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杉田水脈議員は社会的に抹殺されたLGBTの過去とその偉業を知っているか 自民党は厳しい処分を

木村正人在英国際ジャーナリスト
自民党の杉田水脈議員(本人のブログより)

LGBT支援は行き過ぎか

[ロンドン発]何かと問題発言を繰り返す自民党の杉田水脈(みお)衆院議員(比例中国ブロック)が月刊誌「新潮45」の特集「日本を不幸にする『朝日新聞』」に「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題して寄稿し、激しく炎上しています。

「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」という全く根拠のない極論を展開し、人権意識の欠如をさらけ出してしまいました。

LGBTはレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時に診断された性と、自認する性の不一致)の頭文字をとった総称です(知恵蔵miniより)。

支援団体「性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会」(LGBT法連合会)が挙げる杉田論文の問題箇所は次の通りです。

「LGBTだからといって、実際そんなに差別されているものでしょうか。もし自分の男友達がゲイだったり、女友達がレズビアンだったりしても、私自身は気にせず付き合えます」

「LGBは、性的嗜好の話です。(略)私は中高一貫の女子高で、まわりに男性がいませんでした。女子高では、同級生や先輩といった女性が疑似恋愛の対象になります。ただ、それは一過性のもので、成長するにつれ、みんな男性と恋愛して、普通に結婚していきました」

杉田議員の論理の組み立て方は「私はこうだから、みんなそうなの」という極めて幼稚なもので、説得力は全くありません。データの裏付けも科学的根拠もありません。

「LGBTは『生産性』がない」

次の箇所は見逃すわけにはいきません。

「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」

この論理が成り立つなら、結婚しない男女、子供をつくらなかったり、授からなかったりしたカップルは「生産性」がないとして切り捨てても良いということになります。これは明らかに人権侵害です。

「マスメディアが『多様性の時代だから、女性(男性)が女性(男性)を好きになっても当然』と報道することがいいことなのかどうか。普通に恋愛して結婚出来る人まで、『これ(同性愛)でいいんだ』と、不幸な人を増やすことにつながりかねません」

「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は、『秩序』がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません。私は日本をそうした社会にしたくありません」

「LGBTは本人の意思で選んだり変えたりするのが困難とされているのに、本人の意思や趣味・嗜好の問題との誤解が広まっている」と自民党はパンフレット「性的指向・性同一性(性自認)の多様性って?」の中で指摘しています。杉田議員は自民党の見解を知っているのでしょうか。

固定観念に基づく「常識」や「普通であること」を法律で強制することがいかに危険かは歴史が教えてくれます。

アラン・チューリングの悲劇

「コンピューター研究の父」と呼ばれる英国のアラン・チューリング(1912~54年)の業績は第二次大戦後30年にわたり国家機密として封印されました。同性愛者であるチューリングは苦悩の末、青酸カリを飲んで自殺するという悲しい最期を遂げました。

ご存知の方も少なくないと思いますが、チューリングこそ、GCHQ(政府通信本部)の前身であるブレッチリー・パークの政府暗号学校で、ヒトラーの切り札とされたドイツ軍の暗号エニグマを解読した天才数学者です。

チューリング率いる暗号解読班は、36台分のエニグマ・マシーンを組み合わせた電動機械「ボンブ」を開発。傍受したドイツ軍の暗号文を片っ端から「ボンブ」に入力し、天気予報の定型文などと一致する組み合わせを自動的に突き止めるシステムを作り上げます。

第二次大戦終了までに「ボンブ」は約200台設置されましたが、終戦後も厚いベールに覆われ、歴史から姿を消します。1952年、チューリングは青年と関係を持ったとして起訴されます。当時、男性の同性愛は犯罪として裁かれました。

英国では4000人の男性同性愛者が出廷

英イングランド・ウェールズ地方では52年に4000人の男性同性愛者が犯罪者として出廷、54年には1069人が投獄されています。

チューリングも服役するか、女性ホルモン注射による化学的去勢を受けるかの選択を迫られます。化学的去勢を選択したチューリングは性的不能と乳房が膨らむ副作用に悩まされるようになり、54年、青酸カリを塗ったリンゴをかじって服毒自殺します。

男性の同性愛行為が犯罪ではなくなったのはチューリングの死から13年後のことでした。アップルのかじりかけのリンゴはチューリングへの追悼という説も流布していますが、これはどうやら「都市伝説」のようです。

2009年、ゴードン・ブラウン英首相は名誉回復の署名運動を受け、政府として公式に謝罪を表明。エリザベス女王の恩赦がチューリングに与えられたのは13年暮れ。その年、英国では同性婚が保守党と自由民主党の連立政権下で認められました。

LGBTを支援する動きは歴史的な反省からくるもので、杉田議員が個人的な体験をもとに論ずる軽いテーマではありません。LGBTは人口の3~5%の割合で存在します。これはリベラルか、保守かの対立軸ではなく、人権と人間の尊厳に関わる切実な問題です。

杉田議員の発言は安倍晋三首相につながる日本の保守派の代表的な意見として海外メディアに取り上げられることがあるため、自民党は党の方針が杉田議員と異なるのなら同議員を厳しく処分すべきだと思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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