「技術は歳を取らない」というのはモドリッチのためにある言葉だ。

■数字に見るモドリッチ

スピードは衰える。が、最速で27.9km/h、全選手中278位という彼は、足の速さで勝負しないので関係ない。運動量も落ちる。が、走行距離27.7kmで48位という彼には影響が小さい。174cmで65kgという体は日本肥満学会の肥満度分類でも「普通」で、ぶつかり合いではまず勝てない。勝ったデュエル4回は53位、成功したタックル2回は41位。単独で打開するタイプでもない。ドリブル成功数4回は56位である。

一方で、パス成功率90.7%はパスを200本以上出した選手中、ジョルジーニョ(イタリア)、クロース(ドイツ)、パウ・トーレス(スペイン)、ブリント(オランダ)、シャカ(スイス)に次ぐ5位。このうちパウとブリントはCB、ジョルジーニョはセントラルMF、クロースとシャカはボランチであって、ボランチとトップ下を兼任するモドリッチとは役割が異なる。リスキーなパス、アシストの出し手の成功率は下がる。

ちなみに、上記5人の中でアシスト(1)を記録しているのも、ゴール(1)を記録しているのもモドリッチだけである。さらに、センタリングの成功率51%は全体で9位で、3試合出場選手中では3位。あと興味深い数字で言えば、3試合フル出場で1つもファウルを犯していない唯一のMFである。クリーンなのかアグレッシブさが足りないのかどう解釈していいのかわからないが……。

■W杯MVPレベルを今大会も維持

以上の数字からこういうことが言える。

モドリッチはクロアチアのボールを持ったアクションのうちポゼッション、ボールの分配、フィニッシュに貢献しており、その貢献度は大会有数であると。

ロシアW杯では大会MVPに輝いた。

チームを決勝に導いたあの時は7試合で2得点1アシストだったから、同じレベルか、それ以上のレベルでプレーを続けていることがわかる。W杯後、心身ともに消耗し気分一新を求め移籍を志願したこともあった。だが、3年の年月を経て今もレアル・マドリーでレギュラーであり続けている。世代交代の必要性からイスコ、ウーデゴール、セバージョス、バルベルデが次々と挑戦者として名乗りを上げたが、いずれも退けた。

実直な性格でも好かれている。

スキャンダルの類は一切なし。エゴがひしめくロッカールームで、不平不満も聞いたことがない。「30歳を超えた選手の契約更新は1年だけ」というクラブのルールにも特別扱いを要求しなかった。コロナ禍の経営悪化による年俸10%ダウンを呑んで契約を1年更新したばかりだ。年俸アップ、2年契約を要求したセルヒオ・ラモスが退団した今、レアル・マドリーのリーダーと言ってもいい。

この大会の彼を見ていれば、次のEUROは難しいかもしれないが、来年のW杯はやってくれるだろう。あのアウトサイドに掛けたシュートが衰えるとは思えない。

■メッシのゼロトップと「ライン間」

スコットランド対クロアチアでもチェコ対イングランドでもライン間を動く2人が勝利のカギとなった。クロアチアではブラシッチ、イングランドではグリーリッシュである。

どんなシステムでも横のライン(列)がある。スコットランドの[3-5-2]であれば、3人のDFライン、5人のMFライン、2人のFWラインの3ラインがある。ライン間を動く選手とは3つのラインの間に生まれる「守備の空白地帯」を動く選手のこと。

ライン間を動けるのは特殊能力だ。クロアチアのブラシッチ
ライン間を動けるのは特殊能力だ。クロアチアのブラシッチ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

例えば、有名なメッシのゼロトップというのは、メッシのライン間の動きによって成立していた。

CFのメッシは1列目でじっとしていれば相手CB2人常にマークされている。そこで彼は少しポジションを下げる。相手のMF(2列目)の背後でかつ、DF(3列目)が前に出られないところにある狭い「守備の空白地帯」(=ライン間)を使うためだ。そのマークをされないスペースでボールをもらい、反転して前を向ければ決定的な仕事ができる。

グアルディオラのチームの場合は左ビージャ、右ペドロが裏抜けを仕掛け、DFラインがメッシを追って下がって行けないようにしていた。よって、メッシはまったくフリーで余裕を持ってプレーできた。

バルセロナの場合はそうあらかじめ設計されていたのだが、普通はそうではないから、ライン間を見極めてスピーディにプレーできる選手でなければライン間を使うことはできない。

相手のDFラインが別の選手をケアしていてついて来られず、MFラインが背中に目はないので下がって来られない一瞬の隙にスペースに入り、ライン間が締められる寸前に決定的なパスなりシュートなりをできる選手が、いわゆる「ライン間で動ける選手」である。

これはドリブラーや点取り屋と同じ特殊能力であり、誰でもできることではない。それこそ、モドリッチだってできない。

■クロアチアのライン間の作り方

クロアチアの場合で言うと、大型CFのペトコビッチがバトルしながらCBを引き付けていて、快速ペリシッチが裏抜けの姿勢を見せて相手の右SBを引き付けている状態で、上がって来た右SBユラノビッチが相手の左SBを引き付けると、もうDFラインを上げることはできない。よって、ブラシッチがポジションを下げればフリーになる。

この時ブラシッチはUEFAの布陣図通り右サイドにいる必要はない。ライン間を見つけるいわば「ハンター」なのだから自由に動いた方がよい。

このメカニズムに大いに貢献していたのがモドリッチだった。モドリッチがパスの受け手として最も探したのがユラノビッチであり、ユラノビッチもパスの出し先としてモドリッチを最も選んだ。これは右サイド同士の距離感の近さだけが理由ではない。逆サイドの左SBを左MFコバシッチは半分も使っていないのだから。それと、もちろんブラシッチをパスの受け手として一番使ったのがモドリッチだった。

■イングランドのライン間の作り方

イングランドの場合はもう少しシンプルだ。

右サカ、左スターリングの2人のドリブラーがボールを持って突っ掛けてDFラインを下げて、強引にライン間を広げてしまう。そのスペースをグリーリッシュが使って決定的なパスを送る。ケインも使ってボールに触っていた。

グリーリッシュ(中)。彼もブラシッチも一匹狼っぽいのが面白い
グリーリッシュ(中)。彼もブラシッチも一匹狼っぽいのが面白い写真:代表撮影/ロイター/アフロ

これまでの2試合と最も違ったのがイングランドの3トップの動き方だ。

クロアチア戦でもスコットランド戦でもケインは最前線のセンターに固定され、ほとんどボールに触れなかった。スターリングもフォーデンもサイドに流れるくらいで、3人とも非常に静的だった。

が、このチェコ戦では非常に動的だった。3人うち2人が前に残ってラインを下げておき、残り1人が下がって来てフリーでボールに触る。この動きによって、3トップの孤立、3MFとのコンビネーション不足が解消され、攻撃が活性化した。

特に、爆発的なスピードと相手を混乱させるアナーキーな動き方をするサカは、今後レギュラーとして使ってもいいのではないか。何より彼がいればケインが生きる。

■スコットランドは疲れが出たか

ただ、以上は前半の話で後半は試合自体が静的になっていった。

チェコの方にも得失点差をこれ以上悪化させてはいけない、という想いがあったのかもしれない。グリーリッシュも消えてしまった。マウントもライン間を使えるから、グリーリッシュはまたベンチ生活かもしれない。

最後に、クロアチアに敗れたスコットランドにも一言。

この日は全体的に足が重そうで、激しいプレスやきびきびしたパス回し、勇猛なラグビー的な突進は、観客席が沸いた得点の前後にしか見られなかった。モドリッチを中心としたパス回しを見守るだけの、ロングボールにしか活路を見出せない凡庸なチームになってしまっていた。強行日程の3試合でハイレベルを維持する戦力に欠けていた、ということだろう。あのイングランド戦での勇姿を目に焼き付けておきたい。