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部屋のバルコニーから!温泉から! 日本ハムの新本拠地エスコンフィールド内のホテルで「究極の野球観戦」

菊田康彦フリーランスライター
エスコンフィールド内にある「タワーイレブンホテル」からの眺望(筆者撮影)

 野球場の中にあるホテルから生で試合を見る──。今から34年前に世界初の開閉式屋根付き球場としてオープンしたトロント・ブルージェイズの本拠地、スカイ・ドーム(現ロジャーズ・センター)の外野にホテルが併設されていると知って以来、それは筆者にとっての夢だった。

 それに近い体験をしたことはある(一生に一度の五輪を肌で感じたくて……ハマスタ「場外」から目撃した侍ジャパンの金メダル)が、これまでは叶わなかったその夢が、今年ついに実現した。ロジャーズ・センターのホテルではない。北海道北広島市にできた北海道日本ハムファイターズの新球場、エスコンフィールドHOKKAIDO(以下エスコンフィールド)内のホテルでのことだ。

全12室、レフトスタンド上部にあるホテル

タワーイレブンホテルはレフトスタンド上部にある。全12室のうちグラウンドに面しているのは8室(筆者撮影)
タワーイレブンホテルはレフトスタンド上部にある。全12室のうちグラウンドに面しているのは8室(筆者撮影)

 今年3月に開場したばかりのエスコンフィールドは、国内プロ野球で使用する球場としては7つ目の屋根付きであり、1993年に誕生した福岡ドーム(現福岡PayPayドーム)に次いで2番目の開閉式(可動式)屋根付き球場ということになる。この球場のレフトスタンド上部に併設されているのが、「tower eleven hotel(タワーイレブンホテル)」と名付けられた宿泊施設である。

 かつてオープン元年の福岡ドームに共に足を運んだ旧友と計画を立て、グラウンドを一望できる「フィールド・ビュー」の部屋を押さえることができたのは、8月23日の東北楽天ゴールデンイーグルスとの試合。当日は早めの飛行機で新千歳に飛び、電車とバスを乗り継いで13時のチェックインを目指して球場に向かった。

 車窓から見える外観はこれまでの日本の野球場とは大きく異なり、まさにメジャーリーグのボールパークのよう。バスを降りてレフト側のゲートから入場し「TOWER 11」という名の建物の4階に上がると、そこに全12室のホテルがある。ちなみに「TOWER 11」とはどちらも日本ハム時代に背番号11を着け、現在はメジャーリーグで活躍するダルビッシュ有(サンディエゴ・パドレス)と大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)に敬意を表して命名されたもの。1階には2人を描いた壁画があって、来場者にとって格好の撮影スポットになっている。

 ホテルの部屋はいくつかのタイプに分かれているが、ルームナンバーはどれも「11」。それぞれに違うコンセプトがあって、筆者たちが宿泊する部屋のドアには「BASEBALL ART」と書かれている。高鳴る気持ちを抑えながら室内へと歩を進め、ファイターズが勝利した後の円陣の様子を描いたアートの前を通り過ぎて、部屋の奥にある全面窓の扉からバルコニーに出る。目の前に広がる青空と緑の天然芝の美しさ。そして、それを見ているのがホテルの部屋からであることに感動する。プレーボールまではまだ5時間近くあったが、既に「夢」が叶ったような気分になった。

ホテルの階下には「世界初」の温泉・サウナ施設も

ホテルの1つ下の階にある「tower eleven onsen & sauna」(筆者撮影)
ホテルの1つ下の階にある「tower eleven onsen & sauna」(筆者撮影)

 バルコニーに置かれたザ・ノース・フェイス製のチェアに腰を下ろして、しばしファイターズの早出練習を眺め、その後は館内着に着替えて1つ下の3階に向かう。そこにあるのが世界初の球場内天然温泉・サウナ施設「tower eleven onsen & sauna」。ここには男女に分かれた「内湯」の他に「水着着用ゾーン」があって、水着を着ていれば男女を問わずにサウナ・水風呂・温泉、さらにバーゾーンも利用できる。

 この施設もグラウンドに面していて、料金を払えば一般客もそこから練習や試合を見ることが可能(観戦用の指定席もある)。温泉に浸かりながら、あるいはサウナでととのえながら生で野球を楽しむというのは、今のところこの球場でしか味わえない贅沢だ。

 宿泊には球場への入場権も含まれていて場内のショップ、飲食店などに入ることもできるので、せっかく北海道に来たのだからと、開放感あるテラス席を備えた店でジンギスカンを味わう。あとは部屋に戻ってバルコニーに食べ物、飲み物などを用意し、プレーボールを待つだけ。18時、マウンドに上がった日本ハム先発のコディ・ポンセが楽天の1番・村林一輝に第1球を投じ、長年の夢がついに実現した──。

バルコニーに“きつね”登場のサプライズ

 日頃は仕事として見ることがほとんどで、まず野球を楽しむということはないのだが、この日は取材に来たわけではない。バルコニーで時にチェアに腰を下ろし、時に柵にもたれて飲み食いをしながら、素晴らしいプレーには歓声を上げ、拍手を送る。時には部屋の中にあるソファーに寝転んで窓越しに試合を見るなど、さまざまな観戦スタイルを楽しんだ。

 4回表終了後には、ちょっとしたサプライズもあった。昨年は新語・流行語大賞でトップ10入りするなど、話題を呼んだ「きつねダンス」を踊るファイターズガールのうち、3人がホテルのバルコニーでこれを披露したのだ。聞けばこのダンスをバルコニーで踊るというのは、初の試みだったという。バルコニーは宿泊客のプライベート空間であり、事前にこちらで承諾をした上でのことなので実際には「サプライズ」ではないのだが、貴重な場面に立ち会うことができた。

 試合はというと、2回に打者一巡の猛攻で6点を挙げて一気に逆転した日本ハムが10対4で快勝。試合後は暗転した場内で無数のペンライトが揺れる勝利のセレモニーに始まり、王柏融(ワン・ボーロン)、郡司裕也、万波中正のヒーローインタビュー、その3人のグラウンド一周などもバルコニーで堪能し、試合前の練習中に閉じられていた屋根が開くところも、しっかりと拝ませてもらった。

 球場内では三塁側にある「七つ星横丁」などの飲食店が試合終了後も営業を続けていて、この日の閉館時間である22時半まで客で賑わっていた。そこで少し小腹を満たした後はもう一度、宿泊者のみ24時まで利用できる温泉・サウナへ。閉館時間を過ぎても芝のメンテナンス作業などが続くグラウンドを前にして、人気(ひとけ)の少なくなった温泉にゆっくりと身を沈めた。

この「究極の野球観戦」はプライスレス

深夜になり、人気のなくなった球場を眺めながら…(筆者撮影)
深夜になり、人気のなくなった球場を眺めながら…(筆者撮影)

 そろそろ日付が変わろうかという頃に部屋に戻り、またバルコニーに出る。気持ちのいい夜風に吹かれながら、なかなか消えない球場内の照明をいつまでも眺めていられるのは、宿泊客なればこそ。飲み物を片手になんとなく幸せな気分に浸っていると、米国アイオワ州のトウモロコシ畑につくられた野球場を舞台にした映画『フィールド・オブ・ドリームス』のセリフが頭に浮かんできた。

「Is this heaven?(ここは天国かい?)」

「No,it‘s Iowa(いや、アイオワだよ)」

 その日、野球好きにとって天国のような「ここ」は「北広島」だった。

 このホテルは試合のある日もない日も営業していて、公式予約サイトを見る限り、今シーズンの残りの試合開催日はすべて満室。試合のない日も、今月はほとんどが既に予約で埋まっている。料金は時期や曜日によっても異なり、試合のある日は一気に値段が跳ね上がるのだが、単に試合を見るだけではない、アミューズメントやエンターテインメントに彩られたこの「究極の野球観戦」は、旧友との時間も含めて筆者にとっては間違いなくプライスレスなものであった。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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