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尖閣諸島めぐり英BBC放送に「刀の鯉口を切ったらいいんだ」とタンカを切った石原慎太郎前東京都知事

木村正人在英国際ジャーナリスト

小児性愛者スキャンダルのもみ消し疑惑と大誤報の震源地となった英国放送協会(BBC)の深夜報道番組「ニューズナイト」からの引用で恐縮だが、12日夜、ニューズナイトで尖閣諸島(沖縄県)をめぐって高まる日中両国間の緊張が取り上げられた。

番組の構成は、尖閣諸島周辺で中国の公船による領海侵犯とそれを監視する日本の海上保安庁の巡視船の緊張ぶりを伝えるルポに続いて、日本政府による尖閣国有化に対して中国国内で日本のレストラン、百貨店、自動車が中国人によって襲撃される様子が映し出された。

次期首相とみられている最大野党・自民党の安倍晋三党首が中国での暴動に対して、「中国政府はこうした行動を放置しており、国際社会の基準やルールを守っていない」と強く抗議し、「日本は報復しないが、中国の圧力に引き下がるつもりはない」との考えを示した。

番組の中で日本人の若者が「フォークランド紛争で英国のマーガレット・サッチャー首相が行動したように日本も尖閣諸島を守るため断固たる姿勢を見せるべきだ」と語るなど、日本でナショナリズムが高揚している様子が描かれている。

尖閣の購入構想を発表し、日中両国間の緊張を一気に高めた新党「太陽の党」代表、石原慎太郎前東京都知事が応援団長を務める「たちあがれ日本」の会合に出席したところを突撃インタビューしている。BBCは石原氏を「日本のジャン=マリー・ル・ペン(フランスの極右政治家)」と紹介している。

「中国の動きにどう対処すべきか」と聞かれた石原氏は日本語で「刀の鯉口を切ったらいいんだ」とだけ答えたが、理解しているか心配して戻ってきて、もう一度「鯉口を切ると言ったんだ」と英語で言い直した。

刀の鞘(さや)口は楕円形で鯉の口に似ていることから「鯉口」と呼ばれている。「鯉口を切る」とは「すぐに刀が抜けるように、鯉口をゆるめておく。また、刀を抜きかける」(広辞苑)ことを意味する。

BBCは尖閣諸島について、まず「尖閣」と記し、下に中国名の「釣魚島」と表記している。長年、何の領有権争いもなかった尖閣諸島について、中国側が最近になって領有権を主張し出したことや軍事費を拡大させていることも正確に伝えている。

ただ、安倍氏が「中国はチキンゲームを望んでいる」と分析した点をとらえて、BBCの司会者は「通常、チキンゲームは双方が譲らなかった場合、一つの結果をもたらす」と、日中両国が危険な状態に向かっていることを強くにじませた。

日中両国が尖閣諸島をめぐり紛争に突入する恐れを指摘した英メディアはBBCが最初ではない。英誌エコノミスト9月22 ~28日号は表紙で「中国と日本はこの島々(尖閣諸島)をめぐって本当に戦争に突入するのだろうか?」と問いかけ、ウミガメに「悲しいけど、イエス」と答えさせている。

いま、日本の海上保安庁も海上自衛隊も中国側の挑発に乗らないよう「がまん」を続けている状態だ。安全保障の備えを万全にしておくのは言うまでもないことだが、日本側から中国をむやみに挑発してチキンゲームをエスカレートさせてしまうと日本を取り巻く状況は一段と厳しくなる。

安倍氏が主張したように理を尽くして言うべきことを言うのは大切なことだ。ただ、紛争を解決する手段として軍事力の行使をためらわないという空気やナショナリズムが日本で高揚し、右傾化しているという印象を国際社会に与えるのは、日本の外交にとって得策と言えないばかりか、大きなマイナスになる。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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