日本のネットってヤフトピを見て終わり

後輩記者から「シーラカンス」とからかわれながら大阪で事件記者をしていた筆者は東京で政治部、外信部デスクを経験。ロンドン特派員の任期を終え、50歳で独立、ネットで記事を書き始めた。

「ロンドンでは」「欧米はこうだ」を連発する「出羽守(ではのかみ)」と読者の方の顰蹙を買うことも多いが、日本から遠く離れたロンドンの動きや視点を伝えることで日本のお役に立てればとコツコツ情報発信している。

ロンドン暮らしの筆者はひと昔前まで恥ずかしくて英語で「ハロー」も言えなかった。「事件バカ」(事件取材しかできない、という意味)だった筆者は40歳前に東京転勤した後、英会話学校「NOVA」に駅前留学する。

元手は小泉政権時代に支給された30万円程度の助成金。当時は行き詰まったサラリーマンのスキルアップのために申請すれば英会話学校に通う助成金をもらえた。「同級生」には倒産した大手証券会社の証券マンら再就職先で困っている人たちが多かった。

そのあと米国のコロンビア大学に社費留学させてもらったが、英語を勉強し直したのが遅かったので、今でも日本語で記事をたくさん書いていると英語がわからなくなり、英語の新聞や本ばかりを読んでいると日本語の原稿がおかしくなってくる。

わけもわからぬまま2年前からネットで記事を書き始めて、英紙ガーディアンの動くグラフや魅力的な図・表に興味を持つようになった。せめて表計算ソフトのエクセルくらい使えるようになりたいと思って、データ・ジャーナリズムのワークショップに参加した。

インストラクターはスノーデン事件で米国家安全保障局(NSA)とともに悪名を天下に鳴り響かせた英政府通信本部(GCHQ)の、元職員だった。ほかにも短期のジャーナリズム・スクールに顔を出すうち、欧米のジャーナリズムは情報通信技術(ICT)の発達とともにどんどん進化していることに打ちのめされた。

世界から遅れているのは筆者だけではない。

「日本のネットって、ヤフートピックス(大手検索サイト、ヤフーのトップメージにある小さなニュース欄)を見て終わりなんですよね。そんなイメージ。コンピューターやICTに使われるんじゃなくて、使いこなせるようにならないと」

最近会った韓国・サムスン関係者のきついひと言。

元三重大学長で鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長は自らのブログでトムソン・ロイターのデータをもとに分野別の論文数を分析、「情報分野(computer science)だけに限ると、日本は世界11位であり、韓国はもちろん、人口が2300万人しかいない台湾にも追い抜かれている」と指摘している。

グーグル、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどが世界を席巻しているというのに、情報分野は日本の弱点。なぜか。「日本では、情報分野を勉強しても下請けで使われ、低賃金しかもらえない。飛び抜けてできる人はそのままグーグルに行ってしまうんです」(霞ヶ関関係者)

これは非常にまずい状況だ。

新しいモデル

欧米は日本以上に中国の台頭に危機感を覚えている。日本ではまだ中国の能力を見くびる人が多いが、欧米の研究者やメディアはこのままでは世界は中国にのみ込まれると、必死になって新しいモデルを探している。

経済的には中国の国家統制型資本主義がこの10年、20年の間は勢力を拡大する。中国共産党の一党独裁体制はグローバル経済と民主主義の間に生ずる矛盾を無視できる。中国の中流階級は今のところ中国共産党に寄り添い、自分たちの既得権益を守ろうとしている。だから当分の間、中流階級の反乱は期待できない。

西洋の民主主義は進化すればするほど、権力は分散され、意思決定のスピードが遅くなる。かと言って欧米は自由主義も民主主義も法の支配も手放そうとは思っていない。捨てるにはあまりにも惜しいシステムだからだ。

何より、イデオロギーに縛られない自由な精神こそが革新をもたらすという信念がある。

方や日本はどうか。安倍晋三首相の経済政策アベノミクスで女性の雇用が増え、ほぼ完全雇用は達成されているものの、正規雇用が減り、非正規雇用が増えて固定化されている。

リーマン・ショック前、日本経済は成長し始めていた。しかし、その後の歴史的な超円高、東日本大震災の原発事故による電力価格問題などの「六重苦」で状況は深刻になってしまった。誰も日本の成長に期待できなくなり、国内に投資しなくなってしまったのだ。

貧すれば鈍するというが、一部でやたら非寛容な意見が幅を利かすようになり、「日本を貶める」「卑劣」「嘘つき」と敵を見つけて一刀両断に断罪する言葉が喝采を浴びる。どんどん貧しくなる焦燥感と逼塞感が怒りの感情を生み、誰かを叩きのめすことでカタルシスを覚える。

底知れない闇が少しずつ日本を蝕んでいる。

日本の再建には時間がかかる

日本では移民に対する拒絶反応が強すぎるため、労働人口の不足を補う有効な政策は女性の就労を増やすことだ。出生率も回復させなければ、日本の未来はどんどん先細りする。筆者は今の日本にとって一番大切な政策は子育て支援、正規雇用と非正規雇用の格差解消による賃金の押し上げだと思う。

「2014年度末までに約20万人分、2017年度末までに約40万人分の保育の受け皿を拡大し、待機児童の解消を目指す」という目標に向かって前進はしているが、まだ道半ばだ。出生率が増えても生産性の回復に反映されるのは20年以上も先なのだ。

財政は日銀・黒田バズーカ2によるインフレ頼みの展開になってきた。長期金利がインフレ率を下回っていれば対国内総生産(GDP)比で政府債務残高を減らすことができるが、黒田バズーカ2も青天井ではない。いずれ長期金利に上限を設ける政策が導入されたり、急激な円安やハイインフレが起きたりするシナリオは想定の範囲内に入ってきた。

しかも、これまでは新たな国内の貯蓄分で国債を購入し、単年度の財政赤字を埋めることができていたが、それも限界に近づいている。足りなくなった分は外国人投資家に国債を買ってもらうか、年金・介護・医療の支出を減らすか、消費税の増税などで補うしかない。

日本はこうした問題を「成長」という魔術で覆い隠せなくなっている。日本にはデータを直視して、地道に改革に取り組んで行く道しか残されていない。日本の官庁にはデータが豊富にあるが、十分には使われていない。

戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が日本再建のために残してくれたものはたくさんある。

日本国憲法、税制、教育制度、学校給食、そして統計だ。戦中、日本はでたらめな大本営発表を信じて破滅した。きちんとした統計資料に基いて政策を立てていれば植民地経営の破綻や中国大陸進出の無謀さに気付き、戦争への道に突き進んでいなかったはずだ。

しかし、今や日本の政策は選挙に合わせて補正予算や減税などの景気刺激策が優先され、折角、データに基いて必要不可欠な政策が立案されても選挙にマイナスという理由で脇に追いやられてきた。日本では参院が強い拒否権を持っているため、衆院、参院の選挙のたびに政権の足元が揺さぶられる。

安倍首相は国民から4年という期間を与えられたのに、先の衆院選からわずか2年で衆院解散・総選挙に打って出た。国民は長い目で日本を建て直してほしいと願っていたのに、選挙に勝つため、また国民の歓心を買う政策が必要になってくる。

日経新聞電子版によると、安倍首相は全国幹事長会議で「みなさん、この道しかないんです。15年も続いたデフレから脱却するチャンスを手放すわけにはいかない」と決意を表明した。

マニフェスト(政権公約)の表紙も「景気回復、この道しかない。」。消費税再増税の先送りに伴う社会保障の財源はまったく示されなかったそうだ。これで果たして日本は再建できるのか。もうアベノミクスの道を突き進むしかないと思うと、背筋が寒くなる。

(つづく)