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『生きる LIVING』『キャメラを止めるな!』はリメイク。が、日本人ならオリジナルを見よう!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
『生きる LIVING』の一場面。ずい分スタイリッシュな2人になっている

リメイクで面白いものに当たったことがない。

『十二人の怒れる男』『惑星ソラリス』『ステップフォード・ワイフ』『オープン・ユア・アイズ』も、旧作の方が断然面白かった。

リメイクは難しい。ハードルが高過ぎるのだ。

■リメイクの困難さ:①名作が比較対象

まず何より、出発点が名作である。

駄作はリメイクされない。名作だからこそリメイクの企画が出てくるのだ。

よって、リメイクは最低でも旧作に並ばないといけない。旧作が名作なら名作でなくてはいけない。でないと「期待外れ」と評価される運命だ。

また、名作には当然ファンが付いている。虎視眈々とリメイクを批判しようと機会をうかがっている。彼らに悪気はない。リメイク作に辛口になりがちなのは、旧作を愛するゆえである。

以上の構造は、小説や漫画の映画化でも同じだ。

映画化されるのは名作だからで、ハードルは当然高く、批判の目は当然厳しくなる。

『キャメラを止めるな!』の一場面。C:Lisa Eitaine
『キャメラを止めるな!』の一場面。C:Lisa Eitaine

■リメイクの困難さ:②旧作でネタバレ済み

リメイクが難しい理由の2つ目は、旧作でネタバレしているからだ。

旧作を見ている人がリメイクを見ても「同じじゃん」となる。ストーリーはわかっているし、結末もわかっている。サプライズは一切ない。

これは興醒めなことだ。

かといって、ストーリーをいじると「違うじゃん」となる。いじらないと「同じじゃん」で、いじると「違うじゃん」。どっちにしても怒られる。

旧作を見ていなければ楽しめる。

実際『インソムニア』『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』『仕立て屋の恋』『スカーフェイス』らは楽しめた。

なぜならリメイクであることすら知らず、当然ながら旧作は未見だったからだ。

『生きる LIVING』のオリバー・ハーマヌス監督
『生きる LIVING』のオリバー・ハーマヌス監督

この点は、小説や漫画の映画化とは違う。

文章の映像化、絵の実写化という部分に作り手の創造の余地がある。

「私が思い描いたものと違う」と怒られる可能性はあるが、「思い描いたものより良かった」と褒められる可能性もある。

■リメイクの意義:新ファン獲得

サン・セバスティアン映画祭では『生きる LIVING』、シッチェス・ファンタスティック映画祭では『キャメラを止めるな!』を見た。

いつもの通り予備知識ゼロで見始めて、途中でリメイクだと気づき、「同じじゃん」となった。

『生きる LIVING』はありがちな題名で舞台がイギリスだったから、『キャメ止め!』は『カット!』という別題名だったから、気が付かなかったのだ。

で、旧作のファンがリメイク作に付けがちなケチの数々を頭の中で思い浮かべつつ、上映終了を待った。

旧作を見た上で見るのは辛かった。『キャメラを止めるな!』の一場面。C:Lisa Eitaine
旧作を見た上で見るのは辛かった。『キャメラを止めるな!』の一場面。C:Lisa Eitaine

『生きる LIVING』は舞台がイギリスで、主人公がジェントルマンだったので少し新味はあった。

だが、旧作の主人公にあった、楽なお役所仕事に安住し、ゆえに人生を浪費してしまった後悔と悲しみが、リメイクの主人公からは感じられなかった。

ただの美談になっていた。ブランコに座って口ずさむ歌の歌詞が教えてくれるものにも、格段の差があった。

一方、『キャメ止め』は『カメ止め』の忠実なコピーであり、どんでん返しが面白味だったゆえに旧作を見ていたものには辛かった。

『カメ止め』を見た人はわかると思うが、リピート構造になっている。『カメ止め』でリピートを見て、『キャメ止め』でリピートを見る。

これは苦行である。

もちろん、旧作を見ていなければいいだけの話、なのだが。

『キャメラを止めるな!』のミシェル・アザナヴィシウス監督
『キャメラを止めるな!』のミシェル・アザナヴィシウス監督

リメイクの重要な意義として、埋もれていた旧作を新作で発見させる、というのがある。

両映画祭に集まったスペインを中心とした欧州の人たちに、黒澤明監督の『生きる』上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』という素晴らしい作品があることを知らしめるためには、リメイク2作は大いに役立ったに違いない。

だが、旧作とリメイク作どっちを先に見るべきか?と相談されれば、間違いなく旧作を推す。

※『生きる LIVING』の写真提供はサン・セバスティアン映画祭

※『キャメラを止めるな!』の写真提供はシッチェス映画祭

『キャメラを止めるな!』の一場面。C:Lisa Eitaine
『キャメラを止めるな!』の一場面。C:Lisa Eitaine

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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