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日本人初! 是枝裕和監督&リリー・フランキー、サン・セバスティアン映画祭ドノスティア賞受賞会見、全文

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ドノスティア賞を受賞した日本人は初。写真:Jorge Fuembuena

9月21日から開催されている第66回サン・セバスティアン映画祭。その最も重要なドノスティア賞にアジア初、もちろん日本人として初めて選ばれた是枝裕和監督の受賞会見が23日行われた。同映画祭で上映された『万引き家族』だけではなく、これまでの映画界への貢献が認められての受賞。カンヌ映画祭のパルムドール受賞に続く栄誉となった。

※回答に関してはなるべく忠実に再現していますが、質問は簡略化しています。

――あなたのキャリアの中でホラー映画を作りたいと考えたことはありますか? 例えば三池崇史さんのような非常にクレージーなスタイルのものだとか。

是枝「いきなり凄い質問から(笑)。そうですね、まずはこの映画祭に来始めて20年になって今回このような賞をいただけたことを本当にうれしく思っています」

是枝「確かにファミリードラマの作家として認知されていることが多いんですけど、自分としてはまあいろんなジャンルのものにチャレンジしたいなという気持ちがあって。その中にはホラー映画じゃないかもしれませんけど人間じゃないものをめぐる話を撮りたいなあという気持ちもあります

是枝「まあ人間じゃないものが命、心を持ってという話なので結果的には人間を考えるようなストーリーになると思うんですけど、まだちょっといずれにしても時間がかかることなのでちょっと待ってください」

――この映画祭20年前からお越しになって10回目だということで、まだお年を召してない段階で生涯功労賞をもらったことをどう思っているか、あとこの映画祭が監督にとってどういうものなのか、愛着のようなものがうかがえればと思います。もう1つは次の作品の話をして恐縮なんですけど、フランスで国際的に活躍されている俳優の方と撮られているということで、なぜそういう選択を今回されたのかお考えをお聞かせください。

是枝「まあ自分の監督としてのキャリアのちょうど半分くらいだと思っていたので、生涯功労賞をこのタイミングでもらうと残りの半分をどうしよう、という気持ちもなくはないんですけども。だもんでちょっと早いじゃないかな、という気持ちもありながら、でもそれだけこの映画祭とは繋がりが深いですし20年という歴史がありますし、キャリアに対して最高の評価をしていただいたんだなと、とてもありがたいなと思っています」

是枝「この街とこの映画祭が本当に好きで呼ばれると必ず来ている。ここのところは毎年のように来ていてですね。で、スタッフも一度来たキャストもまたあそこに行きたいと凄くみんな口ぐちに言ってくれるんですよね。だから最近はこの映画祭に来るために映画を撮っている、という順番が逆になっているみたい、なんか(笑)。映画を撮ると必ずここに呼んでいただいて今回もスタッフとキャストと来てますけど、あのとても良い監督と映画祭の関係を築けているな、というふうに思っています。なかなかないです。これだけ継続して関係がずっと続くのは

是枝「新作は今パリで準備を始めてましてもう来月にはクランクインするんで、今回も日本からではなくてパリからやって来ているんですけど。あのスタートは本当にこういう映画祭とか自分の公開のキャンペーンで訪れた先で出会った、まあジュリエット・ビノシュさんとかカトリーヌ・ドヌーブさんとかそういう方たちとのやり取りの中で何か一緒にできないか、というオファーをいただいて、じゃあチャレンジしてみようかな、という形でのスタートなんで、本当に役者さんの側から声掛けをいただいた、期待にこう応えていきたいからスタートしている、という非常に毎日新鮮な日々を送っています。楽しいです」

――家族関係があなたの作品ではよくテーマになっていますが、特に素晴らしいと思うのが子供に関するテーマの扱いと繊細さです。子供の俳優と仕事をすることは大人ではないのでよりやっかいだと思うのですが、どうやってあんなに自然な演技ができるようにするのでしょうか?

是枝「そうですね、あの何を重視するか……。なるべく子供の、もちろんこれはオーディションで選ばれた子供たちとの仕事になるんで、毎回、毎回初めてのことばっかりで何かこう固まった方法論があってそこに子供をはめ込んでいくという作業ではなくて、その子供が持っている個性とか言葉とか集中力の持続する時間とか、そういうものをきちんととらえながらその子に合ったやり方、その子に合った言葉を演出の方法を探してやっていくという作業を毎回やっている。だから根気良く待つことも大事ですしで忍耐力ですかね」

ここでリリー・フランキー登壇。

サン・セバスティアン映画祭の公式コンペティション部門には4度参加。『奇跡』で最優秀脚本賞を受賞
サン・セバスティアン映画祭の公式コンペティション部門には4度参加。『奇跡』で最優秀脚本賞を受賞

是枝「子供の演出に関して言えば、一番大事なのは子供の扱いのうまい大人の役者をキャスティングするという。そういう意味だとリリーさんは非常に子供と一緒に遊んでくれる。凄く子供がリリーさんには気を許すので、そういうところを監督としてはずるく使わせていただいてですね、半ば子供の演出はリリーさんに任すということも今回の場合は何回もしています」

リリー「撮影中、冬で凄く寒い時期だったので子供を抱きしめていると暖かいんで。だから僕はいつも子供を抱きしめていたら自然に子供がなついて

――あなたの脚本は非常に繊細な部分がありみんなが素晴らしいと思っていると思うのですが、脚本を書く時にはどこでインスピレーションを得るのですか?

是枝「いろんなヒントをもらいながら映画は作りますけども、今回の企画も最初にいくつかのアイディアがあって、その中の一つが実際に大阪の方だったですけど、家族で万引きをしていて逮捕されて裁判が始まった、というニュースがあって。何で逮捕されたかというと、その親子が釣竿だけは売らずに家に残していてそこから発覚するという事件だったんですけど。そのニュースに触れた時に、あっ盗んだ釣竿で親子が釣りをしているというその絵がまず浮かんでそういうシーンを書いてみよう、と思ったのがスタートだったんですけど。そういうこの映画を作り始める前にあるいくつかのアイディアに加えて、やはり今回のような映画だと撮りながら役者さんを見ながらどんどんどんどんまたシーンが変化していく、新しいシーンが生まれていくというプロセスがあって、その役者からもらうヒント、アイディアというのがやはり一番映画を豊かにするな、というふうに思います」

――次回作、海外の役者さんと撮られるということで例えば言語障壁もあると思うんですが、日本の映画人として海外で働くことのメリット、デメリットというのはありますか?

是枝「うーん、もちろん言葉とか文化の違いを超えて今共同作業をしているので、それは初めての経験でなんですけども、日本人であることのメリット、デメリットなるものを感じながら作っているわけではまったくないですね。むしろその言語の違い、文化の違いを超えてどういう映画を撮りたいかという、その想いが共有できていればそのような障壁は超えて一緒に映画が作れるな、というふうに今は期待を持っていますけども。あの、使っている言語とか背景にある文化が同じでも、作りたいと思っているという映画が共有できない時には決して良い映画にはできないと思いますし、そこは同じ価値観を共有していれば超えられるものだと思います」

是枝「ただあの、今回の『万引き家族』の中でも親子が川の字で寝るっていう描写があったと思うんですけど、川の字に寝るっていうのは日本の僕らにとっては幸せの象徴なんですが、そういう描写が今回の脚本の中にあってフランスの方が読んだ時に『なぜこの子は一人で寝ないのか?』と。必ずしもというか決して親子が川の字で寝ることが幸せの象徴ではない、というようなことに直面するので、それは結構面白いね。じゃあどういう形でこの家族を寝かせるのか、というところからちょっと組み立て直さなければいけないから。そういうところはこう一つひとつのシーンの中で受け取られ方がずい分違うんだな、ということをとても面白く今経験しています」

――お二人は一緒に5作品を作ってらっしゃるわけですが、どういう形で共同作業されているのか、どういう関係性を作り上げることができたのでしょう?

リリー「是枝さん最初にお会いしたのはもっと前で是枝さんが最初の映画を撮ったくらいだったですけど、僕は是枝さんの映画のファンで。だから今でも最初に20年前に会った時もそうだけれども会うと照れくさくなってもじもじするのは今でも変わっていないです」

リリー「何か俺たちが今ここでもじもじしていると変な関係だと思われちゃう(笑)」

是枝「なんかいろいろなものが近いというね。まあ年齢が近いということとは別に、何かこうお芝居に関してもそうですし、おそらく生きていて何かこういうことはしないとか、こういうことは恥ずかしいなとかいう部分が多分かなり共有できているな、という印象を持っているのでその信頼感はありますね」

是枝「なぜこんなに子供とのシーンがうまいのか、というのは正直よくわからない。ですけど、あの僕がこのシーンで子供からどういう表情を引き出したいと思っているのかというのをリリーさんは多分100%わかった上で画面の中に存在してくれている。それが本当に安心感がありますね」

リリー「今回この『万引き家族』に是枝さんが僕を呼んでくれた理由とは、是枝さんはとにかくせこい男をやらせたらリリーさんが一番うまいんだって(笑)」

是枝「あのね、ちょっとニュアンスが違うんですけどね。リリーさん凄い極悪人もとても上手なんだけれども凄く小さい悪いことをする人をやっているリリーさんが僕はとても好きなんですね。まあ凄くせこく悪いことをするという」

リリー「でも次回作のそのフランスの映画には僕はキャスティングされてないので、来年のサン・セバスティアンは僕はプライベートで(笑)」

――是枝さんにお聞きしたいのですが、あなたはとても美しいこと、映画で国境を消したと思うんですが、子供の保護とかそういう重要な感情には東洋も西洋もない、すべて同じなんでしょうか?

是枝「そうですね、あの、ただそういうインターナショナルなテーマを求めて作っているわけではなくて。それもきっかけは『スティル・ウォーキング』という『歩いても 歩いても』という映画をここで上映させていただいた時に、お客さんと映画祭の関係者が『あの画面に写っている母親は俺の母親だ』、『何で俺の母親のことを知っているんだ?』と何人にも言われたんですね。で僕が『いやいやあれは僕の母親なんです』っていう話をしましたけども。その自分にとって非常に切実でリアルなモチーフなり人物なりを掘り下げていけばそれがそのまま普遍性を持つというような経験を作品を通してしまして、何かその万国共通のテーマというものを外に探すのではなくて、今の時代を時間をきちんと一人の人間として生きて感じて、その強さを持ったモチーフを作品にしていけば、これはどこの国でも伝わるのだなというのを実感に持ったので、それからは広さという強さを意識しながら作っています」

――今日はどうもありがとうございました。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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