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静岡にプロ野球チーム誕生へ。来季からファーム参加予定のハヤテ球団、山下大輔GMは「将来的に一軍も」

菊田康彦フリーランスライター
ハヤテ223の赤堀監督(左)と山下GM(右)。中央は静岡の難波市長(筆者撮影)

 野球王国──。清水エスパルス、ジュビロ磐田、藤枝MYFC、アスルクラロ沼津と県内に4つのJリーグクラブを抱え、実に数多くのプロサッカー選手を生み出してきた「サッカー王国」の静岡も、かつてはそう呼ばれていた。

 県下で生まれ育った筆者がまだ小学生だった1976年には、静岡にゆかりのあるプロ野球選手がオフの11月に静岡市の草薙球場に集合。「沢村栄治記念静岡オールスター・チャリティー戦」と銘打ったイベントが行われたこともある。

 1980年代終わりから2000年代半ばにかけてはパ・リーグオールスター東西対抗の舞台となり、21世紀に入ってもプロ野球公式戦、もしくはオープン戦が毎年開催されてきたその静岡に、ついにプロ野球チームが誕生することになった。来年からプロ野球(NPB)の二軍が球団数を増やすことになり、静岡を拠点として新規参加を申請していたハヤテ223(ふじさん)が、ウエスタン・リーグの新球団として内定したのである。

二軍のみのNPB球団誕生は74年ぶり

 現在のNPBは、一軍は全12球団がセ・パ両リーグに6球団ずつ分かれているが、二軍はその所在地によってイースタン・リーグ7球団、ウエスタン・リーグ5球団とどちらも奇数。それゆえに各リーグで常時、試合ができないチームが1つずつあったのだが、新球団の参加でこれが是正されることになる。

 イースタン・リーグへの参加が内定したのは、今シーズンまで独立リーグのBCリーグで活動していた新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ。ハヤテ223ともども一軍を持たない二軍のみの球団であり、同じような形でのプロ野球への参加は1950年から3シーズン存在した山陽クラウンズ以来74年ぶりになるという。

 NPBオーナー会議での正式決定を前に、代表付きゼネラルマネージャー(GM)に元横浜(現横浜DeNA)ベイスターズ監督の山下大輔氏、監督には元大阪近鉄バファローズ(現在のオリックス・バファローズの前身)の赤堀元之氏を据えたハヤテ球団だが、既にチームとして活動していた新潟と違って選手がいない。そこで11月3、4日に清水庵原球場でトライアウトを実施し、チームづくりの第一歩を踏み出した。

山下GM「ここは僕の生まれ故郷」、赤堀監督「静岡に恩返し」

「僕の生まれ故郷なんですね、ここは。本当に実家から近いところで、そこにプロ野球の球団が、二軍ですけども誕生するということで、大変光栄に思います」

 そう話したのは清水市(現静岡市清水区)で生まれ育ち、地元の清水東高から慶応大を経て入団した大洋ホエールズ(現在のDeNAの前身)でダイヤモンドグラブ賞(現ゴールデングラブ賞)を8年連続で獲得するなど、名遊撃手として鳴らした山下GMである。

「僕も静岡出身ですし、この新チームの監督に抜擢されましたので、本当に感激して嬉しく思っています。今まで(地元から)離れてましたので、静岡に戻ってきてこういうふうに恩返しできるってことは、本当に嬉しいと思っています」

 藤枝市出身で静岡高から近鉄入りし、抑え投手として最優秀救援投手5回、最優秀防御率1回に輝いた赤堀監督も、「地元愛」を強調した。

トライアウトには元ソフトバンク藤岡、今季まで日本ハムの井口らも

トライアウト2日目のシート打撃に登板した元ソフトバンク藤岡(筆者撮影)
トライアウト2日目のシート打撃に登板した元ソフトバンク藤岡(筆者撮影)

 トライアウトはこの2人のほか、駿東郡清水町出身で横浜高からベイスターズに入団し、2020年を最後に現役引退するまで16年間で通算1003安打を記録した石川雄洋氏もオブザーバーとして熱視線を送る中、2日間にわたって行われた。初日は独立リーグ、社会人野球の選手や、プロ野球志望届を提出しながらドラフト指名されなかった大学生、高校生など総勢96人が参加し、このうち約半数の49人が2日目の2次選考に進んだ。

 2日目のメインは、1人の投手が4人の打者とそれぞれカウント1-1から対戦する形式のシート打撃。2006年には福岡ソフトバンクホークスでルーキーながらパ・リーグ2位の31ホールドポイントをマークした藤岡好明(38歳)、今季まで北海道日本ハムファイターズ一筋8年で通算217試合に登板した井口和朋(29歳)ら、1次選考を免除された7人のNPB経験者が加わり、計56人でこの日の2次選考に臨んだ。

 ソフトバンクから日本ハム、DeNAと渡り歩いて一度は現役を引退し、2021年はDeNAの二軍投手コーチを務めながら、昨年から独立リーグ、九州アジアリーグの火の国サラマンダーズでコーチ兼任として現役復帰していた藤岡は、シート打撃の1番手でマウンドへ。先頭打者をライトフライに打ち取った後、2人目の打者に三塁打を許すも、後続を空振り三振、サードゴロと生還を許さなかった。

 10月に日本ハムから戦力外通告を受け、今月15日に開催される12球団合同トライアウトにも参加を予定している井口は、シート打撃後半の最初に登板すると2者から立て続けに空振り三振を奪い、残りの2人もセンターフライとファーストへのファウルフライ。打者4人をピシャリと抑えてみせた。

 2次選考にはこの2人以外にも、今季までDeNAに投手として在籍していた地元・静岡高出身の池谷蒼大(24歳)、2019年に読売ジャイアンツで育成から支配下登録されながらその年限りで戦力外となった投手の坂本工宜(29歳)、いずれも今季まで育成選手としてプレーしていた岡本直也(27歳、ソフトバンク投手)、辻垣高良(21歳、オリックス投手)、居谷匠真(20歳、ソフトバンク捕手)といったNPB経験者が参加した。

トライアウトで残るのは約20人、総勢40人前後で球団発足へ

 2日間のトライアウトを終え、山下GMは「実戦形式(シート打撃)もテストの中に入って、やっぱり実戦の中で良いものを出す選手、投げる方も打つ方もそういう選手を少しでも見られたので、良かったかなと思います」と話している。球団側の説明によれば、今回のトライアウトを経て契約までこぎ着ける選手は約20人。他のルートによる獲得も含め、40人前後の選手を集めて11月末から12月頭ぐらいには発表の運びになるという。

 果たしてこの新チームは、どんな球団になるのか。静岡市の難波喬司市長は「静岡市で誕生する球団ではありますけど、静岡県と静岡市とハヤテさん、3者で(包括連携)協定を結んでいますように、県の中で愛される球団、あるいはもっと山梨とか長野まで含めて、多くの地域の方から愛される球団になっていただきたいと思っています」と期待を込める。

 二軍のみの球団という位置づけにはなるが、山下GMは「将来的に一軍も作れるというようなことが、僕の個人的な考えですけども、そういうチームに将来的にはなってほしい。そういう思いもあって、いい加減な気持ちではできない、そういうチームだなという気持ちがあります」と夢を語る。

 その山下GMと「(選手の)育成を十分考えていきたいなと思ってます。その中で『勝つ』ということも考えながら、やっぱり地域のみんなと勝利を分かち合う、応援してもらえるようなチームを作ることが大事」という赤堀監督。難波市長の言葉を借りるなら「地域の誇り」である2人を先頭に、ファームとはいえかつての「野球王国」でいよいよプロ野球チームが産声を上げる。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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