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映画『プラットフォーム』(1月29日公開)の、見て欲しいからこそ、書けない面白さ

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
『プラットフォーム』の最もネタバレしない写真となると、これか

映画評として最悪なのはネタバレだ。

映画は一期一会で、初見のインパクトが一番強いもの。下手糞な作品評を読んでしまったせいで余計な知識を持ってしまい、感動を弱めてしまう、というのが書き手として一番やってはいけないことだと思う。

「ネタバレ」と断って書く、すでに映画を見た人向けの批評には存在意義がある。

鑑賞後の解釈を持ち寄ってああだ、こうだと意見するのは、映画の楽しみの一つだ(実際、この『プラットフォーム』は大いにそういう楽しみ方をされるはず)。

そうではなく、未見の人向けに映画館へ足を運んでもらうために書く評に、ネタバレがあったら最悪である。

■舞台設定ですらネタバレの恐れ

とはいえ、ネタバレの範囲は書き手によっても、読み手によっても違う。

私は自分が見る前には予告編も見ず、パンフレットからも目を背け、映画評なんてもちろん読まない。あらすじ紹介がすでに私にとってはネタバレなのだ。

みなさんの中には、ストーリーに興味があるかどうかで、見る見ないを決めるという人もいるだろう。そういう人には、私の『プラットフォーム』評は役に立たないので、公式ホームページ等で確認してほしい。ただ、「面白いから、ぜひ見てほしい」とだけは言っておく。

あらすじの代わりに、テーマや舞台設定について語って興味を持ってもらうという手もある。

これが主人公
これが主人公

例えば、こちらの作品評では「不倫と子供」について書いたりもしたのだが、今回の『プラットフォーム』に関して言えば、それすらも難しい。舞台設定をここで明かすことが、すでにネタバレではないか、という葛藤をぬぐい切れない(サラッと、設定もあらすじを紹介できてしまう評論家の方々がうらやましい!)。

ポスターに「SFシチュエーション・スリラー」とある通り、シチュエーションつまり舞台設定そのものが、この作品の重要な見どころであり面白味の一つだからだ。

ポスターを見て起きる疑問――何なのこれ? 食べ物満載のプラットフォームってどういうこと?――が、謎を残しながらも少しずつ明らかになっていくプロセスこそ、この作品の醍醐味で私は一番楽しめた。だから、“主人公の置かれている状況は……です”なんて安易に語れないのだ。

テーマに関しては、プラットフォームが何の寓話なのかは誰でもすぐわかるようになっている。「単純明快に過ぎるくらい」と監督も評している。よって、ここでも省く。

■予告編もできれば我慢で!

公式ホームページにある予告編はできれば見ない方がよい。

“見ないと決められない”という人だけが見れば、映画館へ足を運ぶ決心が必ずつくはずだ。ネタバレの予告編というわけではなく、“ネタバレせずに興味を持ってもらう”よう、スタッフの苦心がうかがえる良質のものなのだが、本編を2度見た者(私)の目からすると、前もって知らない方が楽しめるシーンがどうしても目に付いてしまう。

この予告を見て本編を見ると、“ああこの人こうなるな”と推測でき、予測不能の怖さが薄れる。寓話の部分がシンプルだけにエピソードの衝撃具合が欠けるとマイナスが大きい。

良い作品であることを知ってもらうための周辺情報を少々。

『プラットフォーム』は、2019年のシッチェス・ファンタスティック映画祭プロから見た最高の栄誉である「最優秀作品賞」と、観客から見た最高の栄誉である「観客賞」をダブル受賞している。アメリカのNetflixで昨年最もよく見られた作品の一つであり、スペインではアカデミー国際長編映画賞の出品候補作の1つに選ばれた。最終的には落選したが、SFが候補に入ること自体が極めて異例だった。

面白いゆえに、その面白さが書けない。ポスターか、予告編かを見て、ピンときた方はまっすぐに映画館へ!

※写真提供はシッチェス・ファンタスティック映画祭

※ネタバレとの葛藤については、素晴らしい映画『ルーム』(4月8日公開)。どうか予告編を見ないで!!!!にも書いた

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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