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憶測ばかりが飛び交う今季未勝利の絶対女王イ・ボミ、本当の調子は?

金明昱スポーツライター
来週の国内メジャー初戦で優勝を狙うイ・ボミ(写真/Getty images)

イ・ボミは本当に調子が悪いのだろうか――。

某新聞社がネット記事にまとめた「今季不調のイ・ボミ 何か悩みでも? 気がかりなゴルフの状態とは…」というタイトルが気になり読んでみた。

内容は今季開幕からこれまでの結果をただ時系列に並べただけの記事で、イ・ボミ本人の話は何一つもなく、彼女の状態をよく知る専属キャディの清水重憲氏など関係者の声があるのかと思ったらそれもない。

現在のイ・ボミの不調の原因は何なのかは見えず、タイトルにある“悩み”が何なのかも分からなかった。

ただ、今季の試合結果だけ並べれば、確かに“不調”と映るかもしれない。

開幕戦のダイキンオーキッドレディスは3位タイだったが、ヨコハマタイヤPRGRレディスカップは27位タイ、Tポイントレディスは15位タイ。アクサレディスは2013年11月の伊藤園レディス以来の予選落ちで、これにはイ・ボミもショックを受けていたという。

2年連続女王のイ・ボミが約3年ぶりの 予選落ち…彼女の身に何が起きているのか

その後は「プロゴルファーとしてもっと上を目指すため」と米メジャーのANAインスピレーションに挑戦して53位、日本に戻ってからはKKT杯バンテリンレディースでは6位と今季2度目のトップ10入りを果たしている。そして、フジサンケイレディスクラシックは24位タイとまずますの結果だ。現在の賞金ランキングは17位。

これを“悪い結果”ととらえるには、時期尚早だ。

ただ、世間が知るイ・ボミは、15年と16年の2年連続賞金女王だ。当時の圧倒的な強さが今もなお残像として残っており、今季はその流れにイマイチ乗り切れていないと受け止められてしまうのは、スター選手の宿命だろう。

実は今季パーセーブ率1位

専属キャディの清水氏は「ある程度、成績を残していても不調と言われるのですから、困ったものです」と苦笑いする。

ちょうどイ・ボミがアクサレディスで予選落ちする前、清水氏に今年のイ・ボミの状態について聞いたときの話だ。

「ボミはスロースターターなんですよ」

清水氏はそう語っていた。確かに15年は序盤戦で優勝がなく、5月から9月までに4勝。16年は2戦目のヨコハマタイヤPRGRレディスで優勝したが、その後は6月のアース・モンダミンカップで優勝するまでなかなか勝てなかった。

さらに清水氏は「そこまで心配はしていません」と断言していた。

「今は以前と比べて調子が良くないと言われますが、開幕戦のダイキンオーキッドレディスは、2013年に予選落ちした以外はすべてトップ10入りしていますし、徐々に調子を上げていくので、心配はしていません。元々、ボミはショットが得意の選手です。彼女が『ショットの調子が悪い』と話す理由の一つに、春先は沖縄や高知にあるコースの土地柄、風が強く吹く日が多く、球を抑えて打つパンチショットを多用する影響でしょう。球を抑えて打つとフォローがしっかり取れなくなるからです。それでショットがブレているのだと思います」

さらに清水氏が「しっかりと見てほしい部分がある」と語っていたのが、イ・ボミの今季のパーセーブ率だ。6試合を消化した時点で87.6543%の1位にランクインしている。

これは何を意味するのだろうか。

「ショットの調子が悪いとグリーンを外すことが多いわけですが、その結果、実戦でアプローチするシーンが増えます。日本に来てからボミの弱点はアプローチでした。ただ、近年はその技術が格段に向上し、現在もパーセーブ率は良くなっています。つまり、アプローチでどれだけパーをひろったのかがこの数字から分かるわけです。元々、ショットが得意のボミなので、あとは時間の問題。そこにアプローチの技術も向上すれば、優勝争いに絡む試合も増えていくと思います」

ゴルフには多少の波があって当然。百戦錬磨のイ・ボミでも常にトップパフォーマンスを維持するのは、そう簡単なことではないだろう。

ただ、パーセーブ率が良いのはイ・ボミの調子を知る一つのバロメーターになる。それに調子の波もそこまで大きくはない。

3年間遠ざかっているメジャータイトル

そもそも、イ・ボミが今季掲げた目標は賞金女王ではなく、狙うはメジャーでの優勝。昨年末、韓国でイ・ボミに話を聞いたときこう語っていた。

「2017年は賞金女王を狙うというよりは、一打一打にベストを尽くしたいです。そしてメジャー大会で優勝することが目標。プロゴルファーとして高い目標を掲げて、もっと成長していきたいです」

取れるタイトルはほぼ手中に収めたと言っても過言ではないイ・ボミにとって、モチベーションの維持は難しい課題だが、今年はメジャー優勝にこだわった。

その理由は日本ツアー通算20勝中、メジャーを制したのは12年のLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップと13年の日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯の2回しかないからだ。2シーズンにわたり賞金女王になった年もメジャーでは勝てなかった。それがイ・ボミには心残りだ。

今季、イ・ボミはメジャーが開催される前週の試合はすべて休むスケジュールを組んだ。来週は今季メジャー初戦のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップが開催されるため、今週は韓国で英気を養っている。そこにメジャーへの本気度が垣間見える。

「すべてはメジャーで勝つため」

そう意気込むイ・ボミが、来週の国内メジャー初戦でどのような結果をもたらすのか。このままでは終わらないはずだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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