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米乱射事件から1年、銃メーカーはボロ儲け

木村正人在英国際ジャーナリスト

52%の増益

米東部コネティカット州ニュータウンの小学校で男が銃を乱射、児童ら26人が犠牲になった事件から14日でまる1年が経ちました。オバマ米大統領が宣言した連邦レベルの銃規制強化は頓挫しています。

罪のない子供たちが凶弾に倒れた悲劇にもかかわらず、米国の政治家が銃規制を強化できないのはなぜでしょうか。

英紙フィナンシャル・タイムズによると、ニュータウン事件で使われたライフルを製造した銃メーカーは今年、約52%の増益を見込んでいるそうです。

事件後、護身用に銃を購入する人が相次ぎ、銃規制強化を見込んでの駆け込み需要が銃メーカーの増収増益につながったようです。米国では子供たちを守るため、銃の扱い方を学ぶ教師もいるそうです。

米国の銃を保有する権利は、「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを侵してはならない」という米合衆国憲法修正第2条を根拠にしています。

しかし、西部開拓時代から受け継がれる「米国の銃文化」も狩猟人口の減少や犯罪率の低下で曲がり角を迎えています。1990年には銃を保有する世帯は全体の46%、個人は29%でしたが、2010年にはそれぞれ32%と21%まで下がってきています。

それに加えて、銃規制の強化を許せば、銃をこれまで通り販売できなくなると危機感を強めたロビー団体が先鋭化し、非妥協的な反対運動を展開、今年4月、米上院で銃規制強化法案は否決されました。

米国の民間銃2億7千万丁

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米オンラインマガジンSlateの gun-death trackerによると、ニュータウンの銃乱射事件の後、全米で銃の犠牲者は14日時点で1万1494人にのぼっています。

100人当たりの銃保有数は米国が88.8丁と世界一です。米国の人口約3億1160万人に対して、民間の銃保有数は2億7千万丁です。銃を使った殺人事件の発生率も先進国の中では米国が断トツに多いのです。

「悲劇を繰り返さないよう銃規制を強化して」というニュータウン事件の遺族の声に、ロビー団体「全米ライフル協会」(NRA)もいったんは軟化の姿勢を見せていました。

大量の弾を装填できる弾倉や攻撃的銃器の販売禁止の法案化を規制派にあきらめさせる見返りに、銃購入時の犯歴照会など資格調査を銃の見本市やインターネット販売にも適用する妥協案を全米ライフル協会も支持していました。

しかし、他の圧力団体が「銃を持った悪者から身を守るためには銃を持つ自由が必要だ」「全米ライフル協会は銃保有者の権利を守ろうとしていない」というキャンペーンを展開したとたん、全米ライフル協会も強硬姿勢に逆戻りしてしまいました。

全米ライフル協会は500万人の会員数を誇り、上院・下院選挙に大きな影響力を持っています。共和党議員であっても民主党議員であっても、全米ライフル協会は逆らうことができない怖い存在なのです。

しかも、草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」の影響で共和党が民主党のオバマ大統領に非妥協的姿勢を強めていることも、銃規制強化が進まない大きな理由になっています。

米国では1960年代にケネディ大統領、キング牧師が暗殺されたことがきっかけとなり、68年に銃規制法が施行されました。

しかし、その後、全米ライフル協会がロビー活動を強化して銃規制法を緩和するなど、銃規制強化にことごとく反対してきました。

遺族の涙

連邦レベルでは暗礁に乗り上げた銃規制強化ですが、州ごとには進展を見せました。ニュータウンの事件を機にコネティカット州とコロラド州など20の州で銃規制が強化されました。

全米に約7千店を持つ大手コーヒーチェーンのスターバックスは店内に銃を持ち込まないよう客に要請しました。

しかし、ウェッブサイトThe Truth About Gunsによると、今年、すべての州で66本の銃規制法が導入されたのに対し、銃規制を緩和する法律は74本も成立しています。

米国の銃文化は、狩猟人口の減少など時代の流れにかかわらず、まだまだ強固です。米連邦最高裁は2010年に「憲法修正2条は州や市の法令にも適用される」として、短銃の所持を禁じたシカゴ市の銃規制を違憲と判断しています。

一方、英国やオーストラリアでは同様の銃乱射事件をきっかけに銃規制が強化され、銃を使った殺人事件の発生率は米国に比べて格段に少なくなっています。

オバマ大統領は銃規制を求める国民の運動に期待を寄せています。

ニュータウン事件の遺族は、声高に銃規制反対を唱える人たちの気持ちがわからないと規制強化の運動は広がらないと、実際に射撃場に足を運んで銃を手に取り、射撃してみました。悲しくて涙が止まらなかったそうです。

増収増益となった銃メーカーの資金は全米ライフル協会などの圧力団体に還流するのでしょう。

この悲劇を米国の話として済ますことはできません。西太平洋の米領グアムにある射撃場では興味本位で銃を撃つ日本の観光客が多いそうです。銃を撃つ前に日本人も、ニュータウン事件の遺族が流した涙の意味を考えてみる必要があります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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