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EURO2020第6日。ロシアの正解、ラムジー作『叫び』、やっぱりイタリアでしょ?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ラムジー作『叫び』。今大会最高の悔しがり方だった(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

グループステージも2回り目になってきて「あっ、これ見たことがあるな」というのがでてきた。チーム内の約束事とか「プレー原則」と呼ばれるものが、見えてくるのだ。

対戦相手分析の際には、この既視感あるプレーを拾い上げていくことで特徴をつかんでいく。セビージャの日本人アナリストを取材した時には、分析するために大体4、5試合を見る、と言っていた。彼のようなプロでそのくらいかかるので、私が2試合で見えてくることなんてたかが知れているのだが……。

ただ彼らと違って、私は今大会全試合見ているのと、EURO2008以降の欧州選手権とW杯も全試合見ているので、国をまたいだ比較や前大会のチームとの比較ができる。

■フィンランド対ロシア 可変への考察

この試合のロシアは3バックと4バックの可変システムを採用していた。ポーランドと同じだ。

キーマンは背番号8のバリノフ。守備時には3バックの右CBの位置にいる彼がマイボール時に上がることで、4バックへ変化する。フィンランドが2トップなので相手ボール時には3人で守って1人余らせる。ロシアボールの時にはプッキがポジションを下げるので1トップになり、CB3人で守る必要がなくなりCB2人(=4バック)の形になる。

3バックと4バックの可変というのは、うまく機能すれば両方の「いいとこ取り」ができる。例えば3バックのボール出しの安定性と、4バックの中盤の厚みを両立できる。バラノフは3列目から飛び出してシュートまで撃っていたし、最初の10分間以外はフィンランドの2トップをシャットアウトしていたので、この可変は成功していた、と思う。

なぜポーランドでは機能していなかったのか?

多分、切り替えのキーマンのリブスがSBで、下がるのにも上がるのにも時間がかかっていたのと、2CB(=4バック)に変化しているのに3CB(=3バック)のままのようなポジショニングをしていたCBに問題があったのだろう。約束事が浸透していない印象だ。

ミランチュク(15番)のゴールを祝うジュバ(右)。こうしてチームは出来上がっていく
ミランチュク(15番)のゴールを祝うジュバ(右)。こうしてチームは出来上がっていく写真:代表撮影/ロイター/アフロ

■可変が最適なのは、あのチーム

さて、このロシアを見ながら何を考えていたかというと、「この可変、オーストリアに使えないか?」ということ。

3バックのセンターに釘付けではアラバのタレントがもったいない。守備時には3バックの左CBで、マイボール時にはインサイドMFとして上がって行く。決勝点のアシスト時に上がって行ったのは多分、彼の即興だったので、この際チームの約束事として確立した方が効率が良い。

ロシアはデビュー戦のメンバーを大幅に入れ替えたことでパフォーマンスが上がった。特にジュバの脇を左ゴロビン、右ミランチュクというタレントで固めたことで攻撃の時間が長くなった。この日の先発メンバーが今後のベースになるのだろう。ベルギー戦をこの布陣で見たかったが、監督の方も試行錯誤の面があるのは、時間がない代表戦だから仕方がない。

■トルコ対ウェールズ “天然の”天才の台頭

ウェールズがワンマン(ベイル)チームからツーマン(ベイル+ラムジー)チームになって勝ったわけだが、いかにもラムジーらしいシーンが24分にあった。

ベイルがゴール前に送った絶妙のクロス、後ろから走り込んでフリーのラムジーが何となく蹴ってフカした。体が後傾するとシュートは上へ行くのが道理である。

で、線審に目をやり、旗が上がっていないのを見て初めて頭を抱えた。「うそっ!」って声が聞こえて来そうだった。

おいおい、オフサイドだと思って適当に蹴ったんだろ!

こういう、小学生でも怒られそうなプレーをEUROの勝ち上がりを懸けた試合でできるのが、天才ラムジーである。

彼には「冷たい」という定評がある。良い意味だと「冷静」、悪い意味だと「無関心」。選手には冷たい選手と熱い選手がいる。「闘将」と呼ばれるのはみんな熱い選手だ。

ラムジーは周囲の興奮や期待や重圧とは無関係にプレーできる。多分、サッカーは自分の楽しみのためにやっており、周りはあんまり関係ないのだろう。

天才だが天然でもある。いや、天才だから天然なのかもしれない。おそらく監督には向いていない。

41分、まったく同じプレーで今度は胸で落として冷静にネットを揺らした。誰もが力むところで涼しい顔で撃てるのも、天才かつ天然ゆえである。

■トルコは敗退濃厚 

そんなラムジーに、もう一人の天才ベイルがアシスト役に徹しているのも面白い。ベイルもシュートは大好きなのだが、勝ち抜きのために封印しているのだろう。ウェールズ愛ゆえに。同じ愛をレアル・マドリーでも見たかった。ベイルは代表でのパフォーマンスの方がクラブのそれよりも良い、数少ない選手の一人だ。“愛国心のせいだ”と決めつけたら、逆パターンのメッシに可哀想だが……。

敗れたトルコはグループステージでの敗退が濃厚だ。今大会は3位の6チームうち上位4チームが勝ち上がれる。同じレギュレーションの前大会では勝ち点3でも得失点差ゼロなら勝ち上がれている。得失点差マイナス5のトルコは最終スイス戦に0-5で大勝する必要がある。一方、ウェールズは勝ち点4なので最終節を落としてもトルコを下回ることはなく、他グループの結果次第だが、勝ち上がり濃厚となった。

■イタリア対スイス 手が付けられない…

今大会のイタリアはこれ。シャカのシュートに飛び込むアチェルビ
今大会のイタリアはこれ。シャカのシュートに飛び込むアチェルビ写真:代表撮影/ロイター/アフロ

初戦、内容ではウェールズより上だったスイスでもイタリア相手には完敗。エンボロ、シャキリ、シャカ、ムバブ、リカルド・ロドリゲス、アカンジといったクオリティ的にはそこそこやれるはずのチームが沈黙……。

イタリアの素晴らしさは激しいプレスだ。

ボールロスト後すぐに奪い返すから、ボールもテリトリーも支配できる。キエッリーニがケガをし、どうかなと思ったが、チームとして機能しているから誰が入ってもパフォーマンスが落ちない。

ここまでこれだけ激しいプレスを見せたチームはスペインだけ。スペインは45分間で息切れしたが、イタリアは90分間続けることができる。フィジカル的には全チームの中で飛び抜けている。

精神的にも全開なのかもしれない。

象徴的なのが71分のシャキリの技ありシュートに3人がブロックに飛び込んだシーン。ボールを左右に持ち替え間髪入れずに撃ったのはさすがのタレントだったが、それをあの時間帯と点差(2-0)で身を挺して3人が防ぐ。さぼる者が誰もいない。優勝を目指してチーム一丸というか、勝利への執念が凄い。さっきの話で言えば、イタリアは全員が熱い。

タレントとハードワークがなければ今のサッカーは勝てない。ベラッティが欠場していても、ロカテッリもバレッリもいる。ロカテッリの先制点を挙げたカウンターの起点となる、あのワンタッチのサイドチェンジには溜息が出た。 プレスで奪い返したボールをタレントがゴールに結び付ける。88分なのに前で奪い返したアグレッシブさの帰結としてインモービレの3点目があった。

全チームが1試合を戦い終えた段階で、作り上げたチャンス数が最も多かったのが、イタリアだった。攻め続ける面白さでもオランダを上回りナンバー1。昨日、フランスの牙城を脅かせるのは「イタリアとベルギーくらい」と言ったが、イタリアへの確信はさらに高まった。さて、今晩のベルギーはどうだろうか?

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アラバについて

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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