フランス大統領は史上最年少の39歳マクロン 政治をスタートアップにした男

マクロン大統領の誕生に歓喜する支持者(筆者撮影)

「禁断の恋」

[パリ・ルーブル宮殿広場発]フランス大統領選の決選投票が5月7日行われ、中道政治運動「前進!」の前経済産業デジタル相エマニュエル・マクロン(39)が右翼ナショナリスト政党「国民戦線」党首マリーヌ・ルペン(48)を破って、大統領に選出されました。

90%開票の結果によると、マクロン64.8%、ルペン35.2%。ルペンはマクロンに電話を入れ、当選を祝福する一方で、1000万票を超える票を投じてくれた支持者に感謝の言葉を述べました。

ルーブル宮殿の広場で勝利演説を行うマクロン(筆者撮影)
ルーブル宮殿の広場で勝利演説を行うマクロン(筆者撮影)

ドイツの首相アンゲラ・メルケルはより強い独仏関係が築けると歓迎しています。しかしフランス大統領選決選投票の棄権票はいつもは20%未満ですが、24.9%に達しました。ルーブル宮殿での祝賀イベントには支持者が集まりましたが、熱狂の広がりは感じられませんでした。「マクロン大統領」がフランスの有権者にとって消極的な選択肢であることをうかがわせました。

イベント会場のルーブル宮殿に姿を現したマクロンは厳かで使命感に満ち、まるでフランスの救世主ナポレオン1世が再来したかのようでした。支持者を前にした勝利演説を終えた後、妻のブリジットとつないだ手を掲げて「フランス万歳!」を唱えました。

39歳でのフランス大統領就任は、ナポレオン3世の40歳よりも若く、史上最年少。また、右派の共和党や左派の社会党以外の大統領が誕生するのは1958年に大統領の権限を著しく強化した第五共和制になってから初めてのことです。

マクロンは15歳のとき、フランス北部アミアンの高校で、3人の子供を持つ24歳年上の女性教師ブリジットと出会い、舞台劇の制作を通じて「許されない恋」に落ちます。フランスでは、教師は18歳に満たない生徒と「関係」を持つことは違法で、マクロンの将来を心配した両親はマクロンをパリの名門校に転校させます。

しかしマクロンは最初の意思を貫き、銀行員の夫と離婚したブリジットと10年前に結婚します。アミアンは小さな街で、いくら自由恋愛やプライバシーが尊ばれる国フランスといえど、高校教師と生徒の不倫に向けられる世間の目は厳しかったでしょう。

妻のブリジットと「フランス万歳!」を唱えたマクロン(筆者撮影)
妻のブリジットと「フランス万歳!」を唱えたマクロン(筆者撮影)

ブリジットは第1回投票でマクロンの決選投票進出が決まったあと、マクロンとの愛情たっぷりのキスを支持者に披露した後、「この人は高校時代、私に向かって結婚すると宣言したの。そして、それを実際に実行したわ」と話しました。フランスの国際政治学者ドミニク・モイジは「こうしたパーソナリティーこそがマクロンの意思の固さを物語っている」と解説します。

既存政治への幻滅

マクロンはエリート養成校・フランス国立行政学院(ENA)を卒業し、会計検査院でしばらく勤務します。ロスチャイルド投資銀行のバンカー時代に世界最大の食品会社ネスレによる米製薬会社ファイザーのベビー食品部門の買収を成功させ、巨額の富を手にします。一部の報道では2009年から3年間で280万ユーロの収入があったそうです。

そのあと現職大統領フランソワ・オランドの側近として取り立てられ、経済産業デジタル相時代に「経済の成長と活性のための法律案(マクロン法)」を提出。長距離バス路線開設の自由化、商業施設の日曜・深夜営業の拡張など身近な規制緩和策を盛り込みました。

しかしマクロン法の審議が難航したことから既存政治に幻滅し、昨年4月、「前進!」を立ち上げたのです。経済産業デジタル相を辞任、11月に大統領選への出馬を表明します。そのときマクロンが大統領選に勝つと予想した人が果たしてどれぐらいいたでしょうか。

職業政治家が大きな顔をしている日本政治と同じように、当選を4回も5回も繰り返さないと要職に付けないフランス政治に、マクロンはスタートアップの手法を持ち込んだのです。とにかく今回の大統領選がマクロンにとっては初めての選挙なのです。

前出の国際政治学者モイジは「マクロンは自分にはフランスを救うジャンヌ・ダルクかナポレオン1世の使命が与えられていると信じている」と言います。

マクロンの政策を振り返っておきましょう。

・ユーロ圏経済政府・財務相の創設を交渉。ドイツとEU全域での投資計画を検討

・5年間で600億ユーロの歳出を削減、500億ユーロの公共投資

・失業率を10%から7%に下げる

・退職者の穴を補充せず12万人の公務員削減

・財政赤字を3%以内に

・週35時間労働を維持するが、民間企業に交渉の余地を残して柔軟化

・法人税率を33%から25%に切り下げ

・低賃金労働者の社会保障費負担を免除

・年金や失業保険システムの統合を進める

・年金支給年齢は62歳に据え置き

競争力を失ったフランスの苦難

フランス経済の問題を一番良く物語るのは失業率と成長率です。失業率は10%(若年労働者25.9%)と高止まりしています。イギリスは4.6%(同13.1%)、ドイツは3.9%(同6.4%)に比べて失業者が多く、求職者は600万人に達しているそうです。昨年の成長率を比べると、フランス1.2%、イギリス1.8%、ドイツ1.9%と、フランスは伸び悩んでいることが分かります。

マクロンは大統領選で右派も左派も取り込むため、北欧型のマイルドな市場経済主義を主張しています。しかし、こんな手ぬるい改革では、既得権がはびこり硬直化し、国際競争力を失ってしまったフランスを再生できるとはとても思えません。

これまでフランスは雇用対策のため、財政支出を拡大させ、際限なく公務員や準公務員、補助金を増やしてきました。炭鉱閉鎖や民営化、労働組合の解体といった「痛み」を伴う改革を断行したイギリスのマーガレット・サッチャー型の革命がフランスには必要です。

6月に国民議会選を控える中、共和党や社会党のような支持基盤を持たないマクロンが議会で多数派を形成する戦略をどう描くのかが今後の大きな課題です。スペインの報道カメラマンは筆者に「また5年したら同じようにフランス大統領選の取材に来ることになるよ」と肩をすくめました。

ルペンを破り、歓喜の声を上げるマクロンの支持者(筆者撮影)
ルペンを破り、歓喜の声を上げるマクロンの支持者(筆者撮影)

マクロンが資質と志を兼ね備えた若き指導者であることに疑いを差し挟む余地はありません。これがフランス第五共和制の終焉になるのか、それとも新たな時代の幕開けになるのでしょうか。フランスの有権者はマクロンを選んだというより、ルペンを選ばなかったという現実を直視すると、マクロン大統領の誕生をそれほど楽観はできないでしょう。

【欧州の政治日程】

3月29日、メイがEU大統領トゥスクに離脱交渉の開始を通告

4月18日、メイが解散・総選挙を緊急発表

4月23日、フランス大統領選第1回投票

4月29日、イギリスを除く27カ国でEU首脳会議を開催

5月3日、イギリス下院を解散

5月7日、フランス大統領選の決選投票

6月8日、イギリス総選挙の投票

6月11日、フランス国民議会第1回投票

6月18日、フランス国民議会第2回投票

9月24日、ドイツ総選挙

(おわり)