モノ言う安倍外交 EUを離脱する英国へのショック療法になるか

G20首脳会議に出席した英国の新首相メイ(写真:ロイター/アフロ)

日米欧に新興国を加えた20カ国・地域(G20)首脳会議(杭州サミット)が5日、世界経済の下方リスクを指摘し、金融・財政・構造すべての政策手段を「個別にまたは総合的に」活用するという首脳宣言を採択して閉幕しました。構造改革の重要性を強調しつつ、財政政策を機動的に実施すると明記しました。

モノ言う安倍外交に英国も衝撃(首相官邸HPより)
モノ言う安倍外交に英国も衝撃(首相官邸HPより)

先の国民投票で英国が欧州連合(EU)離脱を選択したことについて、首脳宣言は「世界経済の不確実性に付加するものである。我々は、将来英国がEUの緊密なパートナーであることを希望する」と強調しています。英国ではG20に向け、日本の外務省がインターネット上で公開したメッセージが衝撃を広げています。

「多くの日本企業が、英国を欧州へのゲートウェイとみなして英国に積極的に投資し、欧州全体にバリューチェーンを築いてきました。いくつかのケースは英国政府から誘致されたものです。これに照らして、日本政府は英国が真剣にこうした事実を熟慮し、日本企業の経済活動に与えるマイナスの影響を最小化するため責任ある対応を取ることを強く求めます」

「英国がEUを離脱した後、EU法が英国内で有効でなくなった場合、英国に欧州本社機能を置く日本企業は欧州本社機能を欧州大陸に移すことを決定するかもしれません」

「日本の金融機関が英国で取得した単一パスポートを維持できなくなる場合、こうした金融機関のEU内での経済活動は難しくなり、パスポートを取り直したり、活動を英国からEU内にある既存の拠点に移したりしなければならなくなります」

ブレグジット(英国のEU離脱、BritainとExitを合わせた造語)に対して強い懸念を英国に示したのは日本だけではありません。米大統領オバマも国民投票前の発言と同じように「世界は英国がEUに加盟していることによって非常に大きな恩恵を被っている」と述べ、米国は環大西洋貿易投資協定(TTIP)の交渉より英国との貿易協定締結を優先させる考えはないことに改めて言及しました。

出所:ジェトロデータをもとに筆者作成
出所:ジェトロデータをもとに筆者作成

日本貿易振興機構(ジェトロ)の直接投資統計を見てみましょう。2015年末時点で、EU加盟国の中で日本の対外直接投資残高が最も多いのはオランダで1043億ドルです。2番目が英国で892億ドルです。オランダが最大の投資先なのは、欧州最大の海運拠点である上、特許権など特定の知的財産から生じた法人所得に対する軽減税制「パテントボックス」が利用できることも大きいようです。

それに次いで多いのがドイツではなく英国なのはサッチャー時代に英国経済復活のため多くの日本企業が積極的に誘致されたからです。日本企業も英国企業と同様に扱われたため、EU発足後は英国企業と同じように日本企業もEU域内で経済活動を展開できました。

2010年から15年まで英外務次官を務めたサイモン・フレイザーは「同盟国や友好国からこうした強いメッセージを受けるのは異例のこと」と表情を引き締めます。そのフレイザーに日本からのメッセージをどう受け止めたか聞いてみました。

「メッセージの中で日本の利益と優先順位が書かれており、非常に有益だ。日本の投資企業がブレグジットの引き起こす不確実性に懸念を抱くのは当たり前のことだ。こうした懸念は英国政府に十分理解されているのは間違いない。英国が世界の中でも魅力的な投資先であり続けることを確認するのは英国政府の目標の一つだ。EUとの交渉の中でこうしたことを考慮することに疑いを差し挟む余地はない」

これがフレイザーの答えでした。英国の新首相メイはブレグジットを利用して大量の低賃金労働者がEUに加盟する旧東欧諸国やバルト三国から流入するのをストップし、高賃金・高付加価値の自由貿易国家を目指す考えです。モノ言う安倍外交がメイの胸に届けば良いのですが、英国にとってもEUにとってもブレグジットが史上空前の難しい交渉になるのは避けられないでしょう。

(おわり)