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チーム事情に振り回されながらも守備位置変更を受け入れ続けるムーキー・ベッツの身体能力と滅私奉公精神

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
開幕直前で遊撃手にコンバートされたムーキー・ベッツ選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【開幕直前の二遊間入れ替えを決定したドジャース】

 すでに日本でも報じられているように、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は現地時間3月8日のレッズ戦開始前に、ムーキー・ベッツ選手とギャビン・ラックス選手の二遊間コンビの守備位置を入れ替えることを明らかにした。

 今回の決定は一時的なものではなく、同監督が「現時点で永続的」と話しているように、シーズン開幕以降も当面は両選手の守備位置を固定していくことになりそうだ。

 これまで右翼手として6度のゴールドグローブ賞を受賞し、チームの中心選手であるベッツ選手を、今シーズンから先発二塁手に専念させること自体がかなり異例ではあったが、そこからさらにマイナー時代を含め経験の浅い遊撃手へコンバートするのは異例中の異例といっていい。

 ベッツ選手はほとんど練習機会がないまま、ぶっつけ本番で3月20日から始まる韓国でのシーズン開幕に臨むことになる。どこまで新たな守備位置に対応できるのか注目されるところだ。

【マイナーとメジャーで遊撃経験はわずか30試合】

 今回の決断は、ある意味ドジャースにとってギャンブルのようなものだと考えている。

 今シーズンから先発遊撃手に固定する予定だったラックス選手がオープン戦で送球面に不安定さを露呈し、メディアからも不安視する声が挙がっていた。通常なら遊撃手として経験豊富なミゲル・ロハス選手やキケ・ヘルナンデス選手が控えており、彼らをラックス選手の代用とすることで対応できていただろう。

 だがドジャースはラックス選手の攻撃面での貢献度を重要視し、送球の負担が減り、彼が遊撃手より二塁手での出場機会が多かったことを考慮し、二塁に回すことを決定。その結果として、ベッツ選手を遊撃にコンバートせざるを得なくなったのだ。

 だからと言ってベッツ選手が、遊撃手として十分な実績を残しているわけではない。元々2011年にレッドソックスから内野手(高校時代は主に遊撃手)でドラフト指名を受けたが、2014年のシーズン途中で外野にコンバートされるまで主に二塁手を任されてきた。

 昨シーズン途中で控えを含め遊撃手が一時期いなくなり、急きょベッツ選手が16試合(うち先発出場12試合)だけ遊撃に入ったことがあるが、マイナーを含めプロ生活13年間で遊撃を任されたのはわずか30試合に止まっている。

 そんなベッツ選手がシーズン開幕目前で突如遊撃手にコンバートされたのだから、チーム内に混乱をもたらしてもおかしくない状況だ。

【ベッツ選手の身体能力と滅私奉公精神があってこそ】

 チームづくりというものは大抵主軸選手を中心にしながら編成していくものであり、そうした主軸選手たちは確固たるポジションが与えられる。ところがベッツ選手は誰もが認める主軸選手であるにもかかわらず、オフに決まった二塁手専念も、そして今回の遊撃手コンバートもチーム事情によるものだ。まさにベッツ選手は周りに振り回される格好になっている。

 しかも経験不足が否めない遊撃手を任されるということになれば、ベッツ選手が負うことになる負担やプレッシャーはより一層増す。それでもドジャースがギャンブルといってもいい決断をしたのは、ベッツ選手の類い稀な身体能力と滅私奉公精神を信頼しているからに他ならない。

 MLB屈指のオールラウンド選手としての確固たる地位を築いているだけでなく、プライベートでもボーリングやバスケ等でプロ並みの実力を誇る身体能力は、まさに球界随一とまでいわれている。そのため今回の遊撃手コンバートに関しても、MLBネットワークで解説者を務めるアンソニー・レッカー氏が「毎日でもムーキーが遊撃を守る姿を見たい」と歓迎しているほどだ。

 だが身体能力以上に注目すべきなのは、「チームが勝つためになら何でも受け入れる」というベッツ選手の滅私奉公精神だ。今回の遊撃手コンバートも以下のように話して、当然のごとく受け入れている。

 「皆が同じ方向を向いている。(遊撃手コンバートは)まったく気にしていない。とにかく勝ちたいだけだ。何百万回と言い続けているが、最も重要なことは勝つことであり、自分は勝ちたくしてしかたがない。どこのポジションを任されようが、ダイヤモンド(フィールド)に立つ限り、自分ができることに最善を尽くす」

 チームが勝つために何でもするという姿勢は、大谷翔平選手とかなり共通する部分がある。彼らのような滅私奉公精神の選手たちが中心にいる今シーズンのドジャースは、その結束力が簡単に揺るぐことはなさそうだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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