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0-3衝撃の大敗は想定内か。日本に敗れても韓国のベント監督は意に介さず?韓国協会が出した答えは…

金明昱スポーツライター
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

「よーっしゃ!」。DF吉田麻也の勝利の雄たけびがピッチに響く。

 日本代表のベンチにいた選手たちが立ち上がり、ハイタッチを交わす。一方で、ピッチの上で呆然と立ち尽くす韓国代表の選手たち。これだけ力の差が如実に表れた日韓戦を見るのはいつぶりだろうか。

 25日、日産スタジアムで行われた日本代表との国際親善試合で、韓国代表は0-3で惨敗した。

 まったく歯が立たなかった、というのが率直な感想だ。

 それにパウロ・ベント監督も試合後「相手が我々を上回ったことは称賛すべきで、相手は勝利に値していた。我々は敗戦から学ばないといけない」と完敗だったことを口にした。

 弁明の余地がないほど、両者に力の差があったのは認めないといけない。

 試合内容は言わずもがな。韓国は欧州組がイ・ガンイン(バレンシア)とチョン・ウヨン(フライブルク)の2人で、今回はソン・フンミン(トッテナム)、ファン・ウィジョ(ボルドー)、ファン・ヒチャン(ライプツィヒ)、イ・ジェソン(ホルシュタイン・キール)ら主力がケガなどで来日できず、ベストメンバーではなかったとはいえ、明らかに韓国の試合内容はひどいものだった。

 チームキャプテンを務めたDFキム・ヨングォン(ガンバ大阪)も試合前、「韓国代表の強みは闘志。自分たちがピッチの上で日本よりも強い闘志を持てば、必ず勝てる」と語っていた。

 ピッチの上で最も声を張り上げていたキム・ヨングォンだったが、あまりの連携の悪さにその闘志も空回りしていたように思う。

“らしさ”がない韓国

 韓国は全体的に間延びして、前線から中盤にかけてのプレスが明らかに弱かった。アンカーを務めたウォン・ドゥジェ(蔚山現代)、チョン・ウヨン(アルサッド)もボールを受けるタイミングも悪く、パスの出しどころがなくなると、相手に奪われてはカウンターからことごとくピンチを招いていた。

 守備も相手へのプレッシャーが弱く、球際も迫力がない。日本の細かいパス回しや個人技に完全に押し切られ、前半は山根視来(川崎フロンターレ)、鎌田大地(フランクフルト)に流れの中からゴールネットを揺らされ、後半はCKからマークの外れた遠藤航に頭で簡単に決められた。

 問題視されているのは、パウロ・ベント監督のシステム。4-2-1-3で最前線のトップの位置にイ・ガンインを置いたことだ。

 “ゼロトップ”と言われるこのシステムが完全に裏目に出た。

 元々、イ・ガンインは視野の広さや、キックの精度、パスの能力に定評があり、低い重心でボールを奪われないキープ力は韓国代表の中でも屈指と言われている。

 しかし、この強みが生かされないばかりか、長身のDF吉田麻也とDF冨安健洋に跳ね返され続けた。“神童”と呼ばれたイ・ガンインへの期待は、時間を追うごとに薄れ、チャンスを生かしきれないもどかしさがあった。

 彼が前半で退いたのは当然の結果だが、ベント監督は試合後「“ゼロトップ”でイ・ガンインを配置したのは戦術的な部分だった。相手のディフェンスラインを前に引きし、両サイドのウインガーとナム・テヒ(アルサッド)が、裏のスペースに入る動きを求めていた。これがうまく機能しなかった点は認める」と語っていた。

イ・ガンインの起用法に迷走?

 数少ない手数のなかで、ベント監督がイ・ガンインの使い方に明白な答えを出したかったのはよく分かる。

 昨日の日本戦に出るまで、イ・ガンインの代表キャップは5試合しかなく、先発は2試合で、その後の3試合は途中交代での起用だった。

 久しぶりの先発で、しかも代表戦という貴重な試合で、韓国国民が期待する若き才能の起用法を少しでも見出したかったのは間違いないが、2列目での起用がもっとも力を発揮できたと思う。

 しかし、今回の親善試合は宿敵のライバル日本との試合である。もちろんベント監督も日韓戦が両国にとって特別な感情を持って挑む試合であるのかを知らないわけではない。

 ただ、試合前日に語った次の言葉で、日本戦がどのような位置づけなのかが透けて見えた。

「ライバル関係は世界のどこの代表にも、クラブチームにもあるもの。それよりも自分たちができることに焦点を合わせて、戦術的にどのようにゲームを組み立てていくのかが最も大事だ」

 この言葉を聞いたときに思ったことが一つある。たとえ日本が相手で負けられない戦いとはいえ、ベント監督は勝ちにいく戦い方よりも、自身の頭の中にある戦術や選手を試しておきたかったということだ。

 その一つが、イ・ガンインの“ゼロトップ”だったのだろう。しかし、これが通用しないと分かると、前半終了後に交代させた。そのあたりの潔さは認めるが、次の手を打つにも全体的な連携とパフォーマンスは上がる気配はなかった。

韓国協会が解任論を一蹴

 韓国メディアは連日、0-3での惨敗に対して批判を浴びせているが、これも日が経てば落ち着くと思う。

 指揮官の解任論も出ているようだが、当のベント監督は意に介さない。

 大韓サッカー協会も26日、今回の日本敗戦について、公式的な立場を表明。

 全文の内容(一部)には「今回の敗戦について、ベント監督にだけ非難が集中するのは、妥当ではないと思います。特に最高の状態で試合ができるように完璧に支援できなかったサッカー協会の責任が大きい。今回の一件を教訓にし、積極的に支援していきます」と書かれている。

 つまり、ベント監督と共に今後も代表チームを作り上げる覚悟でいる。

 振り返れば、ベント監督がメンバー発表会見で語っていた日本戦に挑む意味も明確だっった。

「韓国は6月のワールドカップ(W杯)アジア2次予選の15日間で4試合こなすことになる。韓日戦はどのような意味があるのはよく知っているが、まずはW杯予選への準備のための試合だということを忘れないようにしたい」

 もちろん日本に勝利すれば、さらにチームの士気は上がったはずだが、あくまでも最終目標は韓国を2022年カタールW杯出場に導くことである。

 日本を宿命のライバルととらえる韓国国民とポルトガル人のパウロ・ベント監督との感覚の違いもあるだろう。

 もちろん6月のW杯アジア予選では、ベストメンバーをきっちりと揃えてくるはずだが、“至宝”イ・ガンインが、代表チームでベント監督の信頼を得るには、相当な時間がかかるだろう。

 いずれにしてもベント監督の真価が問われるのは、W杯アジア予選。解任はないとはいえ、不甲斐ない戦いはもうできない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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