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G8サミット、多国籍企業の租税回避を規制

木村正人在英国際ジャーナリスト

主要8カ国(G8)首脳会議が17、18日、英国・北アイルランドのロック・アーンで開かれる。死者が約9万3千人に達したシリア内戦、多国籍企業による租税回避の規制に焦点が当てられる。

英国がロンドンG20で盗聴

英紙ガーディアン(電子版)はG8開幕前夜の16日、英国の通信傍受機関、政府通信本部(GCHQ)が2009年のロンドンG20首脳会議などで各国代表団の電話や電子メールを盗聴していたと報じた。

GCHQと英情報局秘密情報部(MI6)は代表団の電子メールを傍受するため、偽のインターネットカフェまで設置していたという。

ガーディアン紙のスクープでホスト役キャメロン英首相の面子は丸つぶれだが、情報機関が秘密裏に国際会議で各国代表団の情報を収集しているのは、いわば「公然の秘密」だった。

告発サイト「ウィキリークス」が公開した米外交公電によると、米国務省は、国連高官、安全保障理事会常任理事国の国連大使に関して情報伝達システムのパスワード、クレジットカード番号、DNAや指紋などの生体情報の収集まで米外交官に指示していた。

「外部スタッフ」だった告発者の米中央情報局(CIA)元職員でコンピューター技術者エドワード・スノーデン氏(29)はいったい、どこまで自由に機密情報にアクセスできたのか。

今回の問題はウィキリークスの場合と同様、国家の情報管理の甘さにも大きな疑念を投げかけている。

多国籍企業の租税回避

シリア内戦に関してキャメロン首相は16日、ロシアのプーチン大統領と会談、内戦を一刻も早く終わらせるというゴールでは一致した。

しかし、欧米諸国による反政府軍への武器供与などをめぐって、アサド政権を支援するプーチン大統領が反発するなど、欧米とロシアの利害は依然として対立している。

米国経済は確実に回復しているが、欧州経済は低迷を続ける。今回のG8では経済問題を脇に置いて、多国籍企業の租税回避を規制するため、米国と欧州が経済協力開発機構(OECD)に国際ルールづくりを働きかけることで合意する見通しだ。

多国籍企業の租税回避問題に最初に火をつけたのは英国だった。

スターバックス英国法人の節税法

昨年10月、ロイター通信は、世界的なコーヒー店チェーン、スターバックス英国法人は1998年に英国に進出、累計で30億ポンド(約4470億円)以上の売り上げがあったにもかかわらず、課税対象となる利益が発生した年は1年で、納めた法人税はわずか860万ポンド(約12億8140万円)だったとスクープした。

スターバックスが法人税を圧縮していた手口とは。

【手口その1】同英国法人はコーヒー1杯の代金の6%の知的財産使用料をオランダの会社などに払っていた。

【手口その2】コーヒー豆をスイスの会社から購入、法人税が英国の約半分のスイスに利益を移していた。

【手口その3】グループ内の融資の際、同英国法人はロンドン銀行間取引金利(LIBOR)に4%を上乗せした利息を支払っていた。ちなみにファーストフードチェーンのマクドナルドのグループ内の利払いはLIBOR以下だった。

日常的な租税回避

複数の国にまたがって活動する多国籍企業の場合、子会社や関連会社との取引を利用して、法人税の高い国で経費を計上し、「タックス・ヘイブン(租税回避地)」や法人税率の低い国で所得を申告する租税回避行為が日常的に行われている。

税金を含めコストをギリギリまで切り詰めて国際競争に勝ち抜き、最大限の利益を上げることが株主から委託された経営者の責務だという考え方が米国企業には定着している。

これに対して、各国の税務当局は、不当な価格でグループ内の取引を行って利益を法人税の低い国に移転させる行為に目を光らせている。法人税を取り損なわないよう、他企業と取引を行った場合と同じ価格でグループ内の取引を計上するよう各企業に求めている。

しかし、IT(情報通信技術)の飛躍的な進歩などで、知的財産やサービスといった無形資産が取引されるようになり、価格の算定が難しくなった。

各国政府とも雇用を確保するため、できるだけ法人税率を引き下げて多国籍企業が自分の国で法人所得を申告し、法人税を納めるよう促している。

世界金融危機の後、財政再建に取り組む欧米諸国は、法人税率を引き下げて、代わりに所得税や付加価値税(日本の消費税に相当)を引き上げるか否かのジレンマに陥っていた。

租税回避行為が指摘されているのはスターバックスだけではない。アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック、コカ・コーラ、米半導体メーカーのインテルなどが次々と俎上に挙げられ、米多国籍企業への批判はドイツ、フランスにも広がった。

「これはモラルの問題だ」

いずれも違法な脱税ではなく、合法的な節税行為のため、英下院決算委員会のマーガレット・ホッジ委員長(労働党)は「これは法律ではなく、モラルの問題だ」と指摘した。所得税や付加価値税を負担させられている英国の消費者は、法人税を納めていなかったスターバックスを許さず、不買運動を起こした。

過去3年間、英国で計12億ポンドの売り上げがあったのに法人税をまったく納めていなかったスターバックス英国法人は昨年12月、今後2年間は利益の有無に関わらず1年につき法人税として約1千万ポンドを納めると発表した。

スターバックスは、租税義務を回避していたわけではないと断った上で、「消費者の声に耳を傾けた結果だ」「スターバックス創業の精神に立ち返った」と自発的な納税の理由を説明した。

しかし、「大企業に対しても社会のいかなる構成員に対しても税金を自発的な条件で決めることはできないし、そんなことはあってはならない」(英自由民主党のアレクサンダー財務担当相)と批判的な見方も広がった。

ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ

米国の多国籍企業は、たとえば「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」と称される手法を使って、法人税の税率が低いアイルランドやオランダの子会社を組み合わせて、所得を高税率の国から低税率の国に移して、法人税を可能な限り低く抑えていた。

iPhoneやiPadが世界中で爆発的に売れている米アップルの場合、昨年9月末までの1年間に海外で納めた法人税率は平均1.93%。しかし、アップルの節税は米国内でも行われていた。

米上院の行政監察小委員会は、アップルが海外子会社を使って数十億ドル(数千億円)の法人税を回避していたとする報告書を発表した。

アップルは特許権の使用料などの名目で、アイルランドの子会社やタックス・ヘイブンとして有名なカリブ海の英領バージン諸島の子会社に利益を移し、法人税を大幅に回避していた。

米国の連邦法人税は、企業収入に応じて15~39%の8段階が適用されるが、アイルランドの法人税率12.5%と比べるとかなり高い。

OECDが国際ルールづくり

英国とドイツ両国の財務相も昨年11月、メキシコで開かれたG20 財務相・中央銀行総裁会議で、多国籍企業がタックス・ヘイブンや法人税率の低い国に利益を移す租税回避行為に網をかけるための国際協力体制の構築を呼びかけていた。

今回の合意の背景には、世界金融危機の後遺症で欧米諸国が財政再建に取り組んでいるため、税収の確保とともに、税の不公平感の解消を図る狙いがある。OECDはこれを受けて、多国籍企業が国ごとの経済活動と納税状況を公表するなど国際課税の透明性を高めるルールづくりを主導する見通しだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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