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なぜダメ男ばかり選んでしまうのか?という人に、映画『ワイルド・フラワーズ』(少しネタバレ)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
『ワイルド・フラワーズ』はダメ男のオンパレード

選ぶのが常にダメ男、という人はいるものだ。この作品の主人公もそう。理由は周りにダメ男しかいないとか、男を見る目がないとか……いや、究極の理由は「貧困」なのかも。

※この評には少しネタバレがあります。

『ワイルド・フラワーズ』は、典型的ダメ男というのはどんな奴らなのか、女たちがダメ男を選んでしまう理由について考えさせてくれた。

■子供の優先順位が低いのがダメ男

ダメ男を選んでしまうのは、「周りにダメ男しかいなから」というのはある。

2人の幼い子を持つ22歳の主人公の目からすると、同年代の男は「子供」である。

責任感がなく、ナルシストで、自分にしか興味がなく、趣味人で、生活力ゼロで、夜遊び好きで、妻や恋人になど縛られたくない、と思っている。

ましてや、恋人の連れ子なんて邪魔でしかない。自分より我がままだし、構ってやらないといけないし、うるさく泣くし、すぐ病気をするし……。

優しくてもダメ男はダメ男。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン
優しくてもダメ男はダメ男。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン

ダメ男たちは、子供を敵視する。自分の趣味や遊びの時間を奪ってしまうだけでない。子供は彼女の関心をも奪ってしまう。子供にかまけて自分を構ってくれない、といじける。

ダメ男は「子供」だから本物の子供とぶつかってしまうのだ。

母にとって子供は自分よりも大切な最優先事項だが、ダメ男にとっては二の次。

ダメ男の優先順位は次の通り。

子供が自分の子ではない場合、1:自分、2:恋人(妻)、3:趣味、4:子供。

子供が自分の子である場合、1:自分、2:恋人(妻)、3:子供、4:趣味。

正反対の、良き恋人、良き夫、良き父親ならば、1:子供、2:自分、3:恋人(妻)の順だろう。いや、1:子供、2:恋人(妻)、3:自分という、理想の男もいるかもしれない。

ダメ男は殴った後になぐさめるのがうまい。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン
ダメ男は殴った後になぐさめるのがうまい。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン

■ダメ男は自分勝手に熱しやすい

ダメ男に引っ掛かってしまうのは「見る目がない」という面もある。

主人公もそうだ。

明らかにダメ、見るからにダメ、という男にちょっかいを出されてなびいてしまう。

ダメ男の中には、やたら情熱的で口が上手く「綺麗だ」、「愛している」を連発すれば口説けることを経験的に学んでいる者もいる。

子育てに身も心も捧げて「お母さん」になり切っているところに、「女」として扱ってくれる男が現れるとうれしいものである。

子供の方がちゃんと正体を見破っていたりする。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン
子供の方がちゃんと正体を見破っていたりする。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン

ダメ男は過剰である。

いきなり恋人の名を刺青したりする。一緒に住むアパートを見つけてきて、無職で家賃を払う当てがないのに契約したりする。また女性の方も、当初はそれを愛されている証拠だと誤解する。

ダメ男は「子供」だからすぐに有頂天になってすぐに冷める。「何とかなるさ」という根拠のない楽観論で、衝動的に何かをする。

で、冷めるのは大抵、連れ子が切っ掛けだったりする。

お母さんは子供最優先だが……。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン
お母さんは子供最優先だが……。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン

ただ、主人公の見る目のなさには、周りにお手本がいなかった、というのもある。

母はいない(死別? 離婚?)。父は無職。友だちの家はトレーラーハウス。舞台はバルセロナ郊外で、おびただしい落書き、古びて汚れた建物、移民の多さが貧しい地域だということを教えてくれる。

周りの誰も幸せに結婚していない。知り合いの誰も経済的にも豊かな家庭を築けていない。

自分が愛する男よりも、自分を愛してくれる男を選ぶ手も。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン
自分が愛する男よりも、自分を愛してくれる男を選ぶ手も。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン

■負の連鎖を断ち切ろう

『ワイルド・フラワーズ』のスペイン語の原題は『Girasoles Silvestres』。「野生のひまわり」の意である。

“美しい幸せの花を咲かせようと、荒れ地にたくましく根を張るひまわり”というイメージなのだろうが、そもそも土地は石(ダメ男)だらけで痩せているし、大輪のひまわり(幸せモデル)なんて植わっていないし、自分だって野生種(貧しい生まれ)だから、咲いたところで小さい花(小さい幸せ)しか咲かないのである。

生まれ育った環境が選択肢を狭める。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン
生まれ育った環境が選択肢を狭める。『ワイルド・フラワーズ』の1シーン

周りにダメ男が一杯いるのも、周りが幸せな家庭がないのも、裕福な地域で裕福に生まれなかったせいだろうか?

そう考えると、作品のメッセージはかなり暗いものになる。

主人公の恋人(夫)探しに一言アドバイスするなら「負の連鎖を断ち切ろう」ということだ。

「いったん、生まれた土地と幼なじみたちから離れてみよう」。そのためには恋活(婚活)アプリという便利なものがある。

で、良い男と出会ったら「最後は愛の力を信じよう」である。

愛は万能ではないが、大抵の障害を克服してくれる。

※写真提供はサン・セバスティアン映画祭

ゴッホを意識しただろうポスター
ゴッホを意識しただろうポスター

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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