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「デフレ脱却を公約にする安倍首相が誕生すれば円安・株高・国債下落が進む」 英国の「日本売り」ファンド

木村正人在英国際ジャーナリスト

世界中で最も成功しているファンドの一つとして有名な英オードリー・キャピタルに1年前にできた「日本売りファンド」責任者クリストファー・リグ氏が5日、つぶやいたろう(筆者)の電話インタビューに応じ、「日本の総選挙ではデフレ脱却を公約にする自民党の安倍晋三総裁が首相に就任するとみられており、円安・株高・国債下落が進む大きな節目になる」と語った。

リグ氏が描くシナリオはこうだ。12月16日投開票の総選挙で自民党と公明党で過半数を獲得するか、できなければ自公両党が第三極と協力して政権を樹立することになるが、いずれにせよ、安倍首相が誕生する。日銀の副総裁2人が3月に、総裁が4月に交代し、ハト(金融緩和)派が就任する可能性が強い。野村出身の木内登英委員、モルガン・スタンレー出身の佐藤健裕委員もハト派で、政策委員会9人中、5人がハト派になる。

これまで日銀は日本国債の購入を進めてきたが、株価を上げることも、景気を良くすることもできなかった。2014年4月に消費税を5%から8%に上げるにはデフレ脱却が必要条件で、効果のある金融緩和策は外国債を購入し、円安を進行させて株価を上昇させ、輸出を促進することだ。

そうして初めて消費税率の引き上げが可能になるとリグ氏は分析する。

リグ氏は「安倍首相が公約通り消費者物価指数を2%に引き上げてデフレから脱却することを目指せば、来年中に日本国債10年物の金利は現在の0・72%から2%に上昇、円は対ドルで100円まで下がるだろう。これは不可避なことだ」と予測する。

欧州単一通貨ユーロを導入しているギリシャは金融政策を欧州中央銀行(ECB)に取り上げられているが、日銀は独自の金融政策を実施できるため、日本国債がギリシャ国債のように暴落することはないとリグ氏はいう。

リグ氏は2億5000万ドル(約205億円)の運用を目指しており、「私のシナリオ通り相場が動けば、円安・株高・国債下落のトリプルで収益が得られる。日本国債の先物、金利スワップなどオプション取引を総動員する。円の売りポジションを取る人は増えてきたが、日本国債の売りポジションを取る人はまだ多くない」と打ち明けた。

新興国の頭文字を取った造語「BRICs」の名付け親として有名な米資産運用会社ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのジム・オニールは、2%のインフレ目標を導入すると宣言した安倍総裁に「ウィ・ウオント・アベ」と熱烈なラブ・コールを送ったが、リグ氏も「投資家の誰もが安倍首相の誕生を待ちかねているよ」と話した。

今年、日本では大人用おむつの売り上げが子供用おむつを上回る見通しで、日本売りの時期が来たシグナルと考える投資家が海外で増え始めている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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