いよいよ“前畑がんばれ”「いだてん」の見せ場を前に「視聴率」をどう思うかNHKに聞いてみた
二・ニ六、戒厳令、ベルリン・オリンピック、日本マラソンがついに金、そして前畑秀子 取れるか高視聴率
日本ではじめてオリンピックに参加した金栗四三(中村勘九郎)とオリンピックを東京に呼んだ田畑政治(阿部サダヲ)を主人公に、明治、大正、昭和とオリンピックの歴史とそれに関わった人々を描く群像劇。第二部・田畑編。9月22日(日)放送の36回は「前畑がんばれ」が有名な、1936年、ナチス政権下のベルリン・オリンピック前畑秀子(上白石萌歌)の快挙を描く。「いだてん」の放送前から描かれることを期待されていたエピソードでもあり、かなりの見せ場になるのではないか。予告でもスポットでも煽っている。
せっかくだから視聴率もほしいところだろう。常に高い低いが話題にのぼる「視聴率」をNHKとしてはどのように考えているか聞いてみた。
「いだてん」に堂々と出る企業名「朝日新聞」。特定企業名を使っていいのかNHKに聞いてみた。
に続く NHKに聞いてみたシリーズ
スポンサーがいないから視聴率を気にすることはないの? 視聴率を鑑みての「打ち切り」「テコ入れ」という概念はあるの? など素朴な疑問を投げた結果ーー NHKからの回答は記事の後半に掲載する。
まずは34回、35回レビュー。劇中、志ん生は笑いにできないというが、脚本家・宮藤官九郎はこの時代とどう向き合っているか考察した。
【第34回「226」 演出:一木正恵/第35回「民族の祭典」 演出:井上 剛】
昭和11年2月26日、雪の早朝5時、軍靴の音。
美濃部孝蔵の引っ越しが二・二六事件によって交通が乱れたため遅れたことは志ん生の書「なめくじ艦隊ー志ん生の半生紀ー」にも書いてあって、実話らしい。
高橋是清(萩原健一)を殺害した青年将校たちはその足で朝日新聞社にやってきて「国賊新聞をたたきつぶす」と思い出のロス・オリンピックの写真も容赦なく踏み潰していく。
報道は差し止められ、戒厳令が敷かれた。
このエピソードは、後に志ん生(ビートたけし)が「東京オリンピック噺」として高座にかけている体(てい)になっている。ところが志ん生はサゲずに高座を下りてしまう。
「あの時代の話はだめだ 笑いになんねえや」と言って、弟子の五りん(神木隆之介)に代わってしまうのだ。
志ん生は「笑いになんねえや」と言うけれど
関東大震災のとき(23回)でも志ん生は、大震災のくだりで「40年も経っているのにどうしても笑いのほうへ引っ張れないんだな」と言っていた。
笑いのプロでも震災や二・二六を笑いにすることができないと描く「いだてん」の脚本家・宮藤官九郎は、シャレにならない震災や政治闘争と向き合わざるを得ない「いだてん」にどんな思いで向き合っているのだろう。
かつて宮藤は、東野圭吾原作のミステリー「流星の絆」(08年 TBS 系)で、「遺族だって笑うんだ」という当たり前のことを描くとドラマがはじまる前に番組公式サイトで書き、実際みごとに重く暗くなりがちな物語に笑いを入れてほっとさせてくれた。そういう作家だからこそ、「いだてん」に挑む意味があるんじゃないだろうか。
これまでの宮藤官九郎作品は、少年漫画のギャグとパンクのアグレッシブ、速度と熱量の高さで圧倒する作品が多かったが、「いだてん」はどこか抑制されているように感じる。この抑制とは成熟ともとれるし、一方、どこか窮屈なようにもとれる。
アジア団結 「政治とスポーツは関係ない」
34回では「こんなときだからオリンピック」と息巻く嘉納治五郎(役所広司)に「どんなときでもオリンピック」と田畑が呆れるところや、苛立つ田畑が煙草の火のほうを自分のほうに向けて灰皿に乗せるたびに妻・菊枝(麻生久美子)がひっくり返して口に火傷しないようにする内助の功を見せるところなどでくすりとなるが、あとは深刻なシーンが続く。ほっこりするのは四三(中村勘九郎)と幾江(大竹しのぶ)との人情話の場面で、最後は五りんの「オリムピック噺」のサゲ(「目黒のさんま」を使う)で笑わすという構成だ。
35回では、「プロパガンダ」や「ハイル・ヒトラー」をダジャレにしたり、田畑が「アレのナニ」とわけのわからないコメントをラジオでして笑わせるが、この回も極めて重い。
揉めて延期になった1940年のオリンピック会場を決める投票を前に、嘉納治五郎は、戦争の狭間にある東京でこそ平和の祭典をやるべきと力説する。そこには満州事変に関わっている中国の王正廷もいるが、彼は、同じアジア人として東京を支持する。政治とスポーツは関係ないと言う王。IOCはまるで戦争と平和の狭間にあるようだ。
「ヒトラーに御礼を言いなさい」
結果、東京36票、ヘルシンキ27票で東京に決まる。
だが、ラトゥールは田畑にそっと「ヒトラーに御礼を言いなさい」と耳打ちする。手前に鉤十字の腕章が映ったりして不穏な空気のなか、震災に巻き込まれ行方知らずになってしまったシマの娘・リク(杉咲花 二役)がシマそっくりに成長しハリマヤで働いていることがわかって、そこだけ光が差したようだった。
IOC会長ラトゥール(ヤッペ・クラース)を日本に招きおもてなし作戦が敢行された結果、オリンピック招致に成功し、日本中(東京だけ?)は二・二六も戒厳令も忘れて、三日三晩、お祭り騒ぎ。
そしてベルリン・オリンピックがはじまった。
日本選手団が皆、そろいの戦闘帽をかぶっているのに田畑だけはロスのときのカンカン帽で、「戦争しに来たんじゃない」とあくまでオリンピックを楽しむ姿勢でいるが、街には五輪とナチスの旗が並んではためき、「ハイル・ヒトラー」が流行っている。選手村に日本人しかいない。ロスでは白人も黒人もいっしょだったのにと不満げな田畑。いるのはユダヤ人のヤーコプだけ。それは期限つきの平等。
「ハリマヤの金メダル」
35回のサブタイトルは、ヒトラーの寵愛を受けたレニ・リーフェンシュタールの撮ったプロパガンダ映画と言われる「民族の祭典」(1938年)からとられている。タイトルどおり、35回では、民族問題が描かれる。
朝鮮人の孫基禎と南昇竜によって日本がマラソンで悲願(苦節二十年)の金メダルを獲得したとき、朝鮮の国旗と国歌ではなく日本の国旗と国歌だったことに皆、もやもやする。が、ハリマヤの黒坂辛作(三宅弘城)は、民族の違いに関係なく。自分の足袋で勝利してくれたことを喜ぶ。「ハリマヤの金メダル」。金栗にあこがれてハリマヤの足袋シューズを履いて走って金メダルと銅メダルを獲得した孫と竜。ハリマヤの発明が勝利を導いたのだ。民族の違いに関係なく、目的と行為(誰が何をしたか)こそが大事だと思わされる話である。
「なんだか好きじゃない このオリンピック」「私は好きになる このオリンピック」
その頃、田畑は夜のプールでしょんぼり。そこに、前畑秀子(上白石萌歌)が眠れず練習に励んでいた。
「なんだか好きじゃない このオリンピック」と田畑が言うと、
「私は好きになる このオリンピック」と前畑は返す。
金メダルをとったらほんとに好きになれるのか?前畑はすでに、国民の要望に乗せられて自分を見失っている節があるが、彼女に罪はない。
淀川長治はレニ・リーフェンシュタールの「民族の祭典」をどう見たか
レニ・リーフェンシュタールの「民族の祭典」のDVDで淀川長治は映画を「ぞっとするほど立派でしたね」「実写の最高芸術」などと言っている。カメラを40台も使ったり、運動場に穴を開けて地下から上に向けて撮ったりしたとその撮影の凄さ(ひいてはヒトラーの力の凄さ)の一端を紹介する淀川長治。穴開けて地下から上向けて撮った画は、「いだてん」の第一回にあった。あれは、レニ・リーフェンシュタール、リスペクトだったのか。
この映画の凄さで当時の誰もが「ドイツに酔っ払った」「日本人がドイツに傾いた」「国民を動かした」「映画の力、こわいですねえ」と淀川長治。そんなふうになってしまったことに「少し嫌気がさしましたね」とも。
その言葉と、志ん生のセリフ「みんな騙されちゃってな」とが重なって聞こえた。
いよいよ、前畑秀子の出番
35回のラストは、田畑が「前畑がんばれ」と盛り上がり、視聴者の誰もが思ったことを五りんが代弁した。「え、それ言っちゃう」
珍しく、「いだてん」がわかりやすく視聴者と一体化する。
次回予告では「がんばれ がんばれ」の声が連なり、皆川猿時がいい声で「届けこの叫び」と言う。若く美しく図抜けた能力を発揮する前畑に日本中がひとつになれそう。
スポーツにしても芸にしても優れた才能は良くも悪くも多くの人の心を動かす。
34回で、久々に登場し、ラトゥールを人力車に乗せて戒厳令下の東京を案内するという大仕事を任された清さん(峯田和伸)は、「世の中よくならないからせめて思いきり馬鹿笑いさせてくれ」と馬生(森山未來)に言う。笑いに限らず、演劇や芸術に携わる人達はなにか大事があったとき、自分たちの活動がが要るのか要らないのか悩むと聞く。とりわけ笑いは難しい。洒落が通じず、こんなときにふざけて!とマイナスに捉える人もいるから。
「遺族だって笑うんだ」と書いた宮藤官九郎は根本的に笑いの作家だと私は思っているが、「いだてん」で笑いとどうつきあい続けるか、最終回まで注目していきたい。少なくとも、いまのところ、金栗や田畑、嘉納治五郎たちがチャーミングに描かれていて、灯火みたいになっていることは確かだ。
第二部 第三十六回「前畑がんばれ」 演出: 大根 仁 井上 剛 9月22日(日)放送)
前半は戦前のオリンピックで最も有名なエピソード、前畑秀子のベルリンオリンピックのレース。日本中からの「がんばれ」の声を、前畑がどう受け止めるのか? 終盤は前半とは打って変わって、日本が戦争に突き進む中で進行するオリンピックへの準備。前半、後半のムードはずいぶん違うらしい。演出も大根仁と井上剛のふたり体制。心して見よう。
と、ここで、毎週注目される視聴率を、NHKはどう考えているか聞いてみた。なお、視聴率は主に世帯視聴率であり、それにもリアルタイムやタイムシフト、さらにそのふたつを足した総合視聴率など多角的なデータ測定が行われるようになっている。
視聴率が低いことをもって番組を打ち切るということはありません。
Q:NHKにとっての視聴率はどういうものですか。スポンサーのいる民放とは視聴率の捉え方が違うと思うのですが、受信料を支払っている視聴者がスポンサーと考えた場合は視聴率は高いに越したことはないという捉え方なのでしょうか
NHKにとって視聴率はどれだけの視聴者に番組を見ていただけたかを知る大切な指標の一つです。ただ、視聴率だけでなく質的な評価指標や接触者率、放送番組審議会でのご意見、視聴者のみなさまからの反響などを加味して多角的に番組を評価しています。家族がそろって楽しめる番組や多様な関心やニーズに応える番組など、NHKメディア全体として幅広い世代の方々に見ていただけることを目指しています。
Q:視聴率の高低に限らず、良質な番組を提供してくださると考えて良いのでしょうか
報道や娯楽番組をはじめ、子ども幼児向けの教育番組や様々なライフステージに寄り添った健康や福祉番組、社会的課題に取り組む報道番組など、視聴率の高低に左右されることなく、質の高い豊かな放送することが、公共放送NHKの大きな使命だと考えています。
Q:民放では時折ある視聴率を鑑みての「打ち切り」「テコ入れ」という概念はあるのでしょうか
視聴率が低いことをもって番組を打ち切るということはありません。レギュラー番組などでは内容改善のため、アンケートやインタビューなどの調査を行うことがあります。そうした調査を参考に、演出や構成を修正するといったいわゆるテコ入れをするケースもあります。
Q:広報のお仕事は、視聴率を意識した広報活動をされているのでしょうか。その場合、どのような活動をされていますか。
より多くの方にご覧頂くための工夫やPRを行っており、具体的には、放送に合わせたタイミングでの取材会やイベントの実施、HPやSNS等での継続的な情報発信などです。
NHKは9月20日、後半戦の新たな出演者を発表。64年の東京オリンピックの記録映画を撮った市川崑監督に三谷幸喜、国立代々木競技場を設計した建築家・丹下健三に松田龍平、東京オリンピック組織委員会会長の津島寿一に井上順、総理大臣・池田勇人を立川談春が演じるほか、16人もの豪華な顔ぶれだ。
伊藤博文暗殺場面に「西郷どん」つながりで出た浜野謙太が再び三波春夫役で登場することが話題だが、黒澤明監督役が怒髪天のボーカル増子直純であることに注目したい。
宮藤官九郎の舞台 ロック・オペラ「サンバイザー兄弟」(16年)で瑛太とダブル主演。初舞台ながら圧倒的なスター性(アニキ感)を見せつけた。このときは得意の歌があったが、今回は歌わないだろうけれど巨匠黒澤をどう演じるか。
大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」
NHK 総合 日曜よる8時〜
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
演出:井上 剛、西村武五郎、一木正恵、大根仁ほか
制作統括:訓覇 圭、清水拓哉
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか 麻生久美子 桐谷健太/森山未來 神木隆之介/
薬師丸ひろ子 役所広司 ほか
「いだてん」各話レビューは、講談社ミモレエンタメ番長揃い踏み「それ、気になってた!」で連載していましたが、
編集方針の変更により「いだてん」第一部の記事で終了となったため、こちらで第二部を継続してお届けします。