サンフランシスコ講和条約「さまよえる靖国」(16)
右の論者とみられる「ヤマモト ジュン」さん(右という評価が間違っていたらゴメンなさい)からYahooニュース個人に貴重なコメントをいただいた。
ヤマモト ジュン
・東アジアの問題はサンフランシスコ講和条約を基盤にした和解のプロセスを日本が踏み外そうとして起こっているのではない。サンフランシスコ講和条約の和解のプロセスを公然と挑戦しているのが中韓であるということを理解しなければ読み解けないでしょう。
・東アジアの和解は中韓が戦後秩序に復帰しまず第二次世界大戦後に決定された国境不変更の原則に立ち返ることこれにつきます。歴史の解釈などは国境不変更を両国が宣言すればいくらでも解決できます。
・中国高官のこちらの発言の方がよっぽど問題じゃないですか?
リンクは筆者も愛読する地政学の専門家、奥山真司さんのブログである。中国が戦後のアジア秩序を決定したサンフランシスコ講話条約に挑戦しようとしているのなら、トウ小平氏の外交政策「韜光養晦」(とうこうようかい、時が来るまで力をたくわえること)を変更したことになる。
ロンドンにあるシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)でアジアに詳しいロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのクリストファー・ヒューズ教授が28日、パネルディスカッションに参加したので質問してみた。
筆者「中国は韜光養晦の外交政策を変更したと思いますか」
ヒューズ教授「世界金融危機が起きた2008年を境に変更したと考えます」
米国の軍事史研究家、エドワード・ルトワック氏も英BBC放送にこんな見方を示している。
「世界金融危機を超大国としての米国が崩壊する前兆と解釈した中国は、長らく眠らせていたインドのアルナーチャル・プラデーシュ州の領有権を主張、日本の政治家からの友好的な協議の申し入れを拒否する代わりに尖閣を要求した。フィリピン、ブルネイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)内にあり、いかなる中国の海岸から数百マイルも離れている南シナ海の領有権を広範囲にわたって要求している」
以前、国際戦略研究所(IISS)で講演した親中派のケビン・ラッド前オーストラリア首相も同じ見方を示している。
「2008年の世界金融危機が起きる前は、中国は欧米諸国の新自由主義経済モデルを信奉していた。しかし、危機後、欧米諸国が膨大な政府債務を抱え、低成長に陥ったため、欧米モデルの限界を認識した。オバマ米大統領の民主党と野党・共和党の対立で米国の政治システムは機能停止に陥り、今後も米国経済を回復させる有効打が打てないと中国は見切った。過去5年間で米国経済の未来について徐々に見下すようになった」
中国は2008年以降、トウ小平氏の「韜光養晦」政策を変更したと断定して良いと思う。
NHKに求められるのは、籾井勝人会長のような浅慮の人ではなく、こうした国際情勢の激変ぶりを世界に発信していける人材である。筆者は今後、日本が国際社会に発信していくアジア外交のキーワードは「サンフランシスコ講和条約による戦後秩序」になると考えている。
だから、東京裁判やサンフランシスコ講和条約に異を唱えようとする自称「真正保守」の主張に筆者はとても同意できない。
1月22日にロンドンの英国王立統合軍防衛研究所(RUSI)で講演した日本国際問題研究所の小谷哲男研究員にお話をうかがった。
――今度のアジア秩序を考える上で、サンフランシスコ講和条約をどう考えたらいいのか
「サンフランシスコ講和条約によって築かれたアジアの秩序やさまざまな国際関係に挑戦しているのは中国だ。中国はこれまでサンフランシスコ講和条約がもたらした安定のもと経済発展を遂げてきた。それに挑むのは中国にとってメリットがないことをわからせるべきだ」
――安倍首相の靖国参拝は東京裁判史観の否定、引いてはサンフランシスコ講和条約を否定するというメッセージにならないか
「靖国神社に参拝するのはサンフランシスコ講和条約を否定するためだと言っているのは中国であって、日本政府としてサンフランシスコ講和条約にチャレンジするとはひと言も言っていない。日本政府はサンフランシスコ講和条約に基づいてやってきたし、これからもそうしていく」
――サンフランシスコ講和条約の効用は
「サンフランシスコ講和条約を作った米英はそこから利益が得られると考えたからそう書いた。英国はアジアからかなり引いてしまったが、彼らが作った秩序が脅かされるのは、英国が再びアジアに関与していく上で決してプラスにならない」
――中国の戦略をどうみるか
「中国人民解放軍は定期的な会合で、沖縄を抜けて外洋に出ていくこと、海上優勢と航空優勢を確保することを発言している。海上優勢と航空優勢をセットで実現するためには空母を作るか、島を取るしかない。それで空母を作ろうとしているが、あまりに脆弱だ。となると島を取るしかない。一番可能性が高いのは先島諸島の石垣島、ついで宮古島、与那国島だろう」
――英国への働きかけは
「安倍首相は就任前に安全保障ダイヤモンドを提案した。日本、米国、オーストラリア、インドだ。一方、英国は旧植民地のシンガポール、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランドと『ファイブパワーズ』という防衛取り決めを結んでいる。スエズ動乱以降、ファイブパワーズの活動は活発ではなくなったが、安倍首相はファイブパワーズにも言及している。観測史上最大規模の超大型台風30号ハイエンに直撃されたフィリピンで英艦船が災害救助活動を行うことができたのも日本の協力があったからだ。たまたまシンガポールに着ていた英海軍の空母と駆逐艦が参加できた」
――台湾海峡、尖閣で何か起きたとき米国はどう出ると思うか
「約20年前に比べて 中国の接近阻止能力は向上している。空母を台湾海峡沖に送るのは米国にもかなりの決意がいる。しかし、何もしなければ米国の威信は失われてしまう。シリアの場合は軍事介入すると言って、しなかったが、米国の国内法として台湾関係法がある。尖閣についても日米同盟という条約があってシリアのようにはならない。米国として介入しないというオプションはない」
――偶発的な軍事衝突を避けるための日中の危機管理チャンネルができたとしても、いざというとき機能するのか
「中国の論理は別物なんです。(今のところ)軍事力が米軍に比べて弱いから、監視されたくない、見られたくないという気持ちが強く働く。だから、米軍が毎日のように近づいてきて偵察するのを嫌がっている。それを何としてもやめさせたい。国際法を恣意的に解釈して米軍のやっていることは国際法違反だというフィクションを作り上げようとしている」
日本は靖国参拝、従軍慰安婦などの問題で無用にナショナリズムをあおるよりも、こうした情報発信をあらゆるチャンネルを使って国際社会に行っていくことが大切だ。
サンフランシスコ講和条約は復讐(力づくでの国境変更)を防止する和解のメカニズムである。自称「真正保守」がサンフランシスコ講和条約を否定するムードを漂わせていることが果たして日本の国益につながるのか。
(つづく)