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サン・セバスティアン映画祭レポート3日目(25日)。有名監督がそこにいた。「映画界」という小さな世界

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
モンチョ・アルメンダリス監督。日本では『心の秘密』や『オババ』がビデオ化された(写真:ロイター/アフロ)

「うちの旦那、映画監督なのよ。モンチョ・アルメンダリスって知っている?」で、「ええー!」

「今から来るから」で、さらに「ええー!」

小汚い立ち飲みバルでビールを飲んでいて隣の女性と意気投合し、電話番号を交換したところで旦那が合流して来たのだった。

アルメンダリス監督は社会派の作風と、生まれ故郷バスクの山村を舞台にしたもので知られる。なかでもアカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされた『心の秘密』、移民問題を扱った『アロウの手紙』、若者の刹那的な生き方を描いた『クローネンの物語』は大好きだ。彼女はプロデューサーで旦那とともに商談に追われており、映画を見るどころではないらしい。映画祭の裏舞台では、こうやっていくつもの未来のプロジェクトが生まれているのだろう。

映画界は狭い。「友だちの友だちはみな友だちだ」というくらいに。「映画」の名の下に繋がっている演技者、報道者、製作者、配給者が1週間、徒歩15分圏内のエリアにぎっしりと詰め込まれるのだ。これで出会いがない方が嘘である。これまでに知り合ったのは、有名映画監督夫妻、映画祭のアジア映画セレクト担当、『君の名は。』をスペインで配給し成功にホクホク顔の社長、予想以上にたくさんいるアジア映画専門ジャーナリストたち……。

この日は4本見た。

現地生まれゆえに無名。が、だからこそ見えないものが撮れる

通算10本目『UNDERGROUND』(上映おすすめ度5)

新人監督による初の長編でフィリピン映画となれば、日本での一般受けは期待できない。が、現地の監督が撮っているからこそ、外からでは気が付かないものを見せてくれる。毎日過酷でその中でさらなる悲劇が起きても、時は止まらない。悲しみにすら浸れない真の悲惨さが、淡々と映し出されて行く。機会があればぜひ見てほしい。

11本目『YOU WERE NEVER REALLY HERE』(上映おすすめ度2)

暴力を遠慮なく見せるところはよろしい。容貌と体型がまったく違うホアキン・フェニックスの努力にも頭に下がる。が、暴力の裏にあるトラウマがフラッシュバックで脈絡もなく現れるため、それを繋ぎ合わせて物語にするのは観客の頭の中の作業となる。そこが不親切に感じたのと、緊張感を高めるために緊張感のある音響を使うのは……。

疲労で物語を感じる力が落ちてきた?

12本目『ラーメンヘッズ』(上映おすすめ度3)

スローで見ると粘り具合がよくわかるスープ。つやつやの麺。シズル感のあるおいしそうな映像。ズルズルという欧米人が大嫌いな音にも失笑がほとんど漏れなかった点に、ここ10年ほどの日本文化の浸透具合を感じさせられた。ただ限界もある。映画風に撮ったドキュメンタリー番組があるなかで、ドキュメンタリー風に撮った映画ならではのものが伝わって来ないのだ。

13本目『CARGO』(上映おすすめ度3)

物語には既視感がある。が、音や会話に頼らず、映像で語らせようとする姿勢は評価できる。海の男がそこまで海にこだわる理由が理解できなかった(のは私のせいかもしれない)ので心を動かされなかったのは残念。

映画祭も半ばとなって、疲労のせいか集中力と感受性が薄くなっているのを感じる。少し見るのをパスして、リフレッシュすべきかもしれない。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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