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突っ込みどころ満載、トンデモ映画『スプートニク』を見逃すな!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
かなり暗い、見えにくい。これは舞台の80年代のソ連そのものだ

これはトンデモである。

荒唐無稽だが、見終わった後、怒りは湧いてこなかった。逆に、みなさんに薦めたくなった。“どう思った?”と聞いてみたくなった。

なぜか?

狙って荒唐無稽になったわけではなく、いたって真面目に丁寧に作った結果、意図せずして荒唐無稽になってしまった。つまり、トンデモ作品だからだ。

■トンデモとは、守備の職人のトンネル

その点で、以前紹介した「馬鹿にするなよ!」と怒りが湧いた『Save Yourselves!』とはまったく異なる。あれは笑わせようという意図がみえみえで、それが空振りしたもの。

“君ら、これで笑えるでしょ。ハイ、笑って”という製作者の気負いが、“こんなもので笑えるか!”という反発を呼んだ。

たとえれば、“力のない打者が身の程を知らずにホームランを狙いにいってやっぱり三振した”という光景だ。見ている方は、あーあ、である

対して『スプートニク』は、守備の職人が基本に忠実に腰を落し正対してゴロを処理しようとしたが、股の間を抜けてしまった。笑ってはいけない。本人に悪気はないスタンドプレー狙いの邪気はないのだから。だが、思わぬ滑稽さに、ワァーと思わず声を上げてしまうのはこっちである。

『Save Yourselves!』は楽しめなかったが、『スプートニク』は大いに楽しめた。よって、みんなに見てほしいのだ。

日本未公開作に鑑賞の機会を提供する貴重なイベント、『未体験ゾーンの映画たち』ですぐに公開されるので、走って見に行ってほしい。

■語り方良し、雰囲気良し。ただズレている

この作品は、突っ込んで楽しむという新しい楽しみ方を教えてくれている。

“そんなわけがない”“あり得ない”と突っ込んでいるうちに114分が終わってしまう。

それなりに展開があり謎解きがあって、物語に引き込まれる。

ここが肝心なところで、ストーリーテリング(語り方)や舞台や絵の雰囲気作りがいい加減だったり、俳優の演技が大根だったりすると飽きる。ただの駄作で終わる。

『スプートニク』はそうではない。

ちょっと名作『惑星ソラリス』を思わせる部分があるなど、その他の部分の完成度は高いのに、肝心の物語言わんとしているところがズレている。そのギャップが笑える。

そこがトンデモであり、もしかするとカルト作となり得るかもしれない。B級ではない。作りが安っぽくないから。

■「検疫」「使い道」「愛の名の下に……」

※以下、ほんの少しネタバレがあります。

主人公の行動の動機は、やはり愛なのか?愛の名の下では、ここまで正当化されるのか?
主人公の行動の動機は、やはり愛なのか?愛の名の下では、ここまで正当化されるのか?

どこが突っ込めるのか?

まったく物語に触れないと語れないので、『未体験ゾーンの映画たち』にある以下の解説を読んだ、という前提で進めます。

ここから引用。

「冷戦最盛期のソ連。不可解な事故で宇宙から墜落したソビエト宇宙船。唯一生還した宇宙飛行士コンスタンチンだが、彼の体内には、“何か”が生息していた。」

引用終わり。

まずは「検疫」である。

生息していた“何か”は宇宙のものだ。そいつの生態は不明だし、そいつに付着しているかもしれないバクテリアやウイルスはさらに未知である。よって、厳重に隔離しないと人類の危機である。あと、普通こういう生態なら考慮すべき点にも不用心。見ていて心配で心配で……。

次に「使い道」である。

“何か”を何に使うか? 物語が説明するその使い道には無理がある。未知で得体が知れないのだ。メリットよりもデメリットの方が、負うリスクの方がはるかに大きい。それに、ボリューム的にも全然もの足りない。増やし方もわからないのに単体で何をしようというの?

最後に、この作品のテーマは「愛」でいいの? 『シェイプ・オブ・ウォーター』の半魚人との愛もキツかったが、これも……。

ぜひ、いろいろ突っ込んでほしい。

※この公式予告編はかなりネタバレなので、背中をもうひと押ししてもらわないと見に行けない、という人だけに。

※写真提供はシッチェス・ファンタスティック映画祭

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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