには世間の耳目を集める行動が必要と立ち上がりました。英国の欧州連合(EU)離脱が起こっていなかったら、地球温暖化が最重要課題になっていたのにと思うと残念でなりません」

「絶滅への反逆」は政治的な運動ではないので、残留か、離脱かの立場は取っていません。モリスさんは「政治とは世界と人類の未来を良くするものです。警察は私たちを逮捕できても座り込みを続けていけば、政治家も無視することはできないはずです」と強調しました。

「絶滅への反逆」が掲げる3つの目標(モリスさん提供)
「絶滅への反逆」が掲げる3つの目標(モリスさん提供)

昨年始まった「絶滅への反逆」運動は下の3つの目標を掲げており、学者や欧州議会議員も賛同しています。

(1)地球温暖化や環境問題の緊急性について政府は真実を公開せよ

(2)2025年までに温室効果ガスの排出量を差し引きしてゼロに抑えるため政府は脱炭素化を実現する法的措置を採れ

(3)達成度を監視するため国民会議を設立せよ

世界の二酸化炭素排出量は激増

EUのデータでは、1990年から2017年にかけ、欧州連合(EU)加盟28カ国は二酸化炭素の排出量は4.41ギガトンから3.55ギガトンに削減。日本は1.15ギガトンから1.32ギガトンに増やし、米国は5.09ギガトンから5.11ギガトンと微増に抑えています。

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その一方で中国の排出量は2.4ギガトンから10.88ギガトンに激増、世界全体では22.67ギガトンから37.08ギガトンへと64%も増えてしまいました。習近平・中国国家主席の経済圏構想「一帯一路」で数百もの石炭火力発電所が建設される予定です。

米国のドナルド・トランプ大統領が新たな温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱。エマニュエル・マクロン大統領が燃料税の引き上げで温暖化対策を加速させようとしたフランスでは抗議の「黄色ベスト運動」が燎原の火のごとく広がりました。

ウォータールー橋の上にはイルカの絵が描かれていた(18日、筆者撮影)
ウォータールー橋の上にはイルカの絵が描かれていた(18日、筆者撮影)

結局、マクロン大統領は電気自動車への切り替えを促す燃料税の引き上げを断念せざるを得ませんでした。

「地球に代わりはない」

「もう大人には任せておけない」「無作為のツケを押し付けられるのはたくさん」「地球に代わりはない(プラネットBはない)」「気候が変動するなら、私たちも変わろう」――。

トランプ大統領に対抗するかたちで、「Z世代(ジェネレーションZ)」と呼ばれる10代を中心とした若者たちが毎週金曜日、学校や大学を抜け出して地球温暖化対策を求めて抗議の声を上げています。

キャンペーンを始めたのはスウェーデンのグレタ・トゥンベリさん(16)。昨年8月から毎週金曜日に学校をサボって、スウェーデン議会前に座り込んでいます。最初グレタさんは独りぼっちでした。しかし座り込み運動はオーストラリアやベルギー、ドイツ、米国、日本など十数カ国に広がりました。

グレタさんも21日夕、「絶滅への反逆」に参加し、マーブルアーチで「人類はまさしく岐路に立っている。地球を守るための闘いを止めてはならない。政治家や権力者は温暖化や環境の危機を回避するため闘っていない」と訴えました。

30年までに脱炭素化するには英国で13万基の風力発電機が必要

英国政府は25年ではなく50年までに脱炭素化を実現する計画を検討しています。

ウォータールー橋での抗議活動(18日、筆者撮影)
ウォータールー橋での抗議活動(18日、筆者撮影)

英代替技術センター(CAT)の研究プロジェクト「英国の脱炭素化」によると、30年までに脱炭素化を実現するためには13万基の風力発電機とウェールズの2倍の面積が必要だそうです。肉食と乳製品中心の食生活も見直さなければなりません。

「パリ協定」では196カ国・地域が史上初めて「世界の平均気温上昇を工業化以前から2度以内に抑える」という「2度目標」を掲げましたが、トランプ大統領は「パリ協定」から離脱しました。「ナショナリストのジレンマ」が働いたからです。

米国が温室効果ガスの排出削減に向けた「パリ協定」に参加しなくても、他の国々が苦労して達成した恩恵をただで享受できます。自分世代が真剣に取り組まなくても、地球温暖化のツケを将来世代の子供や孫に先送りできるため、地球温暖化対策ではどうしても負のインセンティブが働いてしまうのです。

「気候変動経済学の父」と呼ばれ、ノーベル経済学賞に選ばれた米エール大学のウィリアム・ノードハウス教授は「ナショナリストのジレンマ」を回避するには「温室効果ガスの市場価格(炭素価格)の引き上げが必須条件」として「炭素税」の導入を促しています。

実現不可能な目標は、石炭産業を支持基盤とするトランプ大統領に「パリ協定」への復帰を促し、中国やインドといった新興国や途上国を巻き込んで排出規制の枠組みを強化していくための重要な問題提起であるのは言うまでもありません。

英国がEUを離脱すれば温暖化対策などで国際的な発言力を失ってしまうのは避けられません。

(おわり)