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衝撃の〈カムカムエヴリバディ〉安子編を演じきった上白石萌音の素顔を京都で

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
撮影=山本あゆみ

安子ロスが止まらない。“朝ドラ”史上初の3人ヒロインで半年の間に3人が代替わりして100年もの長い時代を描く連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)。トップバッターのヒロインは上白石萌音演じる安子だったが12月22日(水)第38回で次なるヒロイン・深津絵里演じる、るい(安子の娘)にバトンタッチした。

第38回はかなり衝撃的な展開でこんなにも波乱万丈な半生を駆け抜けた安子のことが忘れられない。このタイミングで京都・堀川新文化ビルヂングのギャラリー&イベントスペースNEUTRALにて12月24日(金)から「山本あゆみ 写真展 〜上白石萌音著『いろいろ』〜」が行われる。ドラマとはまた違う上白石さんの素顔を見ることができる。この開催地が”朝ドラ”とも浅からぬ縁のありそうなところなのである。

上白石萌音さんのエッセイの撮影はなぜ、京都だったのかーー。

撮影=山本あゆみ
撮影=山本あゆみ

上白石さんのエッセイで使用された写真の展示企画は故郷・鹿児島と京都で撮った写真を厳選して展示する。

エッセイの表紙は京都で撮影されたもので、京都で展示を行うにあたり、京都で撮った写真のうち、書籍に掲載したなかからの1点のほかに未収録の写真が4点展示されることになった。

『いろいろ』を編集したNHK出版の砂原謙亮さんは写真展開催の経緯をこう語った。

「もともと写真展をやりたいと思っていて、撮影をお願いした山本あゆみさんと実現に向けて相談していました。場所について考えていくなかで、ひとつは故郷・鹿児島、ひとつは関東圏の東京、『カムカム〜』安子編の舞台である岡山でも開催しました。関西圏で行うとしたら撮影した京都でやりたいと考えたところ、大垣書店さんが新しく11月にオープンした堀川新文化ビルヂングにギャラリーができると聞き、企画をご提案しました」

朝ドラヒロイン決定と縁のある書籍

京都の写真はちょうど『カムカム〜』の収録を京都の撮影所で行っていたときのものなのだそう。写真はあくまでも上白石萌音さんの素顔に迫ったものながら、『カムカム〜』撮影中の上白石さんなのだと思うと『カムカム〜』及び安子ファンも嬉しいだろう。エッセイの執筆が進行しているときに上白石さんが朝ドラヒロインに決まったという縁のある書籍でもある。

「表紙撮影のコンセプトは“どこでもないどこか”で、趣がありながら、コンセプトどおりの佇まいとしてどこでもないどこかを感じさせる京都のとある喫茶店を使用させていただきました」と砂原さん。確かに京都は長い歴史に立脚しながら不思議に幻想的な雰囲気を感じる、その懐の深さを大きく引き伸ばした写真で細かい部分までじっくり見ることは得難い経験であろう。

「上白石さんは、地元鹿児島はもちろんのこと、京都でもリラックスして撮影に臨んでいました」と砂原さん。「安子編の終わったタイミングでの写真展の開催。安子ロスの方にも安子編が面白かったと噛み締めながら見ていただきたいし、朝ドラで上白石萌音さんを知った方には彼女にこんな素顔があるってことにもふれていただきたいですね」

撮影=山本あゆみ
撮影=山本あゆみ

朝ドラ聖地巡礼もできる地域

企画展を開催する堀川新文化ビルヂング・ギャラリー&イベントスペースNEUTRALのディレクター・大垣守可さんは「今回の展示企画は書籍が出たときに書店の一角で販促として行われるパネル展とはまったく違うものです。展示物をクオリティーの高い“作品”として取り扱う、写真展にこだわりました。本の宣伝のための展示ではなく、“写真”を鑑賞することに重きを置き、展示環境の質を上げ、何回観に来ても飽きない展示にしたいと思っています」と語る。展示内容が変わるわけではないが、空間の気持ちよさや写真のクオリティーさえあれば、そこにいるだけで心地よい、何度見ても発見のあるものになる。山本さんの写真も、上白石さんの存在もそれに足り得るものだ。

ちなみに、この堀川新文化ビルヂングは朝ドラと縁が深いところにある。この近辺には『あさが来た』のモデルになった広岡浅子の生地跡や『あすか』の和菓子指導を担当した高家昌昭さんのお店・塩芳軒がある。また『わろてんか』のヒロインにゆかりの薬神社(ドラマではロケは別の場所でかなり違う見せ方をしていたけれど)も比較的近所である。朝ドラ好きな人は写真展を見て、朝ドラ聖地巡りができる好立地なのだ。

ビルは二条城を北に上がった堀川通沿いにあり、京都御所や晴明神社もそば。戦前は映画館がいくつもある京都でも指折りの歓楽街であった。『カムカム〜』の3人目のヒロイン・ひなた(川栄李奈)編は京都が舞台になるのでその予習も兼ねて京都に行ってみると楽しそう。

堀川新文化ビルヂング 撮影:大垣守可さん
堀川新文化ビルヂング 撮影:大垣守可さん

書店と本とエンタメの連動

堀川新文化ビルヂングを作った大垣書店さんは1942年に京都で開業して来年80周年の歴史ある書店。大垣守可さんはビルのコンセプトをこう語る。

「ギャラリーというとどうしても近寄りがたく感じることもありますが、誰もが気軽に立ち寄って楽しめる場所にしたいと思っています。NEUTRALという名前は展示のジャンルにとらわれないことを意識して付けたものです。書店のラインナップもとがったセレクトではなく実用性の高いものを置いています。お子様の勉強のためのドリルや、誕生日プレゼントにもなるような児童書、定期的にお買い物いただける雑誌など手軽なものを取り揃えています。

併設のカフェではお子様を保育園に送ったお母さんたちが帰りにカフェでお茶会をしてくれたり、学生さんが勉強したりしてくださってまさに地元の本屋さんです。それからこの書店のほかにない特徴は、自分だけの本を作ることができる印刷工房です。作った本はこちらの書店で販売もできますよ。本とものづくりが楽しめる場所として地元に長く愛される書店とギャラリーに育てていきたいです」

ギャラリーNEUTRAL 撮影:大垣守可さん 
ギャラリーNEUTRAL 撮影:大垣守可さん 

筆者も昔は地元の書店で朝ドラガイドを購入していたが、いまや地元に本屋がすっかりなくなってしまいネットのお世話になっている。地元にギャラリーもある広い書店があるのはなんて幸福なことだろう。朝や昼に朝ドラを見て、ふらっと上白石萌音さんの写真展を見に行くことができるなんてすてきなことだと目を輝かせる朝ドラ好き過ぎる筆者に、大垣さんも砂原さんも若干苦笑していたが……。もちろん、上白石さんはこれからミュージカル「千と千尋の神隠し」に主演し、紅白歌合戦にも出演するなど俳優、歌手として活躍していて、朝ドラだけの人ではない。だからこそ親しみのある書店とギャラリーにもぴったりだと思う。

上白石さん自身、書籍をつくるにあたり、紙やフォントを選び、あとがきに本づくりの尊さを綴っている。堀川新文化ビルヂングのコンセプトとぴったり。

「書店は未知なる本との出会いの機会になる」と砂原さんが言うように、大垣さんの理想は、自分の目で見て手で触れて出会うリアルな本の大切さだ。大垣さんは「理想の書物」という品切・重版未定になっていた本を限定で再販して売るほどリアルな本に対する愛情がある。新しい文化施設と本や写真の出会い。リアル書店が元気のないいま、志ある書店と志ある本やエンタメが連動しながら、どちらも盛り上がっていってほしい。

「山本あゆみ 写真展 〜上白石萌音著『いろいろ』〜」

京都・堀川新文化ビルヂングのギャラリー&イベントスペースNEUTRAL

2021年12月24日(金) 〜 2022年1月9日(日)

堀川新文化ビルヂング 京都府京都市上京区皀莢町287

何年も前からビルの企画を準備してきた大垣守可さん(右)とビルの館長・和中整さん ふたりは同世代の三十代 撮影:筆者
何年も前からビルの企画を準備してきた大垣守可さん(右)とビルの館長・和中整さん ふたりは同世代の三十代 撮影:筆者

「20年以上右肩下がりの斜陽産業である書店経営を僕らの世代がどうやって踏ん張って続けることができるかと考えています」と言う大垣さん 撮影:筆者
「20年以上右肩下がりの斜陽産業である書店経営を僕らの世代がどうやって踏ん張って続けることができるかと考えています」と言う大垣さん 撮影:筆者

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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