Yahoo!ニュース

スペイン総選挙 2大政党が2新党と4つ巴の争い

木村正人在英国際ジャーナリスト
スペインの2大政党を揺さぶるポデモス党首イグレシアス(筆者撮影)

スペインで上下両院の総選挙が20日に行われる。与党の中道右派・国民党と最大野党の穏健左派・社会労働党の2大政党制が瓦解し、今年初めには政党支持率でトップに立った反緊縮の急進左派新党「ポデモス(私たちには可能だ)」と中道右派の新党「シウダダノス(市民)」が4つ巴の戦いを展開している。

国民党の首相ラホイは16日、地元のガリシア州で遊説中に隣の若者に殴られた。なぜか?

ラホイは2011年の総選挙で脱緊縮を唱えて政権を奪取した。しかし、実際には欧州連合(EU)に従って歳出削減、増税の財政再建と構造改革を進め、名目国内総生産(GDP)の対前年同期比の成長率を今年第3四半期で3.4%まで回復させた。

出典:スペイン国立統計局データより筆者作成
出典:スペイン国立統計局データより筆者作成

問題は高止まりした失業率だ。

単一通貨ユーロの導入で金利が実力以上に安くなったスペインでは住宅ブームが起き、世界金融危機で不動産・建設バブルが崩壊した。金融機関が抱え込んだ不良債権処理のため多額の税金が投入され、ギリシャ同様、財政危機に陥った。

同

スペインの産業は景気に左右されやすい建設業の比率が高い。景気の回復が十分でないことから、失業率は20%を超えたまま。正規と非正規雇用の格差が若者の就業を阻み、25歳未満の失業率は50%近い。若者がラホイを殴った背景にはこうした事情があるとみられている。

EUの要、ドイツの首相メルケルが主導する財政再建、構造改革は痛みを伴う。3.4%成長や欧州中央銀行(ECB)の金融緩和の恩恵はスペイン国民にはまだ行き渡っていない。それなのに国民党の財務担当者の汚職が発覚し、ラホイへの不正献金疑惑も取り沙汰された。これでは支持率が低迷するのも当たり前だ。

独裁者フランコ死後の1980年代以降、スペインでは国民党と社会労働党の2大政党による政権交代が続いてきた。しかし、債務危機を招いて人心を失った社会労働党はラホイ政権に対する批判票の受け皿にはなれていない。そこで浮上したのが急進左派の新党ポデモスだ。

政治科学の大学講師だったパブロ・イグレシアス(37)は雑誌への執筆やTVの討論番組で人気を集め、昨年1月に設立されたポデモスの党首に就任。反緊縮を唱えて欧州議会選で54議席中、5議席を獲得する勢いを見せた。

ポデモス党首イグレシアス(左)とギリシャ首相チプラス(右から2人目)
ポデモス党首イグレシアス(左)とギリシャ首相チプラス(右から2人目)

しかしギリシャで政権を奪った急進左派連合(SYRIZA)のチプラスの迷走ぶりを目の当たりにした有権者に失望が広がった。チプラスとイグレシアスの政治スタイルはそっくりそのまま。仲も良い。一時は30%を超え、2大政党を押さえてトップに立ったポデモスの支持率は15%を超えるのがやっとだ。

ポデモスの唱える年金受給開始年齢の引き下げなど反緊縮策がギリシャ同様、EUとの対立を招き、混乱の原因になることを有権者は怖れている。しかし今回の総選挙でポデモスが国政プレーヤーに躍り出るのは間違いない。

出典:各種世論調査をもとに筆者作成
出典:各種世論調査をもとに筆者作成

ポデモス(黄色の折れ線グラフ)の失速で頭角を現してきたのが中道右派の新党シウダダノス(グレーの折れ線グラフ)。2005 年にカタルーニャ州で結成され、正規と非正規の格差解消、失業者の就業支援、企業負担の軽減などを唱えている。政策的には与党・国民党に近い。

同

上のグラフを見れば、2大政党の退潮は明らかだ。最近の世論調査では、国民党と最大野党・社会労働党の支持率を合わせても50%を超えることがなくなっている。今回の総選挙では、国民党が議会第1党になる見通しだが、連立交渉は難航するのは必至だ。

右のシウダダノスは国民党に取って代わることを、左のポデモスは社会労働党の座をうかがっている。連立交渉が不調に終わり、来年3月までに再選挙が行われる可能性すらある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事