あなたは中国による「現状変更」を受け入れますか?
大規模な埋め立てに「強く反対」
ドイツ南部エルマウで開かれた先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)は8日、中国やロシアの力による「現状変更の試み」を非難する首脳宣言を採択して閉幕した。来年は日本が議長国で三重県伊勢志摩で開かれる。
宣言は中国の名指しを避けたものの、「東シナ海および南シナ海での緊張を懸念している」として、「威嚇、強制または武力の行使および、大規模な埋め立てを含む現状の変更を試みるいかなる一方的行動にも強く反対する」と明記した。
安倍晋三首相は閉幕後、ミュンヘンでの記者会見でこう総括した。
「力によって一方的に現状が変更される。強い者が弱い者を振り回す。これは欧州でもアジアでも世界のどこであろうと認めることはできません。法の支配、主権、領土の一体性を重視する日本の立場は明確であり、一貫しています。いかなる紛争も力の行使や威嚇ではなく、国際法に基づいて平和的に解決すべきである」
「今回のサミットでもウクライナ情勢であれ、南シナ海、東シナ海の情勢であれ、世界の課題に取り組む上でG7の結束が必要であることを訴えた。こうした主張に対してG7の首脳からは強い賛同や支持を得ることができた」
南シナ海に進出する中国
まずG7エルマウ・サミット首脳宣言を振り返っておこう。航海と飛行の自由を柱とする現在の海洋ルールを維持する方針を確認している。裏を返せば中国による現状変更は認めないということだ。
(1)海洋法に関する国際連合条約に反映された国際法の諸原則に基づくルールを基礎とした海洋における秩序を維持することにコミットする。
(2)東シナ海および南シナ海での緊張を懸念している。
(3)平和的紛争解決および世界の海洋の自由で阻害されない適法な利用の重要性を強調する。
(4)威嚇、強制または武力の行使および大規模な埋立てを含む現状の変更を試みるいかなる一方的行動にも強く反対する。
(5)リューベックにおいてG7外相が発出した海洋安全保障に関する宣言を支持する。
リューベックの「海洋安全保障に関するG7外相宣言」(4月15日)は「東シナ海および南シナ海の状況を引き続き注視し、大規模埋め立てを含む、現状を変更し、緊張を高めるあらゆる一方的行動を懸念している。威嚇、強制または力による領土または海洋に関する権利を主張するためのいかなる一方的試みにも強く反対する」と記す。
習近平主席はバッキンガム宮殿にお泊り
今回のサミットで南シナ海の「大規模埋め立て」について「懸念」から「強く反対」に警戒レベルを引き上げたのがポイントだ。欧州に対して安倍首相は南シナ海に加えて、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への警戒を喚起しようとしたが、外務省ホームページにある首脳会談要旨を見ると反応は予想以上に厳しかった。
【日英首脳会談】
キャメロン首相「日EU(欧州連合)・EPA(経済連携協定)は双方にとってウィン・ウィンの関係をもたらす」「EPAに関する安倍総理の認識を共有する。年内の大筋合意は重要である」「アジア太平洋地域の安全保障について日本からのインプットを期待している。日英の協力は大きな可能性を秘めている」
【日伊首脳会談】
レンツィ首相「日伊両国のシステムを組み合わせていかに協力していくかが重要であると指摘するとともに、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)やTPPを合わせれば、両国の協力はさらに強化される」
【日独首脳会談】
両首脳「日EU・EPAの年内妥結に向け協力していくことで合意」
メルケル首相「日本が国際社会の平和に積極的に貢献していこうとする姿勢を100%支持する」
【日仏首脳会談】オランド大統領「日本は大切なパートナーかつ同志であり、その取り組みに対して連帯を表明する。南シナ海の状況について懸念を共有する。安全、平和の確保のためには、力ではなく対話による解決が重要である」
ドイツは中国とは「合同閣議」を開く間柄で「特別な関係」と言われている。議長を務めるメルケル首相が、AIIBへの懸念をしきりに唱える安倍首相に対し、「(AIIBは)非常に重要な問題なので次期議長国の日本を中心に議論してほしい」とかわしたのも頷ける。
欧州勢の中ではいの一番にAIIBへの参加を表明した英国では、ウィリアム王子が訪中、10月に習近平国家主席夫妻が10年ぶりに英国を公式訪問し、バッキンガム宮殿に滞在する予定だ。オフショア人民元市場を拡大したいキャメロン首相は中国に随分、気を使っている。
意外だったのは、防衛関連企業がヘリコプター着艦装置の輸出契約を中国と結んだフランスのオランド大統領が首脳会談で「南シナ海」に言及したことだ。防衛装備品や技術の移転など日仏の防衛協力はかなり深化しているのかもしれない。
地球規模での日米一体化
では安倍首相が頼みとする米国はどうなのか。4月28日の日米首脳会談を振り返ろう。
(1)日米が中核となり、法の支配に基づく自由で開かれたアジア太平洋地域を維持・発展させ、そこに中国を取り込むよう連携していくことで一致。
(2)中国のいかなる一方的な現状変更の試みにも反対することを確認。
(3)オバマ大統領から日米安保条約第5条が尖閣諸島を含む日本の施政下にある全ての領域に適用される旨改めて発言があった。
(4)南シナ海の問題に関し、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一体的対応の支持など日米で様々な取り組みを推進していくことを確認。
日米共同ビジョン声明は「新たな日米防衛協力のための指針は、日本が地域のおよびグローバルな安全への貢献を拡大することを可能にする。この地域およびそれを越えた地域において、日米両国が海洋安全保障を含む事項についてより緊密な形で取り組み、我々が希求するところを共有する他の国々と連携することを可能にする」と地球規模での日米一体化をうたっている。
オバマ米大統領は共同記者会見で尖閣防衛義務について言及した上で「南シナ海での中国の埋め立てと建設活動について米国と日本は懸念を共有する。両国は団結して航海の自由と国際法の順守に加え、威嚇を手段として用いずに領有権争いを平和的に解決していくことにコミットしていく」と宣言している。
その一方で質疑応答で「日米同盟は挑発とみなされるべきではないと我々は考える。我々は中国の平和的な台頭を歓迎する。それは良いことだ。なぜなら、中国が潜在的な市場として成長しているだけでなく、途上国を支援する役割を我々と分かち合えるからだ。過去数年間、信じられないスピードで数億の中国国民が貧困から抜け出すことができた」と中国に現在の国際秩序下で発展していくことを促した。
大国の力を背景にする国際政治
しかし厄介なのは、国際政治においては国際政府が存在しないため、国際法の執行は大国の力を背景にしなければならず、既存の海洋ルールを守るには米国を中心に価値観と利益を共有する国々が協力していかなければならない。
中国経済の急成長で米国の存在が相対化する中で、中国は東シナ海や南シナ海で現状の海洋ルールを揺さぶり始めている。これは歴史上、何度も繰り返されきたことだ。ハンドリングを誤ると戦争になる。日本の選択肢は大きく分けて2つある。
(1)中国の現状変更を黙認する。しかしこの場合、南シナ海で起きたことが東シナ海の尖閣諸島でも繰り返されることを受け入れなければならない。米国はアジアから撤退しないため、米中が衝突するリスクが高まる。
(2)日米同盟を基軸に現在の国際秩序を守る勢力を増やしていき、その中で中国に平和的な発展を促す。いずれ日本も哨戒機や艦船を派遣して南シナ海の警戒監視を支援することへの検討を迫られる可能性がある。超法規的な事態が出来するのを事前に避けるため、集団的自衛権の行使を限定的に容認しておく必要がある。
あなたはどちらの道を選びますか。アンケートに答えて下さるとうれしいです。
(おわり)
参考文献:海幹校戦略研究2014年12月「南シナ海から東シナ海におけるグローバル・コモンズ― 米国の戦略的リバランスが与える影響 」高田哲哉氏