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EURO2020第13日。大盤振る舞いで満腹スペイン、熱戦に水を差すPKの誤審、再び手詰まりドイツ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
態勢を崩して“猫パンチ”でオウンゴール(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

鴨がネギをしょってやって来る。脂っこい肉と相性の良いネギで、ぜひ鴨鍋を食べてくれ、と頼んでくる。スロバキアが鴨で、PKやオウンゴールがネギである。これで、もうゴールで満腹、とならなければ嘘である。

チャンスを山ほど作れど点は取れず。CFモラタはブーイングされ、ルイス・エンリケ監督には批判されている。監督解任が見たいから負けてほしい、と思っている国民も少なからずいる。そんな極限状態にあったスペインにはスロバキアのような相手が必要だった。ゴールチャンスを大盤振る舞いし、それでも得点できなければ自作自演でオウンゴールをしてくれる気前良い相手が、である。

■ハンガリー、“カモネギ”の証明

11分モラタがPKを外した。これでスペイン代表は5本連続失敗の記録を更新中である。ならば、と30分にはDFが「絶対にやってはならない」と小学生時代に教えられる横パスでゴール前にいたサラビアに”アシスト”。シュートがクロスバーに当たり決められないと、ついにGKが救援に向かった。高く跳ね上がったボールにジャンプ一発、バレーボールのアタックよろしく自らのゴールに手で叩き込んだのだ。

「スペイン先制!」。観客席もまず喜び、次に笑った。早く飛び過ぎたせいで態勢を崩し猫パンチのようになってしまったが、本来はパンチングで弾き飛ばすべきだった。

さて、これでつっかえていたものが取れて一気にスペインの攻撃力が爆発するかと思いきや、スロバキアは念には念を入れてもう1点プレゼントしてくれた。

前半ロスタイム、CKからまずクリアミス、次にGKが飛び出しミスで空のゴールをお膳立て。ラポルテが頭で押し込んで2点目、勝負は決した。

56分ジョルディ・アルバのセンタリングをサラビアが右隅に転がし、67分フェラン・トーレスがサラビアのセンタリングをヒールでおしゃれに決め、最後の5点目は混戦からまたオウンゴールだった。他球場でスウェーデンが勝ったため、ほぼ手中にしていた首位抜けは逃したが、そこまで望んでは罰が当たる。決勝トーナメント1回戦はクロアチアとの顔合わせになった。

■クロアチア戦で試される新守備陣

ルイス・エンリケは右SBにアスピリクエタを入れ、右CBにエリック・ガルシアを入れ、右だったラポルテを左CBに動かした。これで、致命的なカウンターを喰う癖が改善されたかどうかはわからない。相手のハンガリーが3試合で枠内シュートはわずか2本で全チーム中最少と、極端に攻撃力が低かったからだ。落ちるかと思えたプレスの勢いは後半も落ちなかった。プレスでボールを奪い返し、ミスを誘って相手をまったく寄せ付けなかった。

あと、マルコス・ジョレンテからバトンタッチされたアスピリクエタは良かった。マルコス・ジョレンテが即興であるのに対し本職のSBはやはり安定感がある。チェルシーのキャプテンとしてCL優勝を経験した彼とブスケッツの復帰で課題のリーダーシップの欠如も解決されそう。彼ら2人はチームのスポークスマンとして、ギスギスした監督とファンとの関係の橋渡し役が期待される。

■ポルトガル対フランス その笛は吹かないはず!

この試合はポルトガルのベストゲームだった。

MFを2枚から3枚にしレナートを入れて補強、さらにロナウドだけを前に残してジョタ、ベルナルド・シルバが下がって来たこともあって中盤は実質5人。これに対しフランスはポグバ、カンテ、それと右サイドから下がったトリソを加えても3人。中盤は完全にポルトガルのものだった。

それでもフランスが一度は逆転できたのは、1つはベンゼマ、グリーズマン、エムバペ、ポグバにチームの劣勢を覆せる個のきらめきがあるため。もう1つは誤審に助けられたからだ。

主審のマテウ・ラオスはこの試合3つのPKの笛を吹いたが、セメドがエムバペに犯したとされるPKだけは納得できない。

主審の指摘する右腕で押し倒した、というのが何度ビデオを見返してもわからない。空中のボールを追って2人の間で接触はあったが、それがエムバペを倒すほど強いものには見えない。

百歩譲って強い接触があったとしても、イーブンボールを競り合っているのだから当然だしお互い様である。これがエムバペがボールをコントロールし運んでいる、という状況なら押した方をPKで罰するのもわかるが……。

今大会はよほどのコンタクトがない限り笛は吹かれていない。その基準から言えばあまりに軽微な接触だった。今大会の基準に反するという意味で、「誤審」だと思う。

激しく詰め寄るぺぺ。気持ちは良くわかる
激しく詰め寄るぺぺ。気持ちは良くわかる写真:代表撮影/ロイター/アフロ

■思わず出たリーガ基準?

マテウ・ラオスはスペイン人でリーガエスパニョーラではお馴染みだ。あるいは接触プレーもハンドも繊細に笛を吹く、というリーガの基準が思わず出てしまったのか? VARが介入したが、接触の強弱というのは主審の解釈に関するものなので、訂正することはできない。

前半終了間際という、大事な時間帯でのPKは展開を大きく左右した。

1-0で終えるのと1-1で終えるのでは後半の入り方がまったく変わってくる。シーソーゲームで、裏カードでのハンガリーの奮闘でポルトガル敗退の危機があったことで盛り上がったが、主審が主役になったことでもう一つ入っていけなかった。ロシア対デンマークでのテュルパン主審のジャッジ以上に疑問符が付くものだった。

FIFAもUEFAはグループステージで怪しいジャッジがあった場合、公に認めることは絶対にないが、決勝トーナメント以降の笛を吹かせないという、厳しい実力主義を採っている。テュルパン、マテウ・ラオスの今後に注目したい。

■ドイツ対ハンガリー、出た!パス待ち

2度リードしたハンガリーはやはり戦えるチームだった。

2トップの一角シャッライが剥がれて絶妙のクロスを送り込み、CBの間を抜けたサライ・アーダムがダイビングヘッドを叩き込んだ1点目のシーンに、彼らの攻撃のすべてが表れている。少数で効率良く、それぞれの一芸を生かして攻める、である。

守備の方は[5-3-2]の布陣のまま、ゴール前にブロックを敷く形を採る。

危険なセンターラインに人を凝縮して集め、サイドは空ける。サイドからセンタリングを上げられても跳ね返せる、という自信があるからだろう。面白かったのは、右サイドでキミッヒがボールを持った場合は2人がかりでブロックしていたが、ギュンターが持った場合はフリーにしていたこと。“どうぞセンタリングを上げてください”という誘導だった。

ハンガリーがゴール前に築いた“肉の壁”
ハンガリーがゴール前に築いた“肉の壁”写真:代表撮影/ロイター/アフロ

密集の中でグンドギャンはほとんどボールに触れなかった。前にスペースがなくドリブルしようのないサネ、ポルトガル戦で大活躍し一躍スターになったゴセンスは足を止めたまま。ボールに触れているのはフリーの3バックと下がって来たクロースだけ。そのクロースからの決定的なパスをニャブリ、ハフェルツはゴール前で待っているが、肉の壁に弾き返されて届かない。レーブ監督はティモ・ベルナー、ミュラーら入れ前線をリフレッシュし、キミッヒをクロースの横に並べパス能力を生かそうとするが、効果なし。

■ブームのゴセンス、評価急降下

67分GKの飛び出しミスで同点にするも、直後にGKの飛び出しミスでお返しして再びリードを許す。84分やっと同点に追いつけたのは18歳ムシアラが、ゴセンスが82分間できなかった左サイド突破に成功したから。ムシアラからのセンタリングをゴレツカが叩いてネットを揺らした。

中央に低いブロックを築かれればどんなチームも攻略に苦労する。ドイツの場合はフランス、ハンガリーにやられて弱点がさらけ出されてしまった。逆に、ボールを持って仕掛けて来るポルトガルのようなチームには、流動的なFWを擁するドイツは強い。決勝トーナメント1回戦の相手イングランドはポルトガル型で相性は良いはずだが、どうか?

※残り1試合、スウェーデン対ポーランドについてはこちらに掲載される予定なので、興味があればぜひ。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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