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無敵トランプ・ツイートがトルコリラを「撃沈」リスクはらむ高金利通貨とマッチョ政治家バトルにご用心

木村正人在英国際ジャーナリスト
しばらくこの2人から目が離せない(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1年で47%も下落

[ロンドン発]トルコの通貨リラが暴落しています。同国のレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が強権主義を強め、金融政策に介入、ドナルド・トランプ米大統領とも対立し、対米関係を悪化させているからです。

トルコリラがどれだけ急落したか、YAHOO! FINANCEを見てみましょう。

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昨年9月、1トルコリラ=32.027円

今日現在、1トルコリラ=17.188円

なのでこの1年間のうちに47%も下がっています。

トランプ大統領がトルコに対する20%のアルミニウム関税と50%の鉄鋼関税をツイッターで表明したことからリラ売りは加速し、8月10日にはトルコリラが対ドルで一時20%も急落し、過去最安値を更新しました。

対ドルではどうなっているのでしょう。

昨年9月、1トルコリラ=0.29ドル

今日現在、1トルコリラ=0.16ドル

対円と同じように45%も下落しています。

窮地に陥る日本人投資家

サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会で活躍した日本代表DFの長友佑都選手はトルコのガラタサライに所属しているだけに報酬をトルコリラでもらう契約を結んでいるとしたら大変な「減俸」になってしまいます。

トルコ中央銀行は6月、前年比の物価上昇率が12%を上回ったことから政策金利を16.50%から17.75%に引き上げました。トルコリラは買われましたが、中銀の高金利政策に反発するエルドアン大統領が前倒しして実施した大統領選で再選し、風向きが一変してしまいました。

低金利の円を売り、高金利のトルコリラを買うことで金利差を稼ごうとして窮地に陥っている日本人投資家も少なくないようです。高金利ということはそれだけリスクも高いということなので、細心の注意が必要です。

家父長型マッチョスタイル政治指導者の落とし穴

ロシアの通貨ルーブルも、ウラジーミル・プーチン露大統領がグルジア(ジョージア)紛争、ウクライナのクリミア併合、シリア軍事介入を強行、原油価格が下落したことから暴落したことがあります。

2008年7月、1ルーブル=0.043ドル

2016年1月、1ルーブル=0.012ドル

対ドルで72%も下がってしまいました。

世界中でプーチン大統領のような家父長型マッチョスタイルの政治指導者が増えてきています。しかし欧米諸国の市場主義と対立し始めると、通貨暴落というリスクが膨らみます。家父長型マッチョスタイルの政治指導者が欧米諸国の圧力に反発して強権主義を振り回そうと思っても、市場は密接につながっているからです。

国民の直接選挙で行われた初のトルコ大統領選(14年)で、11年間首相を務めたエルドアン氏が当選してから同氏は強権主義を強めます。16年のクーデター未遂事件を契機に軍や司法、ギュレン派と呼ばれる宗教グループなど反エルドアン派を一掃します。

国内での強権支配にとどまらず、エルドアン大統領はシリア問題でプーチン大統領と連携を強めます。トルコは北大西洋条約機構(NATO)加盟国なので欧米諸国は危機感を強めます。ウクライナ問題でもシリア問題でも欧米諸国はプーチン大統領と対立しているからです。

17年、ドイツの特派員やジャーナリストらがトルコ国内で拘束されたことから、ドイツとトルコの外交関係は悪化。エルドアン大統領はドイツ総選挙を前にドイツの政党を「トルコの敵」と名指ししてドイツ国内のトルコ系移民に投票しないように呼びかけます。

ギリシャ経由で欧州連合(EU)域内に流入する難民を止めてもらうためトルコに協力してもらわなければならないアンゲラ・メルケル独首相も「トルコはEUの加盟国になるべきではない」とやり返します。

トランプvsエルドアンの壮絶バトル

エルドアン大統領は米国とトランプ大統領まで敵に回してしまいます。2人の大統領は面子を重んじる非常に似たタイプなので対立はさらにエスカレートする恐れすらあります。

米ノースカロライナ州のアンドリュー・ブランソン牧師(50)がスパイとクーデター未遂事件に関係していた疑いで1年半以上もトルコ国内で拘束されています。解放要求をエルドアン大統領に拒絶されたトランプ大統領は対トルコ制裁を強化します。

米国が制裁を強化した背景にはロシアに急接近するトルコへの不信感が横たわっています。トランプ大統領は「トルコリラは非常に強いドルに対し急落している!(略)今、トルコと米国の関係は良くない」とツイートしました。

これに対してエルドアン大統領は「もし枕の下にドルや金を置いているのなら、トルコの銀行でリラに替えるべきだ。これは国家の、国内の戦いだ」と宣言し、ワシントンがトルコの主権を尊重しないのなら混乱に陥るのは米国の方だと全面対決の姿勢を示しました。

家父長型マッチョスタイル政治指導者の攻防に巻き込まれて大損をしないよう、皆さんも国際ニュースを丹念に見ておく必要がありそうですね。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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