この2年間、コロナ禍によって自由に旅行することも制限されていた身に染みる美しい桜。人気シリーズ「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」(NHK BS プレミアム、BS4K)の最新作「門出の桜」(5月28日放送)は京都各所の桜を映し出す。

山科区醍醐寺、左京区蹴上インクライン、上京区北野天満宮……と来年こそ実際の地に訪れたいという想いを強くしつつ、映像だけでもかなりの没入感を覚える。

短い間に咲き誇り散っていく桜の強烈な生命力は私たちに生きる力をくれる。それはまるで燃え盛る青春時代のようでもある。

「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK
「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK

四季折々、京都の魅力をドラマとドキュメンタリーで見せる「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」はNHKBSプレミアムで不定期放送されてきた。京都で暮らす若者たち(高校の同級生)が京都を代表する仕事の作庭、陶芸、日本料理、農業、パン作り……の修業に勤しみ、その合間、たまり場に集って語り合ったり、恋したりする青春群像ストーリーである。

様々な出会いや別れを経験しながら成長していく若者たちを、林遣都(庭師修業)、吉岡里帆(陶芸家修業)、矢本悠馬(板前修業)、毎熊克哉(農業修業)、趣里(パン職人修業)が演じている。彼らが醸すビビッドな喜怒哀楽の感情は風景共々没入できる。

「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK
「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK

京都ロケで京都の風景がふんだんに使用されているうえ、ドラマと平行してドキュメンタリーパートがあってちょっと気になる京都の知識を得ることができる、とてもお得な番組で、今回の「門出の桜」編では一般人が容易に観ることができない私邸の特別な庭の桜が紹介される。また、料理研究家・大原千鶴松尾剛アナウンサーのかけあいがおもしろい料理コーナー「あっさりだけやあらしまへん」も安定のおもしろさである。

「Blue 修業中」の前身は「京都人のひそかな愉しみ」(15〜17年)で、老舗の和菓子店の若女将(常盤貴子)と京都を研究している外国人大学教授(団時朗)の視点から京都の文化を知るドラマ仕立ての教養番組であった。これが惜しまれつつ完結したあと登場したのが「Blue 修業中」で、主人公たちの年齢をぐっと下げ、二十代の若者たちによる京都の現在地を描いた。

「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK
「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK

「Blue 修業中」のはじまりは2017年9月の「送る夏」でお盆、先祖に想いを馳せる五山の送り火を描き、次は18年の4月、「祝う春」で梅の花、19年の8月、「祇園さんの来はる夏」では祇園祭、21年1月に「燃える秋」で紅葉……と伝統行事や自然の営み、変わらず毎年繰り返される出来事のなかで若者たちが少しずつ成長していく。

左京区岡崎に居を構える庭師・十五代目 美山清兵衛(石橋蓮司)の弟子・若林ケント幸太郎(林)。東山の割烹料理店・萩坂で働き、実家は下京区の漬物店の松原甚(矢本)、右京区・嵯峨野で御室焼の窯元を営む宮坂羊山(本田博太郎)の家に生まれ、父の跡を継ぐべく修業に励む宮坂釉子(吉岡)、左京区で京野菜を育てている松陰タエ(江波杏子)の孫・鋭二(毎熊)、西陣の染色職人の家に生まれながらパン作りを選択する上町葉菜(趣里)と、主人公たちの家は京都の各所に点在し、5人のたまり場は幸太郎の母(秋山菜津子)の営む中京区御所南のBar Forest Downだ。

京都各所で生まれ育ち働き、ときどき御所のBar Forest Downに集まる5人。彼らの仕事は宇宙を構成する五行・水・金・地・火・木を象徴しているようで、無関係なようで関わり合いながら美しいバランスをとっているように見える。さながら京都を静謐な宇宙に見立てたようなドラマなのである。

恋に夢中になったり、失恋したり、師匠を亡くしたり、家族と対立したりしながら、主人公たちはつねに自分の仕事にはものすごく懸命で、それが清々しい。5月28日に放送される「門出の桜」は、「燃える秋」編で反対する親を説得して結婚までこぎつけた鋭二と葉菜の門出からはじまり、甚が板前修業の卒業試験として筍づくし料理に挑む。美食家として有名な勅使河原君三郎(木場勝己)の厳しい舌を満足させるものはできるのか。桜と並んで、京都の水を生かして調理する筍料理の数々がこれまた眼福である。

「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK
「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK

一方、釉子は「生活の美」に興味を持ちはじめ、幸太郎も思いきった決断をする。

若者たちをときに厳しくときにあたたかく見守ってきた師匠たちもまた、それぞれの道を歩んでいく。若者よりは終わりが近いとはいえ職人としてどこまで矜持を持って生きていくか、若者にどんな背中を見せるのか。大人たちの生き方に含蓄がある。

「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK
「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK

伝統ある仕事に敬意をはらいながら、真面目に生きる者たちに誠実に寄り添いながら、ほどよくコミカルな部分もあって楽しめる。脚本と監督は源孝志で近年、「スローな武士にしてくれ」「ライジング若冲」「中村仲蔵 出世階段」など京都を舞台にした秀作ドラマを手掛けてきた。

この素敵な若者たちの修業ストーリーも今回で完結となる。俳優たちもこの数年の間に皆、成長した。林は番組公式サイトでこのようにコメントしている。

「若林ケント幸太郎」―このシリーズが始まる際、源監督に与えていただいた僕のフルネームが入った役名です。監督が当てがきで描き続けてくださったこの役には、俳優としてだけでなく、一人の人間としての僕の"今"が詰まっていると思っています。

長い時間、役と俳優の成長を共に続けて観ていく愉しみは往年の名作「北の国から」にもちょっと近い感覚である。だからこそもっと続けてほしい気もして惜しくもあるが、その気持ちがまさに桜を観る想いのようだ。

まずは若者たちの選択を見届けたい。そしてシリーズ第3弾もぜひお願いしたい。

「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK
「京都人の密かな愉しみ Blue 修業中」より  写真提供:NHK

ドラマ「京都人の密(ひそ)かな愉(たの)しみ Blue 修業中 門出の桜」

2022年5月28日(土) BSプレミアム・BS4K よる7時30分~9時10分

脚本・演出:源孝志

音楽:阿部海太郎

出演:林遣都、吉岡里帆、矢本悠馬、趣里、毎熊克哉

団時朗、甲本雅裕、岡田浩暉、波岡一喜、田中幸太朗、品川徹、西田尚美、木場勝己 上杉祥三、本田博太郎、高岡早紀、秋山菜津子、石橋蓮司

制作統括:渡辺圭(NHK)、伊藤純(NHKエンタープライズ)、八巻薫(オッティモ)

プロデューサー:川崎直子(NHKエンタープライズ)、石﨑宏哉(東映京都撮影所)