次期主力戦闘機F35をめぐる根深い対立 1機200億円説も 楽観論を信じて大丈夫?

米共和党下院議員が安倍首相にセールストーク

日本に2017年3月までに4機が納入される予定の米最新鋭ステルス戦闘機F35については、強烈な懐疑論を唱えるジャーナリストとシンクタンク、計画を推進する米ロッキード・マーチン社、米国防総省、米共和党下院議員が激しく対立している。

今年4月、エリック・カンター下院共和党院内総務率いる下院議員団(共和党8人、民主党1人)が訪日。一行のケイ・グレンジャー共和党下院議員が下院HPでこんなことを打ち明けている。

「アジアで最も緊密で重要なパートナーは日本です。安倍晋三首相と、小野寺五典防衛相と会談し、F35と垂直離着陸輸送機オスプレイの素晴らしさを議論しました」

F35については、国防総省とロッキード・マーチン社がタッグを組んで凄まじいロビー活動を展開している。グレンジャー議員の発言からもわかるように日本もその例外ではない。

対照的な欧州とアジア・太平洋

欧州債務危機の影響で財政再建を進める欧州では、開発が遅れ、調達コストが膨らむ一方のF35の購入を減らす国が目立つ。

英国 138機を購入予定も48機どまり

イタリア 90機を半分に削減することを検討

オランダ 85機から37機に削減

一方、尖閣を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定するなど中国の軍事的な台頭が著しいアジア・太平洋地域では逆に、F35の購入を拡大する動きが出ている。

オーストラリア 14機から72機に拡大

日本 42機からさらに拡大することを検討

韓国 40機予定

シンガポール 購入要望

以上は米紙ニューヨーク・タイムズからのまとめだ。ウクライナ危機があったとはいえ、ロシアと欧州の関係が冷戦時代に逆戻りすると考えている欧州の外交・安全保障関係者は少ない。

しかし、アジア・太平洋地域では中国が東シナ海や南シナ海で領土的野心をあからさまにしている。集団指導体制から一極体制に転換した習近平国家主席は「強兵路線」に邁進する。「中華民族の偉大な復興」を掲げて、屈辱の歴史を晴らし、19世紀以前の偉大な栄光を取り戻そうという「中国の夢」を描く。

ロイター通信に「国防総省が巨大な予算を投じたF35は旋回することも上昇することも運行することも不可能だ」というコラムを書いた米軍事ジャーナリスト、デービッド・アックス記者に電子メールで質問した。

「1機当たり200億円以上」

筆者「航空自衛隊が調達するF35Aは17年3月までに納入されますか。1機当たりのコストはどれぐらいになりますか」

回答「17年の納入は可能です。しかし、訓練や戦術的な開発にそんなに多くの時間をとれないでしょう。17年にF35が納入されることがあっても、実戦配備されることは100%ありません。購入費用だけで1機当たり少なくとも2億ドル(約203億円)かかることが予想されます」

筆者「万が一の場合の代替策はありますか」

回答「他の選択肢がいくつかあります。米国のF15サイレント・イーグル、F/A-18E/Fスーパー・ホーネット、欧州のユーロファイター、グリペン、ラファール。これらの戦闘機はすべてF35より安くて、効率的です」

筆者「どうしてF35をめぐっては懐疑論が多いのでしょう」

回答「F35が不適切な戦闘機だから、これだけ懐疑論が多いのです。しかし、米政府がF35計画を撤回することは絶対にありません。F35計画は数千人の雇用を生み出し、政治の強い支援を受けているからです」

筆者「日本の読者の中には、問題なのはF35B(短距離離陸・垂直着陸)やF35C(艦載型)であって、通常離着陸型のF35Aは問題ないと考えている人が多いのですが、あなたはどう思いますか」

回答「すべてのF35モデルは深刻な問題を抱えています。デザインの要素を共有しているからです。F35Aのエンジンは欠陥を抱え、ステルス性や運動性能にも乏しく、搭載量が適切ではありません。コストが高く、兵站システムも複雑です」

「ロビー活動は同盟国にも不幸を広げている」

ワシントンに拠点を置くストラウス軍事改革プロジェクトのウィンスロウ・ウィーラー所長にも電子メールで問い合わせた。

ウィーラー所長「F35Aは高すぎて、まかない切れない。戦闘機としてのパフォーマンスにも大きな失望がある。F35Aに置き換えられる戦闘機のいくつかと比べても後退している。米国がF35を買ったことで、ロッキード・マーチン社と国防総省が米国にとって重要な同盟国に対し、米国と同じ過ちを繰り返すようロビー活動を展開するチャンスを与えたのは不幸なことだ」

ウィーラー所長が送ってきてくれた記事によると、6月23日のエンジン出火では、F35の可燃性プラスチック配合の胴体と尾部の大半が燃えたと報じられた。F35は雷や暴風雨の中を飛ぶ時に深刻な問題を抱えており、滑走路が濡れている時にも問題を生じるという。

国防総省のマイケル・ギルモア運用試験評価責任者の13年度年次報告書によると、F35のソフトウェア開発は計画からかなり遅れている。報告書は「ブロック2Bソフトウェアの新たな増加に伴う初期の結果は、融合やレーダー、電子戦争、飛行、電子・光学式照準システムEOTS、分散開口システム、乗員専用ヘルメット搭載型ディスプレイシステム、データリンクに依然として欠陥があることを示唆している」(40ページ)と指摘している。

回答避けたNATO幹部

シンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で25日、「北大西洋条約機構(NATO) 前進する道を描く」と題したパネルディスカッションが開かれたので、ジェイミー・シーNATO次官補代理(緊急安全保障担当)に質問してみた。

筆者「日本はF35を買い増す計画がある。しかし、最近、F35の懐疑論が強まっている。エンジン出火の問題やコスト、開発の遅延をどう考えますか」

シー氏「兵器の調達はNATOではなく、各加盟国の問題だ。しかし、同じ戦闘機を複数の国が運用することで、訓練やスペアパーツ、兵站など運用コストを下げることができる。NATO加盟国の中には旧ソ連製の戦闘機を使用している国もあり、相互運用できるようにアップグレードしていく必要がある」

ディスカッション終了後にシー氏に追加の質問をしようとしたが、「次の予定がある」という理由で拒否された。要するに明確な答えは避けたということだ。元米政府関係者は筆者に「F35はもはや商売の問題」と指摘する。

筆者は防衛専門家ではないが、安倍政権が中国の脅威を理由に大盤振る舞いをしていないか、ちょっと心配になる。日本の政府債務残高は国内総生産(GDP)の245%。F35の調達・運用コストがいくらになろうが、財政再建に取り組む気のない安倍政権には痛くも痒くもないのかもしれない。

米国がF35を売り込む本当の理由

F35支持派の米シンクタンク、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン上級研究員は昨年6月、F35の予算について上院で代替案を提言している。筆者は米コロンビア大学でオハンロン氏の講義を聴講したことがあるが、兵器の能力と損傷率から作戦を計画する方法を教えてくれた。

オハンロン氏が挙げる代替案は次の通りだ。

(1)2500機購入するのを半分にして1250機にする。

(2)海軍のF35Cはキャンセル。F/A-18E/Fスーパー・ホーネットを購入したり、長距離無人攻撃機を開発したりする必要性の方が高い。

(3)1700機を超えると予想される空軍のF35の数を約半分に減らす。

大雑把にいってF35は米軍が2500機、同盟国が700機を調達するとみられていた。しかし、財政再建に取り組む欧米の調達計画は大幅に見直される可能性がある。

日本と米国の財政状況を比べると、日本の方が米国よりはるかに危機的だ。筆者の目には、米軍が財政削減のため買えなくなるF35を、中国の脅威にさらされるアジア・太平洋の同盟国に売りつけようとしている構図が浮かんでくる。

なぜ、グレンジャー共和党下院議員は安倍首相や小野寺防衛相にF35を熱心に売り込んだのか。日米同盟を強化するためか。それとも、防衛産業にかかわる選挙地盤の雇用を守るためなのか。

(おわり)