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蜷川幸雄、一周忌追悼企画続々開始。GEKISHA NINAGAWA STUDIO 「2017・待つ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
青春期から蜷川と歩んだGEKISHA NINAGAWA STUDIO の面々 

蜷川演劇の名バイプレイヤーたちが、蜷川を想って、新作を上演

日本を代表する演出家・蜷川幸雄が亡くなって、2017年の5月で1年が経つ。

多い時で年に10本近い公演を行っていた蜷川がこの世を去ってこの1年間、彼の手の入った作品を1本も観ることができなかったこと、この先も二度と観ることはできないことを、いまだに信じたくない演劇ファンは多いだろう。私もそのひとりだ。

蜷川幸雄の不在を惜しむ一周忌の企画が4月から徐々にはじまっている。

まずは、先日、彩の国さいたま芸術劇場での蜷川幸雄一周忌追悼公演「さいたまゴールド・シアター×さいたまネクスト・シアターの 『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』が上演された。

4月27日からは、かつてGEKISHA NINAGWA STUDIOに所属し、蜷川幸雄と演劇をつくっていた9人の俳優たちが「僕たちの再戦」というキャッチコピーで『2017・待つ』を上演する。

5月13日からは、藤原竜也、小栗旬、阿部寛、市川猿之助、白石加代子、吉田鋼太郎などが出演した蜷川の舞台を映像化した4作を全国15ヶ所の映画館で上映する『蜷川幸雄シアター』が公開。

長女で写真家の蜷川実花は、5月10日から19日までの限定10日間、品川・原美術館で写真展「蜷川実花 うつくしい日々」を開催。”父親の死に向き合う日々を撮影した”写真約60点を公開する。

6月になると、蜷川の代表作であり、”世界のニナガワ”の名前のきっかけにもなった『NINAGAWA・マクベス』が、市村正親、田中裕子の出演で、香港を皮切りに、日本(さいたま/佐賀)、イギリス(ロンドン/プリマス)、シンガポールで上演される。

蜷川演劇を愛する観客なら、GEKISHA NINAGWA STUDIO の『2017・待つ』は見逃せない。

その公演チラシにはこう書かれている。

隅田川ぞい森下にあった「ベニサンピット」、今はもう無くなった劇場です。そこはむかし、染物工場の倉庫でGEKISHA NINAGAWA STUDIOのホームグラウンドでした。僕たちは蜷川幸雄が演出するさまざまなジャンルの作品に参加し上演してきました。でもその中で「ベニサンピット」でのスタジオ公演『待つ』で彼と戦いながら創った作品たちは、僕たちが何故表現のために疾走するのかその理由を考えさせてくれる大切なものとなりました。

蜷川が吠えた!!「お前ら、待つをテーマに自分の現在を描く作品を創ってこい!」そうして、『1991・待つ』が立ち上がり、そのシリーズがはじまりました。最後の『待つ』から14年。今再び僕たちが待ち続けたモノ、そして今も待ち続けるモノは何なのか、もう一度闘ってみようと思います。

出典:公演チラシより

GEKISHA NINAGAWA STUDIOは蜷川幸雄が50代になったときつくった劇団だ。50歳を過ぎて、感性が鈍っていくことを警戒した蜷川が、自身を甘やかさないようにするために、若い俳優たちを集めてはじめた活動だった。

そこでの活動が、のちの傑作となる『夏の夜の夢』や『身毒丸』を生み出し、観客の心を射抜く鮮烈な”蜷川演出”のアイデアの数々を生み出した。蜷川と共に、30年近く一緒に演劇をつくってきて、遺作となった『尺には尺を』まで彼の作品に出続け、支え続けてきた俳優9人(飯田邦博、大石継太、岡田 正、新川將人、清家栄一、妹尾正文、塚本幸男、野辺富三、堀 文明〈50音順〉)と、常に傍らにいた演出助手の井上尊晶が中心となった公演は、蜷川イズムにあふれている。

かつて劇団公演やエチュード発表で行われた作品や、俳優たちがいつかやろうとあたためていた作品まで様々な、計7本のオムニバスで成る公演は、その作品の選び方、俳優の演技、装置、照明、音楽……すべてに蜷川幸雄の面影が浮かんでくるようだ。スタッフも、これまで蜷川と共に歩んだ者たちが、この企画に賛同して集結している。

蜷川の演劇というと、大バジェットで、スターが主役の派手なものという印象が強いが、その一方で、多彩な生活者たちの姿を描くことを大事にしていた。『NINAGAWA ・マクベス』ではお弁当を食べながらお芝居を観る老婆を舞台の端に据え、「鴉よ、おれたちは弾丸をこめる」でも、長年虐げられてきた女たちの姿を描いている。蜷川が得意としてきたシェイクスピア劇も、王様や貴族たちのほか、たくましく生きる民衆たちの描写に力を入れてきた。そういうところで力を発揮したのが、9人の俳優たちだ。

蜷川演劇に彼らあり。蜷川作品を観てきた人なら、必ず見知った俳優たちだ。

これまで長きに渡って、蜷川演劇を支えていた俳優たちが中心となった芝居を観ると、彼らがなぜ、長いこと蜷川作品に出続けていたのか、その意義がわかるものであり、ひとつひとつの作品を純粋に楽しむこともできるし、蜷川を失った彼らのそれぞれの想いを、どんな言葉よりも饒舌に感じることができるような気がしてならない。

それぞれの俳優の個性が生きる短編と中編が、”待つ”というテーマで不思議とリンクしていく面白さがある。

再度言おう。蜷川幸雄の不在を惜しみ、追悼したい観客は、『2017・待つ」を観るべきだ。

GEKISHYA NINAGAWA STUDIO 『2017・待つ』

2017年4月27日(木) 〜30日(日)、5月11(木) 〜5月14日(日)

出演:飯田邦博、井上尊晶、大石継太、岡田 正、新川將人、清家栄一、妹尾正文、塚本幸男、野辺富三、堀 文明(50音順)

さいたまゴールド・シアター、ネクスト・シアター(一部)

会場:彩の国さいたま芸術劇場 大稽古場

上演時間:3時間(第一部1時間30分/休憩15分/第二部1時間15分)。

チケット情報

当日券:各公演の開演1時間前よりNINAGAWA STUDIO(大稽古場)入口当日券売り場にて販売。

ニナガワ・スタジオに関するサイト〈ニナガワ・スタジオの人々〉

写真撮影:仲野慶吾

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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