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EURO2020第8日。集団技で勝ったスコットランドにみる「サッカーを知る」とは?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
こういう試合をされるとファンは誇らしいだろう(写真:ロイター/アフロ)

格上イングランドと引き分けたスコットランド。こういう試合を見ると、“闘志で勝った”と言いたくなるが、違う。イングランドの猛攻を、根性で身を挺して耐えに耐えたのではない。

正しくは「サッカーで勝った」だ。

スコットランドはイングランドに比べて抜群にサッカーがうまかった。

的確にポジショニングし、的確にカバーリングをし、的確にプレスをし、的確にプレスをせず(後退すべき時は後退し)、的確にマークをし、的確にマークを離し(搔き回されないようマークを受け渡し)、ボールを保持すべき時はして、ドリブルすべき時はドリブルをした、速く攻める時は攻め、間を置くべき時は間を置いた――これを1人のサッカーの天才がしたのではなく、交代要員を含めて全員がした。

■「サッカーがうまい」ってこういうこと

“団結心で勝った”という言い方もしたくない。闘志や団結心はもちろんあったが、ハートの問題ではなく、勝因はもっとテクニカルなものである。

戦術的に賢く、その賢い頭で考えたことを実行できる技術がスコットランドというチーム全体にあった。ボール扱いという意味の個人技であれば、イングランドの方が間違いなく上。だが、1つの状況を前にして、集団で考え、仲間を理解し、次にしなければいけないことを集団で行う、という「集団のインテリジェンスに基づいた集団の技術」という意味では、スコットランドがはるかに上だった。

ここでちょっと余談。

集団技と個人技の優劣を考える際には、こんな空想をする。ジダン対小学生3人で試合をすればどうなるか?

小学生が負けることは絶対にない。的確に三角形にポジションニングすれば、ジダンは絶対にボールを奪えないから。悪くて引き分けだと思うが、みなさんはどう思いますか?

本題に戻す。

■ボール出しはまるでバルサ

スコットランドが最も素晴らしかったのは、自陣深くでDF陣がボールを奪い返した時の対応だ。大きく前へ蹴らなかった。蹴るのはGKだけだった。

3バックと背番号23のギルモアのコンビネーションでイングランドの緩いプレスを外し、両サイドとインサイドMFとのコンビで上がる。「引き付けて→仲間へパス」を繰り返して。行けると思えば単独ドリブルで前へ行く。前を塞がれればくるっと反転しバックパスを戻す。そうしてしばらくワンタッチで繋ぐ。イングランドが前に出て来るまで――これってまるでバルセロナのサッカーである。

スコットランドはボールとスペースの支配を諦め引き籠ることを決してしなかった。ゴール前でフォーデンやスターリングやマウントの個人技がさく裂すれば即失点だから。

スコットランドの選手でイングランドでも代表になれるのは、ギルモアとロバートソンだけだろう。が、それだけ個の技術的に劣っていても、集団の戦術&技術的に勝っていれば互角以上にやれる。

ゴール前にできたモール。元はラグビーだったよね
ゴール前にできたモール。元はラグビーだったよね写真:ロイター/アフロ

■刈り上げ頭に残る母国の原点

欧州カップ戦では負けてばかりのスコティッシュ・プレミアリーグは注目されていないが、草の根でのサッカーを知る指導者による質の高い指導の光景が頭に浮かんだ。

スコットランドのサッカー的な賢さは「母国」であるからでもあるだろう。それを言えばイングランドだってそうなのだが、イングランド・プレミアリーグは、それはそれで素晴らしいレベルの高い別のものに変わってしまった。リーガ・エスパニョーラにおけるアスレティック・ビルバオの立ち位置に似ている。スコットランドの選手の刈り上げ頭に変わらないものが象徴されている。

決めた。これからはスコットランドを応援する!

■クロアチア対チェコ 采配ミスで前半が無駄

「個人技対集団技」という構図はこの試合も同じ。前半のクロアチアの集団技はことの他、下手だった。

これは監督に責任がある。

初戦ノーゴールで、勝ちに行きたいという気持ちの表れだろう。この日は守備的MFを下げ、トップ下にクラマリッチを入れた。が、「攻撃的な選手を入れれば攻撃的になるわけではない」という見本のようだった。

チェコのボール出しが巧みでポジションを下げられPKで失点すると、クロアチアは焦ってロングボールを入れ始めた。が、最前線にいるレビッチはターゲットタイプではなく、対面のCBチェルーストカに完敗。さらに悲劇的なことにクラマリッチが下がって来ないので、弾き返されたボールに対応できるのはモドリッチとコバシッチだけで、相手にことごとく拾われてカウンターを喰っていた。苦し紛れに大きくクリア→これをまた拾われる、ということを繰り返しているうちにモドリッチ以下と前の4人の間に、チェコが自由に使える大きなスペースが空いてしまった。

で、ハーフタイムに2枚代え。CFにポストプレーができる193cmのペトコビッチが入って戦術的なミスは修正されたが、45分間を無駄にしたのは大きかった。ダリッチ監督の誤算は意外にボールを持てずロングボールに頼らざるを得なくなったことだろうが、それも元はと言えば、FWをトップ下に起用した彼の采配のせいである。

チェコは試合巧者だった。引いて守る時は守る、攻める時は攻める、というチームとしての判断が的確だった。シュート数互角、CK数互角、ポゼッションも50%と分け合った。個人技の劣勢を集団できっちりと盛り返した。

この活躍で来季はもうリーガにいないの確実
この活躍で来季はもうリーガにいないの確実写真:ロイター/アフロ

■スウェーデン対スロバキア

この試合は個について話せば十分だろう。スウェーデンのCFイサックだ。

スペイン戦でも彼一人で勝ちそうだったが、この試合もフォシュベリがまったく輝かず、パスワークで崩す力はなく、セットプレーだけが頼りのチームにあって、彼が攻撃のすべてであり、零封したのは11人の力だとしても得点は彼の力だから「イサックがいたから勝てた」と言える。もっとも、イサック絡みで挙げた1点を守り切る、という勝ちパターンしか見えないのは今後がはなはだ不安だが……。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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