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選手の新型コロナ感染で2部リーグ大混乱。スペインサッカー界で何が起きているのか?

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
柴崎は試合延期で降格、岡崎は優勝。コロナ禍で日本人も明暗が分かれた(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

岡崎慎司、香川真司、柴崎岳が参戦中のリーガエスパニョーラ2部が大混乱になっている。

昨日(7月20日)は昇格と降格が決まる大事な最終節だったが、柴崎の所属するデポルティーボ・デ・ラ・コルーニャの対戦相手フェンラブラーダの選手に7人の感染者が出て試合が延期。その結果、デポルティーボは他会場の結果によって戦わずして2部Bへの降格が決定。デポルティーボ戦の勝敗次第で決まるフェンラブラーダの昇格プレーオフ出場権は、宙に浮いてしまった。

感染による1試合延期で生まれた不公平

最終節では10試合が現地時間21時に同時キックオフの予定だった。開始時間をそろえるのは、他会場の結果をあらかじめ知って試合をすることによる不公平を無くすためだ。

だが、デポルティーボ対フェンラブラーダだけが延期され、残り9試合が開催されたことで、両チームとも最終節を前にして自らの運命を知ることになってしまった。それは、デポルティーボにとってはたとえ勝っても降格確定という「厳しい現実」であり、フェンラブラーダにとってはそんな失意の相手に負けさえしなければプレーオフ出場決定という「明るい未来」である。

目標結果や目標スコアがあらかじめわかっているのは、明らかに有利である。だからこそ、例えばW杯のグループステージ3試合目は同時開催なのだ。

あの話題になったロシアW杯のグループステージ3戦目日本対ポーランドを思い出してほしい。仮に日本が、「0-1で負けても勝ち上がり」というのを知りながら試合に臨んでいれば、あの終了間際の西野監督の戦法は“ギャンブル”とは決して呼ばれなかったろうし、予定調和によって敗退したセネガルは「不公平だ」と抗議していたはずだ。

裏カードに与える心理的重圧が違う

昨日の延期による最大の被害者は、エルチェである。彼らは暫定的にプレーオフの出場権がある6位にいるが、フェンラブラーダが勝ち点1以上取れば7位に転落する。目標スコアはばれているわ、対戦相手は降格済みだわで、悲観的な気持ちになっていることだろう。

勝っても負けても降格で、一見、被害が無さそうなデポルティーボも実は被害者である。

同時開催であれば残留争いのライバル、ルーゴとアルバセーテに与えていただろうプレッシャーが違う。

仮に、裏カードでデポルティーボが勝利中だとしよう。「勝たないと降格」という切羽詰まった状況で残留を決めたゴール(ルーゴの決勝ゴールは85分、アルバセーテのそれは90分のPKだった……)は、果たして枠に飛んだだろうか?

というわけで、プレーオフ出場権争い側からはエルチェ、ラジョ・バジェカーノらが、残留争い側からは当事者のデポルティーボ、ヌマンシア、そして残留したアルバセーテも、不公平を助長した1試合だけの延期措置に抗議の声を上げている。

昨季には全試合延期の前例もあったが……

全10試合を延期する手もあった。昨年6月、ホセ・アントニオ・レージェスが交通事故で亡くなった際には、在籍していたエクストレマドゥーラの試合だけでなく同時刻キックオフの7試合すべてを延期した前例があるからだ。

だが、今回はコロナ禍のせいで日程が押していたせいだろう。試合数の消化の方を優先した。

では、今後はどうなるか?

まずデポルティーボ対フェンラブラーダがいつ開催されるかが定かではない。昨日の時点で選手とスタッフ合わせて12人の陽性者が出ており、彼らと濃厚接触者に14日間の隔離などの措置が採られるとすれば、7月中に消化するのは物理的に無理。その後にプレーオフとなればシーズン終了は8月中旬にずれ込んでしまうだろう。

いや、それ以前に試合自体が成立しない可能性もある。

怒りのデポルティーボ側には試合放棄や訴訟の動きもあるし、フェンラブラーダが感染対策・予防措置を怠ったという証拠が今後出てくれば、「ペナルティで不戦敗」などの厳しい処罰が下されるかもしれない。

3クラブでPCR検査。なぜ遠征は許可された?

実際、感染の影響はグラウンド内だけでは済みそうにない。

フェンラブラーダの宿泊先は封鎖され、全スタッフが隔離されたまま。彼らへのPCR再検査はもちろん、彼らと前節対戦したエルチェ、選手の一人が感染者と食事したことが判明したラジョの選手やスタッフにもPCR検査が行われている。その結果次第で、サッカー界にどの程度感染が広がっているのか推測できるだろう。

一方、ラ・コルーニャの市長は「前日(19日)感染者が出ていながらなぜ遠征を許可したのか? リーガは特別扱いなのか? 選手は感染しないのか?」と、ラ・リーガやサッカー連盟の責任を追及する構えだ。

試合当日の20日朝、PCR検査をして結果を待たずにチャーター機に乗り込み、現地に着いてみたら陽性者が出て延期――という流れからは、急いでリーガを終わらせたい、という主催者側の思惑が透けて見える。

岡崎は優勝、柴崎は降格、香川は待機

今回のコロナ禍には日本人選手も巻き込まれることになった。

デポルティーボが柴崎の所属先であることはすでに述べたが、プレーオフへの参加を決めている香川の所属するサラゴサは、その対戦相手がフェンラブラーダかエルチェか決まらないまま、待機を強いられそう。一方、岡崎の所属するウェスカは昨日の勝利で優勝かつ昇格が決定済みだが、彼の住むウェスカもお隣の香川の住むサラゴサ同様、再感染拡大による行動制限で不自由な生活を強いられているはず(スペインのコロナ感染再拡大の現状についてはここに書いた)。

6月中旬にリーガが再開し、感染者もほとんど出ないまま順調過ぎるほど順調に来て19日には1部リーグが無事終了。2部も最終日、というところでつまずいた。感染者が出ると連鎖的にネガティブな出来事が重なり、コロナ禍でのサッカーがいかにか細い糸の上での綱渡りだったかを、思い知らされた。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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