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ロシアW杯12日目。“VARの大会”でイベリア半島組の泣き笑い、イランに喝采、ウルグアイの“別の顔”

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
GKデ・ヘアの“飛び出し恐怖”を象徴するシーン。手を使える利点を生かせていない(写真:ロイター/アフロ)

マッチレビューではなく大きな視点でのW杯レポートの11回目。大会12日目の4試合で見えたのは、VARが“ジャッジした”ポルトガル、スペインの泣き笑い。イランに喝采、ウルグアイの“別の顔”……。

もうこの大会の別名は“VARの大会”で決定だろう。勝敗に最も決定力があるのはロナウドでもジエゴ・コスタでもなく、この新しいテクノロジーだった。

前評判では「3試合半に1回くらいの介入率」(マテオ・ラオス、スペイン人W杯レフェリー)だったが、イラン対ポルトガル(1-1)、スペイン対モロッコ(2-2)では計4度登場。この新テクノロジーが勝敗を分けるどころか、最もエキサイティングなシーンを演出するまでになっている。この日からグループステージ最終節に入り激しい試合が続くだろうから、VARはますます重要な役割を果たすに違いない。

89分イランにPKが与えられるかどうかでVARが審査に入った。その時点のスコアはイラン0-1ポルトガル。このままならポルトガルは1位通過でイランはグループステージ(GS)敗退。ほぼ同時に、スペインのゴールが認められるかどうかでVARが審査に入った。その時点のスコアはスペイン1-2モロッコ。このままならスペインは2位通過(モロッコは敗退済み)。

2つのVARの判定に誰もが息を呑んだ

審査の結果、一足先にスペインのゴールが認められ2-2、GS通過を確実にした(モロッコに2点差以上で敗れイランが勝ち点1なら敗退だった)。その数分後、審査の結果イランにPKが与えられ、これが決まり1-1。この瞬間、勝ち点で並んだポルトガルとスペインの順位が総得点の差で入れ替わり、イランには勝利=GS突破の可能性が、ポルトガルには敗退の可能性が出て来る。が、イランがビッグチャンスを決められずこのまま試合は終了。1位スペイン、2位ポルトガル、3位イラン、4位モロッコの順位が確定した。

スペインが1位突破にふさわしかったわけではない。ポルトガル戦イラン戦で見せた守備の不安は相変わらず。GKデ・ヘアの飛び出しに対する恐怖は重症で、次の試合ではGK交代を真剣に考えなければならないレベルだ。

1失点目はイニエスタのトラップミスとセルヒオ・ラモスのカバーリングミスによるボールロストから生まれ、2失点目はCKから相手をフリーにするマークミスから生まれた。それ以外にもクイックスローからGKとの1対1を作られる場面もあった。チーム全体がナーバスで集中力に欠け、得意のキープすら少しプレスを掛けられるとミスが出る。そうしてそれを修正するリーダーがいない。本来セルヒオ・ラモスの役目だがピケとの仲がうまく行ってない印象を与える。

ロペテギ解任の影響?ロナウド頼み

攻撃面はタレント頼りの個人勝負、守備面は無関心で他人任せの感じがする。ロペテギ前監督解任の影響なのだろうか? 3試合で5失点ではこれ以上先に進めそうもない。

2位ポルトガルにはやはりロナウド以外の得点パターンが見えない。モウティーニョがベンチを温めた昨日は特に中盤の構成力不足が顕著。クアレスマの右からのセンタリングに合わせるのみの単調な攻撃だった。それでもロナウドがPKを決めて0-2になっていたら試合は終わっていたのだろうが……。

イランは根性を見せた。スペイン戦のように引きっ放しにならず、走力を生かしたプレス→インターセプト→パス3本でフィニッシュというショートカウンターでチャンスの数で上回り、ポルトガルを敗退寸前まで追い込んだ。個の技術で劣るも規律、組織、運動量で挽回。スペインは彼らの爪の垢でも煎じて飲むべきだ。

敗退済みのモロッコも意地を見せた。彼らのプロ意識抜きではエキサイティングな結末はなかった。敗退組同士の顔合わせサウジアラビア対エジプト(2-1)の勝敗も意欲の差が分けた。

格から言えばエジプトが上だったがそれでも彼らはカウンターに固執。エジプトゴールはロングボールに飛び出したサラーのGKの頭上を越える美しいループだったが、だが放り込みだけでは勝てない。ボールを持たされたサウジアラビアは彼らなりに攻撃を組み立てエジプト陣でほとんどの時間を過ごした。1本PKを止められ45歳GKエル・ハダリに花を持たせたものの、2本目を決めて追い着き、ロスタイムに決勝点を挙げた。

ロシアの駄目な壁、ウルグアイのボール支配

ウルグアイ対ロシア(3-0)は前半早々に勝負がついた。

ルイス・スアレスのFKによる失点はロシアの壁作りのミスだった。壁の中にウルグアイの選手2人に入り込まれ、その2人が出て行ってできた穴を通ったシュートがネットを揺らした。この場面ロシアには簡単にできることがあった。壁に入った2人の背後に人を置き2列目の壁を作れば良かったのだ。ウルグアイの選手が動いてもその背後にロシアの選手の壁があるから穴は開かない。これ、少年サッカーレベルでもよくする対策である。

2点目はオウンゴール。その十数分後にスモルニコフがイエロー2枚で退場になり、チェルチェソフ監督は直後に攻撃の中心チェリシェフを下げるという決勝トーナメントに備える采配を見せて、実質的に試合を諦めた。

残された見もの、ロシアCFジュバとウルグアイCBゴディンの肉弾戦とともに、ポゼッションするウルグアイにも注目した。

ウルグアイと言えば伝統的に堅守とカウンター。今大会もカバーニとルイス・スアレスという強力2トップを擁するとあって、そのカルチャーに則ったサッカーをしていたが、この試合は相手も同じカウンター型だったので58%のボール支配率を記録。いつもは裏方の中盤、ダイヤモンド型に配されたトレイラ、ベシーノ、ベンタンクール、ナンデスが俄然目立った。

数的有利だった点はもちろん考慮すべきだが、決勝トーナメントのポルトガル戦ではボールを持ち主導権を握る戦い方をしてくる可能性もある。カウンターは絶対的な武器だが、それ一本では勝ち上がれない。ロナウド頼りを抜け出せない相手に、ウルグアイはこの日のように“別の顔”を見せ総合力で上回ろうとしてくるのではないか。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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