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「私の体は私のもの」ヌードでイスラム女性の自由訴えたチュニジア人フェミニストの勇気

木村正人在英国際ジャーナリスト
2年前、ヌード投稿でチュニジアに衝撃を与えたアミナ(アミナ提供)

2013年3月8日は18歳のアミナ・スブイにとって人生を変える日となった。真っ赤な口紅をつけ、黒色のアイラインを引いて、上半身裸になった。革張りのソファにもたれかかり、本を読みながら、タバコをくゆらす。

アミナの自伝(アミナ提供)
アミナの自伝(アミナ提供)

胸にはアラビア語で「私の体は私のもの。誰かの名誉には関係ない」と書かれていた。英BBC放送によると、大きく息を吸ってから、この写真をフェイスブックに投稿すると、1時間もしないうちに1千件近くの書き込みがあふれたという。

アミナはチュニジア人だ。イスラム社会では最も自由や世俗化が進んでいる国の一つであるチュニジアでもトップレス写真への反発は想像を絶していた。殺害予告や女性蔑視、嫌がらせの罵倒が浴びせられ、アミナはチュニスの友人宅に隠れた。

アミナがおかしくなったと思って、家族は、悪霊を追い払う聖職者のところへ彼女を連れて行った。アミナは家父長型社会での女性の自由を求めるため、脱いだのだった。

5月には過激なイスラム主義団体に抗議するため、トップレスの抗議活動で知られる女性権利団体「FEMEN」の名前を墓地の壁に書いた。アミナはペッパースプレーの所持と猥褻行為、墓地を冒涜した罪で起訴され、勾留された。

過激イスラム主義者はアミナをムチ打ち、または石打ちによる死刑に処するよう求めた。「FEMEM」の女性活動家3人がチュニスの司法省前で抗議するためヌードになり、逮捕された。「西洋は私たちの問題に首を突っ込まないで」というのがチュニジアの反応だった。

抗議活動に参加するアミナ(同)
抗議活動に参加するアミナ(同)
同

有罪になったアミナは8月、釈放され、学業を終了させるためフランスに渡った。パリで自伝『私の体は私のもの』を共同執筆した。そして2年後、チュニジアに戻ってきた。来年1月に女性らしいフェミニスト雑誌を発行するという。

タイトルは『Farida』。ユニークを意味する少女の名前から取った。読者は15~25歳の女性を想定している。アミナは今では「FEMEN」と関係を絶っている。

グローバル化の反動なのかイスラム社会でも保守化の動きが目立つ。アミナのような奔放な生き方を許容できないイスラム主義者もいる。女性の婚前・婚外交渉を家族の名誉を汚したとして女性を殺害する「名誉の殺人」がイスラム社会では今も行われている。

過激派組織ISと国際テロ組織アルカイダが世界中でテロを引き起こし、イスラムと西洋を衝突させようとしている。

チュニジアに帰国するアミナ(同)
チュニジアに帰国するアミナ(同)

アミナがチュニジアに戻ることは死の危険を伴う。それでも帰国する理由をアミナに尋ねてみた。「私が祖国に帰る理由は、パリに行ったときから学業を終え、より強くなることを計画していたからです。こうしたゴールを達成したので、帰国したのです」

アミナ(同)
アミナ(同)

12月10日、ノルウェーのオスロで、イスラム勢力と世俗勢力の歩み寄りを促した「チュニジア国民対話カルテット」にノーベル平和賞が贈られる。一方、アミナはBBCの2015年「100人の女性」に選ばれた。

女性の自由を訴えるアミナ(同)
女性の自由を訴えるアミナ(同)

イスラム女性が女性らしく自由に生きるということはどういうことなのか。鮮烈なヌードで祖国に問いかけたアミナは今度は、ペンで女性たちに訴えようとしている。『Farida』がノーベル平和賞以上の大きな波紋をチュニジア社会に投げかけるのは間違いない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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