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日本初独占インタビュー!北朝鮮代表監督のヨルン・アンデルセンが語った平壌での指導と生活

金明昱スポーツライター
タイで快くインタビューに応じてくれた北朝鮮代表のアンデルセン監督(筆者撮影)

 サッカー朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)の指揮官で元ノルウェー代表FWのヨルン・アンデルセン監督はとても気さくな人だった。

 11月10日と13日、第3国のタイで行われた北朝鮮代表対マレーシア代表の2019アジアカップ最終予選の取材に行った際、私は北朝鮮代表チームが投宿しているホテルに毎日、顔を出していた。

 そこでアンデルセン監督と初めて会い、快くインタビュー取材に応じてくれた。

 これまで気になっていたのが、彼がどのようにして平壌で代表監督としての仕事をこなし、普段はどのように過ごしているのかだった。

 日本のメディア初となる現役北朝鮮代表監督のインタビュー。代表監督を引き受けた理由や選手への指導方法、平壌での生活、そして来月に迫った日本で開催される東アジアE-1選手権への意気込みなどについて聞いた。

「選手たちの素質はいい」

――2016年5月からサッカー朝鮮民主主義人民共和国代表(以下、北朝鮮代表)監督に就任しました。監督を引き受けた理由は何だったのでしょうか?

 指導者としてはヨーロッパでこれまでたくさんのクラブチームで監督を務めてきましたが、アジアでも監督生活をしたいという思いを抱いていました。そのときにちょうど、朝鮮民主主義人民共和国のサッカー協会から代表監督の打診があったのです。最初はどういう経緯で私に声がかかったのかわからなかったのですが、指導者としてナショナルチームの監督を務められるチャンスは中々ありませんし、とても魅力的な仕事です。周囲のサッカー関係者や家族と相談した結果、引き受けようと決心しました。

――代表監督に就任して1年半が経ちました。代表チームの選手たちを初めて見たときの印象は?

 初めて平壌で選手たちと出会い、練習中に一人一人の動きをしっかり見ていきました。技術的にも体力的にも、とても伸びしろのある選手が多い印象を受けました。素質はすごくいい。ただ一方で、試合になったときの戦術への理解度をもっと高める必要があると感じました。そこで、私は戦術とフィジカルトレーニングを中心に練習を進めてきましたが、今では個人、チームとして全体的に向上したと実感しています。

国内50試合を見て選抜

――北朝鮮選手個人やチームの特徴、長所や短所はどのような部分でしょうか?

 長所や短所を一言で表現するのはとても難しい。これから海外のクラブで活躍できる選手は、存在するというのは確かです。欲を言えば、選手たちに必要なのは経験。国内だけでなく、もっと海外で親善試合などの国際試合をたくさんこなして、強化を図っていくことが求められます。来年からは各国で行われているように、体系的な国内リーグ戦がスタートする予定です。毎週末に試合が開催されるので、それがうまく進めば、もっと選手たちの能力も向上するでしょう。いま戦っているアジアカップ予選や来月の東アジアE-1選手権もすごく大事な舞台となります。

試合後に選手と握手を交わして激励するアンデルセン監督(筆者撮影)
試合後に選手と握手を交わして激励するアンデルセン監督(筆者撮影)

――最近は海外でプレーする選手が増えています。セリエBのペルージャに所属するハン・グァンソンやチェ・ソンヒョク、オーストリアのSKNザンクトペルテンではパク・クァンリョンがプレーしていますが、海外でプレーする選手たちの存在をどのように見ていますか?

 もちろん、海外でプレーする彼らの活躍は耳に入っていますし、ヨーロッパで結果を残しているからこそ生き残れるわけです。彼らが代表チームに必要なのは当然です。ただ、国内で指揮する私が監督に就任してからは、国内の選手の育成をとても大事にしてきました。これまで代表選手を選ぶために国内クラブチームの試合を50試合ほど見てきました。さらに日本のJリーグでプレーする在日コリアン選手の存在も忘れていません。彼らの能力を確かめるために、昨年は1週間ほど滞在して試合を見ました。いろんなタイプの選手を試合で使い、チーム作りを進めているところです。

攻撃的サッカー目指す

――代表チームに必要な課題はどのような部分でしょうか?

 代表選手は一つのクラブチームのようになり、代表チームのトレーニングセンターでみんなが一緒に過ごしながら毎日練習をこなしています。戦術の理解力を高めるためにも、例えばディフェンスするときは、どのように守るのか。それぞれのポジションの距離感を保つことを強調したり、中盤や攻撃でも細かい指示を与えています。前線へロングボールを放り投げて、そこから展開するようなサッカーではなく、細かいパスで回しながらゲームを展開する組織的なサッカーを目標にしています。ここまで指導しながら、特に戦術への意識が高まりました。年代別代表で国際試合を経験したことがある若い選手たちの意識とフィジカル面で大きな成長が見られます。

――アンデルセン監督が目指すサッカースタイルはどのようなものでしょうか?

 素早いパス回しから展開する攻撃的なサッカーを目指しています。守備戦術の一つとして、前線からの積極的なプレスで相手の攻撃を防ぎ、ボールを奪ってから自分たちの攻撃の時間を作るのも大事な要素です。

アジアカップ予選のマレーシア戦終了後に地元メディアからインタビューを受けるアンデルセン監督(筆者撮影)
アジアカップ予選のマレーシア戦終了後に地元メディアからインタビューを受けるアンデルセン監督(筆者撮影)

「2022年W杯の出場可能性はある」

――現在、アジアでは日本や韓国などW杯出場チームが大きく成長しています。中国もあなどれず、イランなど中東勢も力があります。北朝鮮のサッカーはこれからどのように成長していくでしょうか?

 ロシアW杯に出場する日本、韓国、イラン、サウジアラビア、そしてプレーオフから出場を決めたオーストラリア。私も映像で試合を見ていますが、アジアの中でも力のあるチームです。結果からもお分かりの通り、朝鮮民主主義人民共和国代表はまだこの中に入る実力にはありません。ただ、いま戦っているアジアカップ予選などの国際試合で経験を積み、イタリアでプレーしているFWハン・グァンソンなど優れた選手が次々に輩出される土壌はすでに作られています。国内リーグの強化、若い選手たちの育成などが体系的に進み、海外クラブでプレーする選手が今よりももっと増えれば、2022年に開催されるカタールW杯に出場する可能性はあるでしょう。

平壌では魚料理がお気に入り

――すごく気になる部分なのですが、平壌ではどのような1日を送っているのでしょうか?

 平壌でもヨーロッパでの生活と変わりなく、普段通りに生活していますよ(笑)。高麗ホテル(平壌市内にあるツインタワーの5つ星ホテル。主に外国人観光客が泊まる)が生活の拠点です。毎日、トレーニングセンターで午前と午後の2回練習することもありますし、練習の合間に選手たちのことをもっと知るために、対話する時間も設けています。ホテルの朝食もおいしいですし、魚料理がすごく好きでおいしい。いろんなお店で、いろいろなお気に入りの料理を見つけています。

――12月に日本で東アジアE-1選手権が開催されます。日本、韓国、中国と対戦しますが、日本ではテレビ放送もされるので注目度も高いでしょう。どのような試合を見せたいと考えていますか?

 この4カ国の中で私たちはそれほど期待されてはいないかもしれません。簡単な試合は一つもありません。1試合1試合、ベストを尽くしていいプレーをみなさんにお見せしたいと思っています。

<プロフィール>

ヨルン・アンデルセン/1963年生まれ、ノルウェー出身の54歳。82年にノルウェーでプロデビューし、FWとして活躍。85年にはノルウェーのヴォレレンガ・フォトバルでプレーし、リーグ得点王。ブンデスリーガのフランクフルトでプレーした89−90シーズンには、外国人選手として初めて得点王に。85年から90年まではノルウェー代表として27試合に出場。スイスで現役を退いたあとは、指導者の道へ進み、スイス、ドイツ、ギリシャなどを渡り歩いて、2015年12月までオーストリアリーグのSVオーストラリア・ザルツブルクの監督を務めた。2016年5月から北朝鮮代表監督に就任。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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