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若者に尊敬されるおじさんキャラ・小鳥(西島秀俊)を「ユニコーンに乗って」が生み出せた理由

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
「ユニコーンに乗って」より 写真提供:TBS

永野芽郁がスタートアップ企業の若きCEOを演じる火曜ドラマ「ユニコーンに乗って」(TBS系 火曜よる10時から)は、スタートアップ企業、ユニコーン企業、等身大の若いCEO、格差のない教育系アプリ開発、恋愛とは異なる好きの形など、現代的な題材によって、今までテレビドラマを見ていなかった層がTVer(ティーバー)で見るという新たな動きを作り出した。

実際のスタートアップ企業に取材をしたうえで制作したのはTBSの松本友香さんと制作会社TBSスパークルの岩崎愛奈さん。大ヒットした「私の家政夫ナギサさん」(20年 TBS系)を作り出したプロデューサー・コンビである。

20代がメインのスタートアップ企業に48歳のおじさん小鳥智志(西島秀俊)が転職、若者たちと交流し、娘といっても過言ではない年齢(26歳)のCEO成川佐奈(永野)を手助けする。ちょっと「ナギサさん」を彷彿とさせるところもある。

「何歳でもチャレンジできる」(松本)や「世代間を軽々と超えていける」(岩崎)という希望を描きたいという狙いが「ユニコーン」にはあった。松本さんと岩崎さんの作るドラマは「ナギサさん」も「ユニコーン」も、新しい感覚で作りながら、古いものも排除しないで、手をつないでいけるような風通しの良さがある。なぜ、ふたりの作るドラマが清々しくて優しい世界なのか。その秘密はふたりの現場環境にあった。

テレビを持ってない人たちが「ユニコーンに乗って」を見ている

――TVer(ティーバー)で見ている人が多いそうですね。

松本:取材したスタートアップ企業の方々が見てくれて、情報を拡散してくれたからか、今までテレビドラマを見ていなかった人たちの反響を頂くんです。テレビを持ってない人たちが見てくれています。

――配信でドラマを見る人が増えるとドラマの作り方は変わりますか。

松本:会社として、配信を意識した作りにしなさいということはまだないです。が、それぞれのプロデューサーによっては意識している人もいると感じます。私も意識しているほうで。例えば、今回、ドラマの前後にある提供クレジットの背景をシーン写真のようなものにしていますが、あれもTVerでちゃんと出して、ゆっくり見ることができたり、写真いいなと思ったらスクショしたりしてほしいと思って作りました。テレビドラマを作っている私がそれでいいのかとも思いますが、私自身、Netflixのドラマも好きですし、サブスクでドラマを見ている人が増えている以上、ドラマで1週間ごとに見る作品づくりと、配信で一気に見る作りでは違うだろうと感じます。

岩崎:放送と配信、いい意味で意識し過ぎないようにしているところもある一方で、時代の変化にちゃんとついていってニーズに応えられるドラマではありたいとも思っています。Netflixやアマゾンプライム制作のコンテンツが増えて、そこには重厚で集中して見ないとついていけない作品もある中で、テレビの連続ドラマは間口を広くしていたいと思っています。若い世代が見ても大人の世代が見ても惹きつけられるところをいままでどおり大事に、ふと目に止まったときに見続けてもらえるような、明快さ、肩の力を抜いて見られるものを意識していたいと思っています。

職場環境と年齢が違うことが逆にいいバランスをとっている

――「ナギサさん」に続いて一緒にドラマをプロデュースしているおふたり。どんなふうに役割分担をしていますか。

松本:監督も含め、物語を作るうえで大事にしたいことは常に共有しています。常に時間をたくさんとって話し合いをしています。なので、役割分担と言うと……難しいですね。分担していないというか(笑)。感覚が近いんです。「ユニコーンに乗って」は企画を出したのは私ですが、制作はTBSスパークルで行うことになったので、「ナギサさん」を一緒にやった岩崎さんと一緒にやりたいと考えました。岩崎さんとは物語の方向性のみならず、ビジュアルのイメージも気が合うんです。ドラマをつくるうえで脚本も大事ですが、どういうビジュアルにするかも大事だと思っています。TBS とTBSスパークル(旧ドリマックス)とお互い携わった作品や環境が違うので、私が経験してないことを教えてもらえるし、年齢差関係なくなんでも言ってしまう私のことを広い心で受け入れてくれるんです。職場環境と年齢が違うことが逆にいいバランスをとっているような気がします。

岩崎:松本さんの発想には刺激になることがすごく多いんですよ。私は世代間ギャップが埋まっていくと、世の中、もっと楽になるし、おもしろくなるんじゃないかと思っていて、それを自分の課題にもしています。役割分担というよりはそれぞれの考え方を持ち寄って一緒に練って練ってひとつにしていく作業に魅力を感じます。監督、脚本家、プロデューサーといろいろな世代が集まってそれぞれ意見を出し合ったとき、必ずどこかで意見が合致するんです。確かに、ここってこうだねという答えがぽん!と出る瞬間があって、そういうところがすごく楽しい。そういう瞬間をドラマのなかで感じてもらえったらいいなと思うんです。

新しいことを受け入れてくれる懐の深さと視野の広さがかっこいい先輩

――おふたりのドラマ作りの師匠に当たる人はいますか。

松本:私がTBSに入ったのは、磯山晶さん(「池袋ウエストゲートパーク」「俺の家の話」など)がいらっしゃったからです。8歳くらいからドラマを作りたいと夢見ていて、高校生になり志望大学を決めるとき、ドラマを作る最前線の人はどんな大学出身なんだろうと検索をかけたら磯山さんが上智大学新聞学科卒業だったので、そこに入学しました。去年まで私は編成部というどんな番組、そしてドラマを放送するか企画の根幹を決める部署にいて、そこで磯山さんとご一緒できて、どんな選球眼をもっていて、どういうふうに作品づくりに取り組んでいるのか横で見せてもらったことで大きな影響を受けました。APや助監督として下につかせてもらい、お世話になったのは今は編成局長である瀬戸口克陽(「花より男子」「99.9-刑事専門弁護士-」など)です。

岩崎:那須田淳(「逃げるは恥だが役に立つ」、映画「花束みたいな恋をした」「罪の声」など)です。歴代の錚々たるドラマを作ってきた人で、私にとっては雲の上の存在と思っていたのですが、「ナギサさん」のときに“おじさん監修”として入ってくれて、たくさん相談に乗ってくださいました。まさに世代間のギャップを取り払ってくれた人です。ベテランですが、考え方が柔軟で、新しいことを受け入れてくれる懐の深さと視野の広さがとてもかっこいいしですし、「ドラマってこういうふうに作るとやっぱりおもしろい」というノウハウから矜持みたいなものを教えていただきました。

――「ユニコーン」にはおじさん監修は? 

松本:いません、今回は自立しました(笑)。

仕事のみならず、プライベートや人生の話も自然に話すことができる職場

――お話を聞いて、小鳥さんのような存在が、作っている松本さんや岩崎さんにもいたのだと感じました。

松本:新しいことをやりたいと声をあげていく私はよく「暴れてるぞ」「生意気だ」と言われるんですが、瀬戸口はいつも耳を傾けてくれてじゃあ変えてみるようにこう動いてみたら?とか具体的な助言をくれます。それもドラマ一作の話ではなく、ドラマ制作という大枠についても変えてきいきたい気持を聞いてくれます。例えば、去年秋元康さんプロデュースで、「私が女優になる日」というオーディション番組に受かった若い女の子だけで深夜の帯枠に「この初恋はフィクションです」というドラマを作ったとき、若い世代は深夜にわざわざ毎日テレビをつけてドラマを見ないので、全40話YouTubeで配信流したいと提案したら、各所「それは難しいのでは…?」という空気だったのですが、瀬戸口がいろんな部署とかけあって、実験的にやってみようと動いてくれました。おかげで、YouTubeでは約5800万再生、TikTokでは約3.5億もの切り抜き動画が回って、若い子たちに届いたという結果も出てきました。ドラマのリアタイに若者を呼ぶ努力より、「YouTubeで見られるドラマを作っているTBS」というブランディングを若い層にアピールしたほうがいいのではないかと提案したんですよ。

岩崎:スパークルの前身はドリマックスという小さな制作会社なので、社内の人たちの名前と顔がわかるし、なんでも話せる環境です。そこに新井順子という皆が憧れるスーパープロデューサーがいて若手に目指すべき存在を提示してくれましたし他の先輩プロデューサーたちも、たくさんのドラマを作ってきた経験豊富な人ばかりで、困ったことや悩むことがあればすぐに相談できる環境です。風通しのいい職場を実現してくれて、仕事のみならず、プライベートや人生の話も自然に話すことができる。それが自由な発想に繋がっていると思います。

――最後に、「ユニコーンに乗って」の最終回への想いを教えてください。

松本:最終回はこのドラマの命題でもある、何歳でもチャレンジできるということと大人の青春のゴールの集大成です。気持ちよく、明日から頑張ろうという気持になれるような物語になります。

岩崎:登場人物たちがどんな幸せ、答え、結末を掴んでいくのかなと、台本を作りながら、私もわくわくしていました。この人達はほんとに進化をやめないんだなと思ってもらえると思います。未来はどこまでも続いていくという希望あふれる物語になっているので是非楽しみに見ていただきたいです。

ユニコーンに乗って

毎週火曜22:00〜 TBS系  最終回は9月6日(火)

出演:永野芽郁、西島秀俊、杉野遥亮、坂東龍汰、前原滉、石川恋、青山テルマ、山口貴也、武山瑠香、広末涼子

脚本:大北はるか

プロデュース:松本友香、岩崎愛奈

演出:青山貴洋、棚澤孝義、泉正英

製作:TBSスパークル、TBS

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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