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男女平等を認めない宗教は時代にも社会にも受け入れられない 英国国教会が女性主教を否決

木村正人在英国際ジャーナリスト

英国国教会は20日の総会で、女性主教を認めるか、否かの投票を行い、6票の僅差で否決した。女性主教を容認する同教会の宗教的指導者、ローワン・ウィリアムズ・カンタベリー大主教も、年内にカンタベリー大主教に就くジャスティン・ウェルビー・ダーラム主教も「とても憂うつな日になった」と失望感を露わにした。

44ある教区のうち42教区が女性主教の容認を支持し、司祭の約3分の1を女性が占めるようになったことから、女性主教容認の結果が期待されていた。草案は主教院を通過したものの、信徒院での投票で容認に必要な3分の2の賛成にわずか6票届かなかった。

聖書に忠実な伝統主義者や福音主義者は「神様は男性と女性を平等に、しかし違う存在としてつくられた。男性と女性には家庭や教会におけるそれぞれの役割を与えられた」として女性主教に反対していた。

女性主教容認派の英紙ガーディアンは「反対の理由は単純にいえば、女性は男性に教えを説くべきではないということだ」と批判し、英国国教会は「自死を遂げた」と伝えた。

昨年、ウィリアムズ・カンタベリー大主教に対して、キャメロン英首相は「教会は(教会内だけでなく)国全体に語りかけなければならない。聖書も女性の解脱を認めている」と述べ、かたくなに同性愛結婚と女性主教を認めない英国国教会を厳しく批判した。

今回、英首相官邸は女性主教を否決した英国国教会の決定に「政治介入」しない構えだが、不満を募らせているのは明らか。キャメロン首相は21日、下院で「個人的に女性主教を支持していただけに、悲しい結果だ」と述べた。最大野党・労働党の下院議員は「女性主教を認めないのは平等法に違反している」と法的措置を取ることをにおわせている。

英国国教会は1992年の総会で女性司祭を認めたが、教区トップの主教に女性が就任することは認めていない。英国国教会では過去12年にわたって女性主教を認めるか否かの論争が続いており、20日の総会でも7時間にわたって議論が繰り広げられた。少なくとも2015年まで、女性主教を認めない状況が続きそうだ。

英国内では「英国国教会は奴隷制度容認を悔い改めたように、女性が男性に劣っていることをもはや信じていないことを速やかに示すべきだ」という批判が強まっている。

男性と女性は違うものの、社会の構成員として平等である。これを認めることができない英国国教会は、一般信者の教会離れを加速させるだけだろう。

宗教の伝統的価値観とスピードを加速させる時代はそごをきたしている。英国国教会の伝統主義者や福音主義者はかたくな態度を崩しておらず、新しいカンタベリー大主教になるウェルビー・ダーラム主教は同教会内保守派の抵抗と時代のはざまで難しいかじ取りを強いられる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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