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パレードは「人生最高の時間」 ~バレンティンの故郷訪問記~

菊田康彦フリーランスライター

東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティン選手の故郷キュラソーに来て3日目の17日(日本時間18日)。この日は同選手の年間ホームラン日本新記録達成を祝うパレードが行われ、人口約15万人の島国が興奮と熱狂に包まれました。

空港のセレモニーでは熱狂的な歓迎を受けた
空港のセレモニーでは熱狂的な歓迎を受けた

ロックスターのような熱狂ぶり

同郷のアンドリュー・ジョーンズ選手(東北楽天)の所有する自家用機で"凱旋"したバレンティン選手が、待ち受ける大勢のファンの前に姿を現したのは、ちょうど時計の針が午後3時を指そうとした時。日本でもすっかり有名になった母親のアストリットさんと仲良く手をつないで出てくると、まずは空港内でのセレモニーで登壇しました。紙吹雪が舞い、派手なラテンミュージックが流れる中、壇上に登場した“主役”は赤いTシャツにリュックという、シーズン中と変わらない出で立ち(といってもTシャツは新記録達成を記念したもの。母親や一族の面々ともお揃いでした)。いつもと変わらない本人に対し、セレモニーに集まった人々の反応は、ロックスターを迎えるファンのような熱狂的なものでした。

パレードでは集まってきたファンに丁寧に対応
パレードでは集まってきたファンに丁寧に対応

そして、セレモニーが終わるといよいよ「本日のメインイベント」であるパレードの始まりです。空港を起点に、バレンティン選手もリトルリーグ時代にプレーしたというチリノ・ボールパークまで、総距離は43・5キロ。その道のりを、バレンティン選手の乗る赤のコルベットを先頭に、数台のクラシックカーで行進していきます。

パレードは途中、いくつかの地点で止まるのですが、最初のストップ地点である「サハラ・カジノ」前でも、バレンティン選手は多くのファンとの写真撮影やサインに丁寧に応じます。この辺りまではすべて順調に見えました。ところが…この日は交通規制のようなものがまったくなく、パレードを一目見ようと次から次へと車が集まってくるため、たちまち道路は大渋滞。パレードはなかなか前に進まなくなってしまいました。

沿道に並ぶ幸せそうな顔、顔

沿道で待つ間も人々の顔は笑顔でいっぱい
沿道で待つ間も人々の顔は笑顔でいっぱい

沿道では大勢の人々が、バレンティン選手のTシャツや小旗など思い思いのグッズで、主役の到着を今か今かと待ち構えています。ただし、いくらパレードが遅れてもイライラするようなところはなく、どの顔も笑顔また笑顔。みんな本当に幸せそうです。ココ(バレンティン選手の愛称)が故郷で誰からも愛されているのはもちろんですが、同時にこの国の人々のおおらかさを感じました。「島は小さいけれど、心は広い」とは、地元テレビ&ラジオの人気パーソナリティー、グレン・トーマス氏のセリフですが、まさにそのとおりでしょう。

結局、筆者たちはかなり先のストップ地点に先回りをして、パレードがやって来るのを待つことにしました。優に1時間は待ったでしょうか。ようやくバレンティン選手が到着して車から降りると、人々が殺到してやや収拾のつかない状態になりましたが、それでもまったくの無秩序にはならないのがこの島のいいところ。喧噪のなかでふいに後ろから抱きつかれ、振り返ってみるとバレンティン選手の母親のアストリットさんでした。日本でも何度かお会いし、こちらに来てからも一度お宅にお邪魔していたのですが、かなりアルコールも入っていつもよりも陽気なお母さん。息子が故郷に凱旋してこれだけの歓迎を受けているのですから、それもむべなるかな…ですね。

ついに「バレンティン通り」が正式に誕生した
ついに「バレンティン通り」が正式に誕生した

騒ぎも落ち着いたところで、改めてバレンティン選手に少し話を聞くことができました。空港や最初のストップ地点で話したときには、普段とまったく変わらない感じでしたが、この頃には少しテンションも上がっていて、パレードについてこんなふうに話してくれました。

「最高に楽しんでるよ。人生最高の時間だね。表現できないくらい特別なことだ」

「バレンティン通り」も誕生!

さらにこの後、バレンティン選手に新たな栄誉が。この日、生家にほど近い通りが正式に「カヤ・ウラディミール・R・R・“ココ”バレンティン」、つまり「バレンティン通り」と命名されました。設置されたばかりのプレートに、通りの名前の下に「2013年にHapon(日本)でホームラン王になる」という意味のことが書き添えられているのが、ちょっと嬉しかったりもします。ちなみにバレンティン選手は日本時間26日のプロ野球コンベンションに合わせて再来日の予定ですが、史上初となる最下位チームからのMVP選出にも大いに期待したいところです。

フリーランスライター

静岡県出身。小学4年生の時にTVで観たヤクルト対巨人戦がきっかけで、ほとんど興味のなかった野球にハマり、翌年秋にワールドシリーズをTV観戦したのを機にメジャーリーグの虜に。大学卒業後、地方公務員、英会話講師などを経てフリーライターに転身した。07年からスポーツナビに不定期でMLBなどのコラムを寄稿。04~08年は『スカパーMLBライブ』、16~17年は『スポナビライブMLB』に出演した。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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