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不本意ながらバルセロナが勝てた理由は、あの「反面教師」があったから(クラシコ分析)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ガビとビニシウスは罵り合いもあった。褒められることではないが、そういうこともある(写真:ロイター/アフロ)

ボール支配率35%での勝利は狙ったものとは思わない。強いられたものだ。ただ、事前にリハーサルの場があったことは間違いなくプラスだった。

昨夜(2日)のコパ・デルレイ準決勝のクラシコはバルセロナが先勝した(0-1)。が、その勝ち方は「らしくない」ものだった。

ボール支配率35%――。ちょっとこんな数字は記憶にない。

レアル・マドリー系メディアは「カテナッチョ」だとか「ゴール前にバスを置いた」(=人の壁でゴールを物理的に塞いでしまうから)と軽蔑的に形容しているが、シャビ監督の本意だとは思わない。

イエローが多いシャビ。週末のリーガ、バレンシア戦は監督では珍しい累積出場停止
イエローが多いシャビ。週末のリーガ、バレンシア戦は監督では珍しい累積出場停止写真:ロイター/アフロ

守備的なプランを選択する状況には、あった。

こちらはレバンドフスキ不在、ペドリ不在、デンベレ不在で、相手はケガ人ゼロだったこと。ビニシウスを止めることが最大の使命だったこと。敵地での第1レグで必勝は求められていなかったこと。先制できたこと、だ。

ただ、安全に守備をするなら自らのゴールの前に張り着く手はない。ボールを持って相手の攻撃時間を減らして、相手を自らのゴールから遠ざけておく方がはるかに安全だ。

■ポゼッションの安全神話とデメリット

そもそもバルセロナがなぜボールポゼッションを目指すのかと言えば、安全に守れ、攻撃時間を増やせ、かつ相手ゴールの近くでプレーすれば得点の可能性が上がる。つまり、勝利の可能性が上がるからだ。

が、昨夜はそうできなかった。ボールを持とうとしてもできなかった。リードしていて第1レグなので無理に持つ必要もなかった。

試合前のプランは「ボールを持って敵陣でプレーする自分たちのサッカー」だったはずだが、0-1で時計の針が進んでいくほどに、ボールを持つメリットよりデメリットの方が大きくなった。

ビニシウスを使ったカウンター、という最大の武器をアラウホと戦術で封じた
ビニシウスを使ったカウンター、という最大の武器をアラウホと戦術で封じた写真:ロイター/アフロ

ボールを持つデメリットとは何か?

カウンターを喰うことだ。

パスを繋いで前に出るためには、あらかじめボールの前に人数を割いておかないといけないし、まず相手のプレスをショートパスでかわさないといけない。プレスをかわしてから大きな展開で安全な攻撃へ移る。

危険は相手のプレスをショートパスでかわす瞬間にある。リスクは大きい。が、得るものも大きい。

リスクは前掛かりでボールを失うと自分たちの守備が間に合わないこと。ゲインはプレスをかわすことで相手守備者の数を減らせること。昨日のバルセロナのように、相手にボールを持たせて下がって守り、ロングボールで攻めれば、理屈の上ではカウンターは喰わない。

バルセロナは通常、リスクを負ってもショートパスを繋ぐ価値がある、と考えている。だが、昨夜はショートパスに固執せずロングボールで攻めることのメリットの方が大きかった。しかも、そのメリットは時計の針が進むごとに、相手が前掛かりになったことでどんどん大きくなっていった。

最終的には、前線二枚のアンス・ファティとフェランに対して、レアル・マドリーも二枚、リュドガー、ミリトンで守っていた。これならロングボールの放り込みでも3回に1回くらいは味方に収まり、収まったら決定機を作ることができる。

モドリッチは尻すぼみ。ブスケッツは90分トータルで効いていた
モドリッチは尻すぼみ。ブスケッツは90分トータルで効いていた写真:ロイター/アフロ

■撃ち合いでは勝てないことは実証済み

先週のマンチェスターU戦(2-1で敗れてEL敗退)という、反面教師があったことも大きかった。

あの試合から学んだことは①油断と攻撃への色気が失点に繋がること、②撃ち合いをしたのでは勝てないこと。

あの試合、バルセロナは先制しほぼ完ぺきに前半を終えたが、後半始まってすぐ、ラフィーニャが無理に繋ごうとしてロストし、さらにクリアのチャンスがあったがそれをせずに失点した。立ち上がりの集中力が切れる時間帯で、プレーが少し軽くなった。普通そのくらいのミスでは失点しないが、相手のコンビとシュートが素晴らしかったこともある。

同点になってからは撃ち合いを演じてしまった。ボールを回復する→ショートパスで攻め上がる→相手のプレスに引っ掛かる→背走するの繰り返し。そのうちに前進距離よりも背走距離の方が長くなり、自陣で過ごす時間が長くなり、最後はカウンターで勝ち越された。

あの試合は第2レグで、勝ち上がるためには得点するしかなかったのでしょうがない。だが、昨日の試合は最悪引き分けでも良かった。バルセロナの使命は0-1の時間を1分でも長くすることだった。攻撃のために守備を犠牲にする必要はまったくなかった。

失点はカマビンガのイージーなバックパスミスから。能力は高いが時々プレーが雑になる
失点はカマビンガのイージーなバックパスミスから。能力は高いが時々プレーが雑になる写真:ロイター/アフロ

■“バスを置いた”効果。被枠内シュートゼロ

バルセロナは11本のCKを与えた。これは引いて守る時に負うべきリスクである。だが、相手の枠内シュートをゼロに抑えた。センタリングもシュートもことごとく弾き返した結果である。

なので、防戦一方だったが、リアルな失点の危機はなかった。

「らしくない」勝ち方で「不本意」だったと思うが、だからと言って「不名誉」だとは思わない。自らと相手の戦力の状況と試合の展開によって、バスを置くのが勝利の最短距離になったに過ぎない。

理論的にはポゼッションが勝利の最短距離ではあるが、できなかった。ならば、ポゼッションしないで勝つ方法を探すのみだ。

今のベンゼマは単独で違いを作れなくなっている
今のベンゼマは単独で違いを作れなくなっている写真:ロイター/アフロ

シャビにとっては引き籠っても勝てるオプションも見つかった。DFラインも、それをフォローするMF陣も守り切れるレベルにあることがわかった。

とはいえ、第2レグで同じ戦い方をしてくるとは思わない。ボールは持てるに越したことはない。ポセッションがプランA、引いて守るのはプランBだ。

第2レグは1カ月先の4月5日、今のケガ人は復帰しているだろうし、新たなケガ人が出ているかもしれない。ただ、「引き分けでも決勝進出」なので保守的なプランにはなるだろう。

1つ間違いないのは、ビニシウスにはアラウホを当ててくること。

アラウホがまずビニシウスがボールを持って前を向かないようにする。前を向かれたらガビなりデ・ヨングなりラフィーニャなりが下がってアラウホとともに2対1を作って対応する。

ビニシウスを止められるとレアル・マドリーの攻撃力は半減することもわかった。アンチェロッティ監督が、このビニシウス対策への対抗案を示す番だ。

次の両者の対戦は3月19日、リーガのクラシコ、舞台はカンプノウである。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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