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W杯優勝目指す習主席が大号令 サッカーFIFAランキングが予言する中国の未来

木村正人在英国際ジャーナリスト

香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストや英誌エコノミストによると、中国の教育カリキュラムで必修科目にサッカーが加えられることになるという。

子供の頃からサッカーの熱狂的なファンで、自分もプレーしていた中国の習近平国家主席が号令をかけた。2011年、韓国首脳と会談した際、当時副主席だった習氏はサッカーに賭ける3つの願いを披露した。

(1)ワールドカップに再び出場する。

(2)W杯を主催する。

(3)W杯で優勝する。

習主席は元イングランド代表のスーパースター、デビッド・ベッカムとも面会したことがあり、ベッカムは中国の世界サッカー大使を務めている。

しかし、習氏が国家主席に就任して60歳の誕生日を祝う13年6月、中国の代表チームは歴史的な敗北を喫す。親善試合でウズベキスタンとオランダにも負けたあと、ホームゲームで中国のタイのU21代表チームにも1-5の大差で負けてしまったのだ。

レアル・マドリードでプレーし、スペイン代表、同代表監督の経験もあるホセ・アントニオ・カマーチョ・コーチは2年前、三顧の礼で迎えられたものの、これを機に解雇された。

中国は2002年のW杯日韓大会に初出場し、1点も取れないまま3戦全敗でグループリーグで敗退。W杯出場を果たしたのはその時だけ。

次のグラフを見ていただきたい。

(FIFAのHPを参考に筆者作成)
(FIFAのHPを参考に筆者作成)

FIFA(国際サッカー連盟)ランキングは1998年12月の37位を最高に、2013年3月には109位まで転落した。現在は99位。ちなみに日本は53位。

トウ小平時代の集団指導体制から毛沢東ばりの独裁色を強める習主席は自らサッカー強化のテコ入れを命じた。せっせと受験勉強に勤しむ一人っ子をサッカーボールに向かわせるには、まず両親や祖父母の考え方を変える必要がある。

16年から高校や大学入試の際、サッカー受験が可能なようにする。17年までに中国全土でサッカー場を備えた学校を2万校建設、新たなサッカープレーヤーを10万人生み出す。

優れたプレーヤーを育成する200大学をつくる。国内外のサッカー専門家やベテラン・コーチ、引退した選手を雇う。小学生が有料スポーツクラブで練習することを支援し、サッカー選手を目指す生徒に奨学金を与える。

北京の朝陽区で10校がサッカーの総合トレーニングを行い、少年・少女のサッカーチームを創設。リーグを結成し、お互いに成績を競う。スポーツ大学など14大学は指導のためボランティアを派遣する。

W杯優勝という「習主席の夢」を実現させるため、20の施策が実施されるという。果たして、習主席の号令一下で中国のサッカーは見事に復活し、W杯優勝という「中国の夢」はかなうのか。

しかし、中国のサッカーがなぜ、これだけ弱くなったかを考えてみる必要がある。果たして強化不足が原因なのか。中国のサッカー界は中国の根深い問題を抱え込んでいた。

(1)一人っ子政策の弊害で子供がわがままになり、チームプレーに貢献できない。

(2)腐敗。ギャンブル絡みの八百長ゲームが横行し、審判、監督、選手が買収されるケースが蔓延している。

(3)代表チームのポストでさえ、カネで売買されていた。

(4)代表チームの成績不振で、子供たちのサッカー離れが急速に進む。

(5)ラフプレーが横行。

(6)幼少期にサッカーのタレントを見出すのが他の競技に比べて難しい。

「上にならえ」の中国で習主席がサッカー強化の号令をかけたことは大きい。しかし、個人のクリエイティビティとチームワークが求められるサッカーの精神は共産党独裁にはそぐわない。サッカーは個性と自由を重んじる総合芸術だからだ。

とにかく腐敗を一掃しなければ、中国サッカーの向上は期待できない。これからのFIFAランキングは中国の未来を占う重要なインディケーターになりそうだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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