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「男は冷酷に自動小銃を乱射した」129人殺害のパリ無差別テロは「イスラム国」の犯行

木村正人在英国際ジャーナリスト
パリで銃撃や爆発 仏政府が非常事態を宣言(写真:ロイター/アフロ)

[パリ発]今年1月、風刺週刊誌「シャルリエブド」やユダヤ教の教えに基づく食品スーパーがイスラム過激派に襲撃され、編集長や警官ら計17人が殺害されたパリが再び狙われた。

13日夜、自動小銃や手榴弾、自爆ベストで武装した過激派組織「イスラム国(IS)」とみられるテロリストグループが国立競技場、コンサート会場やレストラン、バーなどをターゲットに無差別テロを実行し、市民129人を殺害した。負傷者は352人にのぼっており、犠牲者はさらに膨らむ可能性がある。

13日午後9時25分ごろ、フランスとドイツのサッカー国際親善試合が行われていたパリ北部の国立競技場周辺で、爆発音が2度鳴り響いた。これがフランス史上最悪の無差別テロの狼煙となった。パリ10区のカンボジアレストランLe Petit CambodgeとバーLe Carillonで起きた無差別銃撃テロを目撃したエティーネ・フォックスさん(20)は当時の状況を筆者に話した。

血染めになったバーLe Carillon前の歩道(筆者撮影)
血染めになったバーLe Carillon前の歩道(筆者撮影)

「金曜日の夜なので、路上に並べられた屋外のテーブルで大勢の人が食事やお酒を楽しんでいました。突然、タタタタタという音がして、窓の外を見ると火花が散っていたのです。最初は何が起きているのか理解できませんでした。黒い服装をした男は落ち着いて自動小銃を構え、市民を次から次へと撃ち殺していきました」

「銃撃は5分間、続いたように思います。時計を見ると午後9時33分でした。男は、覆面はしていませんでした。あわてている様子もなく、歩いていました。氷のように冷たい印象を受けました。そのあと男がどちらの方に行ったのかは分かりません」

「友人にすぐに電話をして見たことを話しました。友人は『冗談だろ』と打ち消しましたが、『冗談じゃないんだ』と言い返しました。昨夜は怖ろしくて仕方ありませんでしたが、何を見たか話さないといけないと思い、現場に来ました」

この現場では市民14人が死亡した。歩道には血のりがこびりつき、バーのウィンドウには銃弾の跡が生々しく残っていた。「非常に多くの銃声が聞こえました。1年の間に大きなテロが2度も起きるなんて、想像もできません」と近くに住む女子高校生エマ・タマレットさん(15)は声を震わせた。

銃撃されたレストラン La Casa Nostra前で自動小銃を構える警官(同)
銃撃されたレストラン La Casa Nostra前で自動小銃を構える警官(同)

男は待たせていた仲間の車に乗って近くのレストラン La Casa Nostraに移動したとみられている。ここでも自動小銃を乱射、5人を殺害した。銃弾が貫通した窓ガラスの向こう側に、グラスがそのまま残されていた。

銃弾が貫通した窓ガラス(同)
銃弾が貫通した窓ガラス(同)

隣のレストランで今年1月から働いているスウェーデン出身のカール・エレニングさん(27)は「昨夜、店は休みだったので、彼女からついていたねと言われました。フェイスブックでパリにいる友だちが全員無事か確かめました」という。

「フランスと同じようにスウェーデンからも多くのイスラム系移民の若者がシリアに行き、ISに参加しています。これはフランスだけの問題にとどまらず、欧州全体の問題だと思います」

犯行グループは少し離れたバーLa Belle Equipeで18人を射殺。米ロックバンドのライブが行われ、1500人の観衆で埋まっていたバタクラン劇場の押し入り、約100人を人質に取った。弾倉を交換しながら自動小銃を乱射し、最後は自爆するなどして82人を殺害した。テロリストグループは「アラーは偉大なり」「シリアのためだ」などと叫んでいたという。

封鎖されたバタクラン劇場周辺(同)
封鎖されたバタクラン劇場周辺(同)

劇場近くで血染めのTシャツを着て逃げる人を見たという建築家のアレクサンダーさん(39)とミュージシャンのニコルさん(34)は「みんな非常にショックを受けていました。どこでテロが起きるのか分かりません。どこが安全なのかもう分からなくなりました」と話した。無差別テロが行われたパリ10、11区はアジア、トルコ、アフリカ、カリブ海地域から移民が多く、観光客はそれほど多くないエリアだ。

無差別テロの犠牲者を悼む市民(同)
無差別テロの犠牲者を悼む市民(同)

「1月はシャルリエブドとユダヤ人用の食品スーパーが狙われました。今回は無差別テロですが、同時多発的に行われ、用意周到に計画されていました」。劇場はシャルリエブドから北約500メートルに位置している。

団結を示すためにテロ現場に置かれたフランス国旗(同)
団結を示すためにテロ現場に置かれたフランス国旗(同)

オランド仏大統領は13日、非常事態を宣言。翌14日、閣僚を緊急招集して国防会議を開き、パリ市内に軍の部隊1500人を配置して厳戒態勢を敷いた。テレビ演説では「ISの犯行だ。国外で用意周到に準備された戦争行為だ」と断定した。

パリ市内に配置された軍隊(同)
パリ市内に配置された軍隊(同)

フランスはシリアやイラクでISへの空爆を続けており、ISは「8人の同胞がパリの心臓部を攻撃した」「空爆を続ける限りフランスは平和な生活は送れないだろう」との犯行声明を出した。

死亡した実行犯は今のところ8人。劇場にたてこもって死亡した1人はフランス人で、イスラム過激派とのつながりがあるとして仏情報機関に把握されていた。国立競技場周辺で自爆テロを実行したグループはエジプトとシリアの旅券を所持。ギリシャ当局者によると、このシリア旅券は10月初めにギリシャで難民資格申請に使われたものと同じだという。

ショッピングセンター前で所持品検査を行う警官(同)
ショッピングセンター前で所持品検査を行う警官(同)

オバマ米大統領は「一般市民を標的にした許しがたいテロが再び繰り返された。フランスは我々の最も古い同盟国だ。米国はフランスを支える」と表明している。エジプトのシナイ半島でロシア旅客機が墜落、子供を含むロシア人ら乗員乗客224人が全員死亡した事件でも、ISの関連組織「シナイ州」が犯行声明を出しており、15日から始まる主要20カ国・地域(G20)ではISを対象にしたテロ対策が協議される。

パリ無差別テロの地図その1(グーグルマイマップで筆者作成)
パリ無差別テロの地図その1(グーグルマイマップで筆者作成)
同その2
同その2

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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